三十一本目 「我が深淵」
「ㇵァッ!!」
六メートルはある巨人『トロール』の頭を大剣で両断したソフィアは華麗に着地する。
「ホントにここまで二人で凌ぎ切ったね」
「――本番でバテなきゃいいがな」
「……大丈夫。二人とも疲労の色は薄い」
『オルスの奈落』
その入り口で『トロール』と燃え盛る魔物の狼『ワルグ』を仕留めたソフィアとフランツを横目に、一行は遂に『オルスフェンの魔剣』のある最下層までたどり着く。
「は~……ホント、無駄に長い道中だぜ全く」
現在地は階層の入り口。――暗闇のせいでまともに先すら見えない状態だが、フランツは肩を回しながら息を吐く。
「この後は、待機している先行部隊と共に後続部隊の到着を待ちつつ、小休止とする。―――落ち着かないだろうが、最後の休憩だ。しっかり休んで欲しい」
ソフィアは、フランツを半眼で見つめながらもこれからの予定をそれぞれに通達する。
「………………」
そんな中、ブランは一人暗闇の先————魔剣のある方向を見つめる。
「……どうしたんだブラン殿?」
ソフィアは黙り込むブランの様子が気になったのか、声をかける。
「うん……」
ブランはソフィアの言葉に意味のある言葉を返すことはせず、その場に立ち止まり——瞑目する。
「ブラン……?」
「――黙れヘリオス」
ブランの様子に、セレストも何かに気が付いたのかヘリオスへ言葉を飛ばす。
「……
その時、瞑目していたブランが初めて言葉を口にする。
「……おかしいって何がおかしい?」
金Ⅰ級のブランが口にする『不穏さ』を感じたのか、フランツも少し顔をしかめながら彼女の言葉を待つ。
「……この先に……先行部隊が居るんですよね……?」
「あ、あぁ……」
ソフィアへ先行部隊の存在を確認すると、ブランはもう一度瞑目し――やがて目を開く。
「……
人間がその場に居る以上、
ましてや『部隊』と呼べるほどの人間が集まればなおさらだ。
だというのに、一寸先も見えない暗闇の先からは、
「魔物にでも襲撃されたか……?」
「いや、ここまで来れる連中がその辺の魔物に殺されることはないだろ。――その程度の連中なら道中で死体が転がってる筈だ」
「じゃ、じゃあなんで……?」
「……」
ブランは斧槍を構え——ゆっくり、ゆっくりと暗闇の中を進む。
視界は黒一色。――光のすべてはブランの先を照らしてはくれない。
「……?」
その時、ブランは違和感を覚える。
強烈で……それでいてある意味、
「………………
「馬鹿な!?」
呟くようなブランの声に反応したのはソフィアだ。――彼女は暗闇の中を構わずブランに駆け寄り、地面へ膝を折る。
「本当に……ない……!? 一体なにが——」
「誰かが攻略したのか……?」
「ありえないですよ。――あの『七大禁域』ですよ?」
「……」
困惑するソフィア。――フランツもヘリオスも動揺を隠せずにいた。
ブランも表面上はいつもと変わらないが、彼女と同じく状況を把握できず、頭上の暗闇を見上げていた。
「……おい」
その時、近くで周囲を探っていたセレストが他のメンバーに声を掛けた。――ブランを先頭にソフィア達はセレストへ近づく。
「……どうしたのセレスト?」
「見ろコレ」
そこには——
「ば……馬鹿な……これ……は……」
「……
ソフィアは部下や自身が編成した隊の死体に驚愕を見せ、フランツは静かに瞑目する。
「
イライラを隠し切れないセレスト。隣のヘリオスも顎に手を当て、状況を考えているが——答えは出ないようだった。
———
先行部隊の一人、近くの遺体の近くでしゃがんだブランは、遺体の傷を確認する。
———この人は剣のような太刀筋で、一撃で殺されてる……あの人は首を跳ねられて、あの人は心臓を貫かれて……
共通するのは『武器による攻撃で死に至っている』こと。――それも傷口から察するに相当武器の扱いに長けているような人物だ。
———少なくとも魔物には殺されていない……
『人間』の犯行。――
「ようこソ。――
わざとらしい男の声が聞こえる。刹那――
「「「!!?」」」
「
コツ……コツ……と、暗闇の向こう側から現れるのは、
———
「……誰だテメェ」
「……」
女性のように長い黒髪の青年へ、敵意をむき出しにするセレストと、珍しく黙り込み相手を睨みつけるヘリオス。
「ンー……まぁ、お前らの敵……かナ?」
「ふざけるな……よくも部下を……!」
ゆっくりと立ち上がったソフィアは、背中の大剣に手を掛けて――静かに引き抜く。
「……報いは受けてもらう」
「いいねェ! ――これはまた手ごたえのありそうな奴らダ!!」
ソフィアの殺気を受けて、黒髪の青年は愉快そうに笑う。
「……待って」「待てソフィア」
そんなソフィアを、ブランとフランツは静止した。
「何故止める……!」
「馬鹿言え……あんな
「っ……!」
そう、金級……それらと肩を並べることが出来る彼ら・彼女らなら、多少なりとも魔力や練られた練気を感じることが出来る。
そして、往々にして戦う人間のほとんどは自身の力によって練られた練気を体内に循環させている。
こんな荒々しい
「……一つ聞きたい」
確信をもって、ブランは『人間ではない』青年に尋ねる。
「なんダ?」
「……さっき言ってた『出てきた』って……どうゆうこと?」
『あァん?』と怪訝そうな顔をする青年は、
「そのまんまの意味だヨ。――お前らの言う、
「……最悪」
その瞬間、ブランは全てを察する。
「自己紹介ダ」
同時に、青年は腰に差していた
「オレの名は『
——深淵が顕現した。
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