三十本目 王国の特級戦力
ドラウグ。
その魔物は本来、実態を持たない低級の魔物だ。故に、そのままであれば誰も気にすることのない存在だ。
――しかし、そんな魔物が脅威になることがある。
『グゲゲゲゲゲゲッ!!』
それが、『寄生』である。
『ドラウグ』は周囲の生物に寄生することで一気に脅威度が増すのだ。――具体的には、頭部の形状変化、宿主の巨大化、狂暴化の三点である。
特に、『オルスの奈落』に住み着く『ドラウグ』は蝙蝠に寄生することが非常に多く、冒険者の間では『オルスの奈落』に生息する人面蝙蝠のことを『ドラウグ』と呼称する。
『『グゲェッ!!』』
そんな人面蝙蝠の集団は、一斉に眼前のフランツへ音の塊——超音波を放つ。
「雑魚共が……!!」
フランツは無精髭の目立つ口元を歪めて、魔法を顕現させる。
「『
次の瞬間、詠唱を省略された風の弾丸が音波に当たり、大きく広がる。——そして風のカーテンが広がり、その他の超音波全てを遮ってしまった。
「さすが魔法師団の師団長だね」
その魔法を見ていたヘリオスは口を開く。
「詠唱破棄だけじゃなく、元の魔法を
「――だな。『魔法を三つしか使わない』と聞いた時にはふざけてると思ったが……」
ここまでの道中で交わした会話の中で、そんなことを聞いていたセレストは珍しくフランツの戦闘を真面目に観察していた。
「……あれだけ一つの魔法を自由自在に変えることが出来るなら……魔法の種類なんて関係ない」
後方から魔法を使い戦う『魔法使い』という立ち位置の人間は、立場上、あらゆる状況に対応できるように様々な魔法を使う。
しかし、フランツが使う魔法は
それでも、フランツの実力はこのパーティの中でも全く見劣りはしない。――その理由が彼の『想像力』だった。
あえて詠唱を省くことで魔法への想像の余地を残しておき、その場の状況に合わせて魔法のイメージを変えて対応する。
まさに
「お前らの肉は喰えたもんじゃぁ、ねぇだろうなぁ!!」
フランツは驚愕を見せる人面蝙蝠達に吐き捨てるように叫ぶと、先頭に居る『ドラウグ』を指さした。
「食い破れ——『
刹那――無数の風で形作られた巨大なイタチが出現し、
「全部食えよ?」
『グゲェ!?』
風神の如き速度でドラウグの群れを飲み込み——跡形もなく切り刻んだ。
「手ごたえねぇなぁ」
※ ※ ※
「でぁぁぁぁッ!!」
振り下ろされた爪を紙一重で回避し、その腕を大剣で両断する。
『グゥッ……!!』
「……」
後退するキメラを観察していたソフィアは目撃する。
『グルルルル……』
切断したはずのキメラの
———再生……否、魔物を取り込みすぎた故の細胞の異常増殖……
推察するソフィアは、冷静にキメラの全体へ視線を向ける。
———首の両脇に生えてる首は下層の『ワルグ』……背中に翼のように生える腕と頭はこれまた下層に居る『トロール』……
『キメラ』は他の魔物を取り込むことで強くなる魔物。――特に目の前の個体は、格上であるはずの下層に潜む邪狼『ワルグ』と蛮人『トロール』を取り込んでいた。
また、細胞の異常増殖を見るに、見た目以上に多くの魔物を取り込んでいるだろう。
「――なるほど、強化の過程で身に着けた知能で、掃討作戦時には息を潜めていたか。こざかしい奴め」
はっきり言えば
だが、それでもソフィアはキメラと真正面から向き合った。
「……だが、それもここまでだ」
一歩を踏み出すことで、階下に見えるキメラへ斬りかかる。――喰らえば頭部を縦に分断される一撃。
キメラはさらに後方に下がろうとするが……ソフィアの一撃は
『グルゥッッ!!?』
ソフィアの刃は下がりかけていたキメラの右目を大きく切り裂く。
思わずよろめくキメラは——しかし、右目を再生させながら、キメラは首の両端に生える狼の頭と背中に生える腕でソフィアを叩き潰そうとしてくる。
ソフィアはその様子を冷静に察知し――
「展開せよ――『
大剣を地面に突き刺し――ソフィアを中心に広がる劫炎の結界を展開する。
刹那――炎の結界に触れたキメラの全身が業火に焼かれて、キメラは猛烈な勢いで階段下へ落ちていく。
「……再生するならば」
コツコツと階段を下るソフィアは、静かに告げる。
「
宣言の後、ソフィアは深く腰を落とし――大剣を水平に構える。
「燃え尽きろ——
次の瞬間、ソフィアの大剣が激しく燃え盛り——
「これで終わりだ」
駆け出したソフィアがキメラの頭に大剣を振り下ろした瞬間――洞窟全体を揺らすほどの爆発と同時に天井を焦がすほどの炎の柱が立ち上った。
『グオオォォォォォォォォォッッ!!』
もだえ苦しむキメラの悲鳴はやがて止み——炎は魔物を一片の細胞に至るまで燃やし尽くした。
後に残るのはほんの少しの灰だけだった。
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