二十二本目 紅と熱気の魔剣域
「あーあ……あんな予感だけ、嫌に当たるんだから……」
「魔剣、観測したわ。――方角は東。距離は一キロ程度かしら。街の付近よ。今すぐ避難指示を」
『承知しました!』
パイプからは、先日、ロクでもない予感を共有した受付嬢の声が聞こえた。――普段のんびりしている彼女でも、こんな時にはハキハキと喋るらしい。
「
※ ※ ※
それが、『魔剣』だと気が付いた時には、もう遅かった。
「キイラ!!」
「先輩!!」
せいぜい俺達にできるのは、魔剣の中ではぐれないように互いの腕を持つことだけ。
次の瞬間、突き刺さった魔剣が、大地に次元の穴をあけて――――俺とキイラは
「クソっ!!」
最後に見たのは、燃えるように真っ赤な魔剣だった。
「あつッ……!」
最初に感じたのは、肌を覆う熱気。
次いで目を開ければ、眼下には、溶岩の噴き出す大地が広がっていた。
———これが……
ただの平原から人が近づけぬような領域に放り込まれ、脳内が危険信号を鳴らし続ける。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
すると、共に落下していたキイラから悲鳴が上がった。
「ッ! 来い白招来!!」
すぐに身体強化を使い、キイラを抱えて近くの崖へ着地する。
「大丈夫かキイラ!」
「は、はい……ダイジョブです……」
目を回しているが、目立った外傷のない後輩に安堵しつつ、俺は上空の『入り口』へ目を向ける。
———入り口の位置が高すぎる……
すぐに
———幸い、『入り口』は移動している……時間が経てば、脱出できる可能性は……ある
渦巻くように空いている、現実と
脱出に一縷の希望が持てたのと同時に、俺は、額から顎を伝って垂れる汗を拭う。
「先輩……この暑さ……長時間居ると……マジでヤバいです……!」
「だな……待てば、外に出られそうだが……待ってる間、生き残れる保証もないな……」
その時、
『『『ギュァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』』』
甲高い鳴き声が、
「なんだ!?」
「先輩、アレ!!」
キイラの指さす方向へ目を向けると、炎の翼を携えた魔物達が、一斉に次元の穴へ入っていく光景が確認できた。
「クソっ、
汗をぬぐい、状況を静観していると、不意に影が俺達を覆う。
「キイラ!!」
嫌な予感がした俺は、キイラを押して真横へ飛び込む。
『ギュアアアアアアアアア!!』
刹那―――炎を纏った鳥が地面を抉りながら、俺達が居たところを通過して行った。
―――外に出た群れから逸れて来たか……!
最近オークを倒せるようになった俺は、脅威度が不明瞭な魔物に襲われ、必死に悪態をつかないように踏ん張る。
「やるぞキイラ!! 遠距離攻撃、アテにしてるぞ!!」
「りょ、了解ですッ!!」
動揺が声に現れているキイラ。――この環境にも、想定外の出来事にも動揺するなという方が難しいだろう。
―――死んでも攻撃を通しちゃいけないな……
そんな後輩を、少しでも冷静な俺が守らなければならない。……だから、今一度覚悟を決める。
『ギュアアアアアアアアアッ』
すると、再び炎鳥の突撃。
「ッ!!」
咄嗟に盾で炎鳥の嘴を受け止める。
ガァンッ! という鈍い音が響き―――俺と炎鳥の力が拮抗する。
「あっちぃなクソっ!」
しかし、炎鳥は突撃しながら炎を纏う。受け止めた俺が無事で済むはずがない。
あまりの熱気に肌は焼けて……鉄製の盾は赤熱している。
金属製の盾で少し熱が伝わるのが遅れているが……時間の問題だ。
「っっっだァッ!!」
全身のバネを使い炎鳥の嘴を跳ね返し、俺は後方へ落ちる炎鳥へ接近を試みる。
「突き刺せ――
俺が接近する間、キイラの雷槍が炎鳥に突き刺さり、感電することで内部へダメージを与える。
「ナイスだっ!!」
なんてことはない。――キイラは、震える身体で……それでも戦った。
俺も負けて居られない。
「だぁァッ!!」
炎鳥の頭を串刺しにして、止めを刺した。
※ ※ ※
「すごい景色……」
「……だな。まるでこの世の終わりみたいな景色だ」
俺とキイラは炎鳥に襲われた後、周囲を見渡せる場所へ移動した。
小さな山のように隆起した場所だ。
眼前の崖からは赤熱した大地と、その大地の間を流れる溶岩が見える。
「
ちなみに、見上げた空には真っ黒な空に黒雲が漂っている。
だが、俺とキイラがこの見晴らしのいい高台に来たのは、何も景色を堪能するためじゃない。
「キイラ、景色はいいから、よく周りを見てくれ……」
「あっ、すいません!」
俺達の目的は一つ。
この
「……」
「……」
もちろん、戦うわけではない。
おそらく、街の近くに落下したこの魔剣には、すぐに冒険者がやってくる。――
その時、絶対に冒険者は
「居たか?」
「いえ……見つかりません……」
裏を返せば、
「クソ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
だが、
同時に、常に襲いかかる熱気が容赦なく体力を持っていく。
魔法職で体力のないキイラは、徐々にその呼吸を乱し始めている。
―――不味いか……
俺は一度、周囲を見渡すのをやめて、キイラの隣にしゃがむ。
「キイラ、水飲め」
「でも、それ……先輩の……」
「いいから」
自分の水筒を無理やりキイラの口に突っ込むと、容赦なく水を飲ませる。
「あ、ありがとうございます……」
「気にすんな。――それよか、一度入り口を見に行こう。外に出れるか確認するんだ」
「……わかりました」
そうして、二人して立ち上がった時だった。
地面が激しく揺れ始めた。
「ッ!?」
「……!?」
ゴゴゴッ……という低く、腹の奥を揺さぶる音が、嫌に神経を尖らせる。
キイラも俺も、この状況で、突然起きた地響きに表情を強張らせる。
そして、
『ギィィィィィィアアアアアアアアァァァァァァァ!!』
爬虫類のような甲高い方向と共に、一体の
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