人が幸せになるのに年齢は関係ない

春風秋雄

74歳の親父が再婚すると言い出した

日曜日の午前中から、いきなり俺のマンションに来たこの女性は、俺が淹れてあげたコーヒーに口もつけず、初対面の俺に対して、立て板に水のように話し続けた。

「というわけで、淳史さんからお父様に、うちの母との結婚は諦めるように言ってもらいたいのです」

目の前にいる土屋夕貴さんは、長い説明の後、そう言ってやっとぬるくなったコーヒーに口をつけた。

「夕貴さんは、うちの父にはもう会いましたか?」

「ええ、一度うちに来られました。事前に母からは何も聞かされておらず、会っていきなり君のお母さんと結婚しようと思うと言われて、驚きました」

「そうですか。私はまだあなたのお母さまにはお会いしてないのですよ」

「別に会う必要はないと思います。この話はもう終わりにさせるつもりですから」

「でも、二人は愛し合っているのでしょう?二人を引き離すのはかわいそうだと思いませんか?」

「引き離すとは言っていません。わざわざ籍を入れて、結婚という形式にこだわらなくても、良い友達でいればいいのじゃないかと思うのです。母は今年74歳です。あなたのお父様とは高校の同級生と言っていましたから、あなたのお父様も74歳でしょ?そんな年になって、結婚という形式にこだわる必要はないと思いませんか?」

「まあ、結婚に対しての価値観は人それぞれですからね。でもそういうことであれば、結婚という形式をとらなければ、一緒に住むことはやむを得ないと考えているということですか?」

夕貴さんは一瞬黙り込んだ。そして間を開けてから俺を真っすぐ見ながら言った。

「私としてはそれも反対です。あの年で結婚していない二人が同居するなんて、世間体が悪いです。でも、二人がどうしてもと言うなら仕方ないと思いますけど」

なるほど、そうすると、長々と結婚に反対する理由を言っていたが、この人が結婚に反対する一番の理由は相続の問題かもしれない。

「ひょっとして夕貴さんが一番懸念されているのは相続の問題ですか?」

夕貴さんが意表を突かれたような顔をして黙り込んだ。図星だったのかもしれない。

「まあ、それも懸念材料の一つですけど・・・」

しばらくして弱々しく夕貴さんがそう答えた。

「相続に関しては、事前に遺言状を作っておけば良いではないですか?父もあなたのお母さんの財産がほしいとは言わないと思いますよ」

「いくら遺言状を作っても、遺留分というのがあるじゃないですか」

「そしたら、遺留分に関しても相続放棄するという念書を書かせましょうか?」

「生前の遺留分に関する相続放棄は基本的にできないのです。裁判所で認めてもらえばできますが、認めてもらうには諸々の条件があります。その条件をクリアしていなければ念書を書いても意味のないものになる可能性が高いらしいです」

あらかじめ弁護士か誰かに相談してきたのだろう。そうか、生前の相続放棄は基本的にはできないのか。知らなかった。

「わかりました。じゃあ、とりあえず夕貴さんの意見を父に伝えてみます」

「念のため言っておきますけど、あくまでも反対しているのは相続の問題だけではないですからね。あの年になっての結婚となると世間体のこともありますし、何より、結婚生活というのは、一緒に暮らしてみなければわからないものです。少したってから離婚なんてことになったら、人生の最終章に汚点を残すことになります。そんなみじめな形で人生を終えるなんてことは、絶対にしてほしくないんです」

「よくわかりました。最後にひとつだけ質問してもいいですか?」

「何でしょう?」

「私はまだあなたのお母さんにお会いしてないですが、あなたとお母さんはよく似ているのですか?」

夕貴さんは何でそんなことを聞くのだろうと思ったのか、怪訝な顔をしていたが、素直に答えてくれた。

「自分ではよくわかりませんが、周りの人からはよく似ていると言われます」

そうか、俺と親父はやっぱり親子だな。夕貴さんは俺好みの美人だった。親父と女性の好みが似ているなんて、微妙な心境だった。


俺の名前は石塚淳史。48歳のバツイチ独身だ。俺の母親は俺が24歳の時に病気で他界した。それからずっと再婚せず独身を通してきた親父が、先週になっていきなり「俺結婚するから」と言ってきたのだ。俺は28歳の時に結婚したが、親父は俺の奥さんに気を使わせたくないと言って同居を拒み、俺たち夫婦は親父からの援助もあって新築マンションを購入して新居とした。ところが俺と妻は考え方が大きく異なっており、小さなことで喧嘩が絶えず、とうとう離婚してしまった。俺はマンションを売って実家に戻ろうとしたが、親父は同居していると再婚相手が見つからないぞと言って、俺が実家に戻ることを拒んだ。その頃は親父もまだ働いていたので、会社の同僚や友達と毎日のように飲み歩いて、食事に困ると言うことはなかったようだし、一人暮らしを楽しんでいたのかもしれない。親父は65歳で定年を迎えたが、会社から乞われて嘱託として70歳まで働いた。会社を辞めて、急に気が抜けたのだろう。それからの親父は元気がなかった。いわゆる引退後の喪失感だ。俺も再婚する年でもなくなったし、そろそろ俺が実家に戻るか、実家を売って親父にこのマンションに越してきてもらうか、とにかく親父を独りにしないようにしようと思っていたところだった。だから親父が結婚すると言うのは、俺としては賛成だった。

相手の土屋恵美子さんは、親父の高校時代の同級生だったということだ。昨年の同窓会に再開し、親父が「高校時代は土屋さんのことが好きだった」と告白すると、土屋さんも「私も石塚君のことが好きだった」と言われ、連絡先を交換したらしい。

土屋さんのところは、夕貴さんが幼い頃に旦那さんを事故で亡くし、美容師だった土屋さんが女手一つで夕貴さんを育てたと言うことだった。夕貴さんが高校生のときに独立して旦那さんが残してくれた家をリフォームして自宅兼店舗の美容室を造り、今では夕貴さんも美容師として働いていて、結構人気のある美容室らしい。将来は夕貴さんがその美容室を継ぐことになるだろうから、相続問題というのは切実なのかもしれない。ちなみに夕貴さんは俺と同い年で、結婚歴はないということだった。


2週間後の日曜日に、再び夕貴さんが家に来た。

「おたくの美容室は日曜休みではないのでしょ?お店を抜け出してきて大丈夫なのですか?」

「今日は予約がそれほど入っていませんので大丈夫です。それに日曜日でないと、淳史さんにお会いしてお話ができないでしょ?」

「夜なら平日でもいますよ」

「先週の月曜日に、夜来てみましたけど、いらっしゃらなかったようでした」

先週の月曜日?そうか、会社の同僚と飲みに行っていたんだ。

「それで、今日は?」

「お父様にちゃんと言っていただけました?」

「一応言うには言ってみましたけど、相続なんか心配しなくてもいい。それより恵美子さんより先に俺がくたばるからって言っていました」

「そうですよ。もしうちの母より先に石塚さんの方が亡くなったらどうなさるのですか?結婚してしまったらうちの母が石塚さんの財産の半分を相続するのですよ?」

「私はべつに親父の財産なんかあてにしていませんから、気にしなくていいです。それどころか、親父はすべての財産を恵美子さんに譲るといって遺言を残すかもしれませんよ」

夕貴さんが黙り込んでしまった。

「夕貴さん、親父は恵美子さんの財産のことなんか、何も考えていないですよ。ましてや美容室を相続したって、何もメリットないじゃないですか。親父は私に財産を残そうなんて考えていませんし、今では私の方が親父より財産があると思いますよ」

「今はそうかもしれませんが、先々はどうなるかわからないじゃないですか」

「まあ、人の人生はどう変わるかわかりませんけど、親父もあの年ですし、年金もそれなりにもらっているようですし、お金に執着はないと思いますよ。最悪は私が親父を養うくらいの稼ぎはありますから」

夕貴さんは返答に困っているようだった。

「ここは二人の思うようにさせてあげませんか?」

俺がそう言うと、夕貴さんは急に泣きそうな顔になった。そして、やっと口を開いた。

「とにかく、私が反対しているのは相続の問題だけではないので、もう一度淳史さんからも説得してください。また状況を聞きに来ます」

夕貴さんはそう言って帰ろうとした。

「ちょっと待ってください。今度来るときは事前に連絡してくれれば平日の夜でも構いませんので、連絡先を交換しておきましょう」

夕貴さんは俺との連絡先交換はあまり気が進まないようだったが、しぶしぶスマホを取り出した。


親父に夕貴さんの二度目の訪問を伝えると、電話の向こうで親父は困り果てていた。できたら夕貴さんにも祝福してもらって結婚したいと思うのは当然のことだろう。親父からは逆に「淳史から夕貴さんを説得してくれ」と頼まれてしまった。


美容室の休みは月曜日だと聞いていたので、翌週の月曜日に俺は夕貴さんを食事に誘った。夕貴さんからは「何か進展がありましたか?」と聞かれたが、それは会ってから話しますと返事をし、待ち合わせの時間と場所を提示した。


予約していた日本料理の店の個室で先に待っていると、待ち合わせ時間の5分前に店に来た夕貴さんは、座るなり俺に聞いた。

「何か進展はありましたか?」

「まあ、とりあえず何か飲み物を注文して下さい。料理はコースで頼んでありますから」

グラスビールを2つ注文して一口飲んだあと、俺はゆっくり話し出した。

「夕貴さん、親父たちの決心は固いようです。私たちがどれだけ反対しても、あの二人は結婚するでしょう。だったら、子供である私たちとしては、二人が幸せになるように応援してあげるべきではないですか?」

夕貴さんは黙ってグラスビールを飲みほした。俺はあわてて呼び鈴を鳴らし、お代わりのビールを注文する。

夕貴さんはしばらく黙って目の前の料理を食べていたが、不意にぽつりと「わかっているんです」と言った。俺は次の言葉を待って、夕貴さんをジッと見ているが、次の言葉は発せられず、黙々と料理を食べている。ときたま「これ美味しいですね」とか、「この料理、何をかけているんだろう」といった、料理に関する感想を言うだけで、親の結婚についての話は一切しない。

コース料理の最後のデザートを食べ終えて、夕貴さんが笑顔で「美味しかったです」と言った。

「喜んでもらえてよかったです」

「この店はよく来られるのですか?」

「接待でたまに使う程度です」

「今日は私を接待してくれたのですか?」

「夕貴さんのような綺麗な女性を誘うのですから、下手な店には連れていけませんからね」

「営業トークがお上手ですね」

「本心です」

「じゃあ、遠慮なくここはご馳走になりますので、もう一軒付き合ってもらえませんか?そこは私が出しますので」


夕貴さんが連れていってくれたところは、女性が好みそうなバーだった。カウンターに並んで腰かけて、飲み物をオーダーしたところで夕貴さんが話し出した。

「母は、父が亡くなってから、自分の幸せのことは考えず私を育てることだけに人生を費やしてくれました。子供の頃は母の帰りが遅く、一人で夕食を食べる日々で、寂しくて母に反抗して困らせたこともありました。でも、高校生になって、今の店が出来た時から、母が働く姿を目の当たりに見るようになって、それまで反抗していたことが申し訳なくなったんです」

お酒が運ばれてきて、軽くグラスを合わせる。夕貴さんは一口飲んでから話を続けた。

「母はいつも私より早く起きて、店の準備をして従業員が来るのを待って、夜は従業員が帰ったあと、掃除や道具の手入れをして、仕事が終わって2階に上がってくるのはいつも9時を過ぎていました。外で働いているときはそんなことわかりませんでしたけど、私が寂しいと思っていた時間に、母はそうやって一生懸命働いてくれていたのだと初めて知りました。それを見てからは、いつかは母に恩返ししなければいけないと思ってきたのです」

俺の母親はパートで働きに出てはいたけれど、俺に寂しい思いをさせたことはなかった。あまりにも逝くのは早かったが、それでも俺は夕貴さんに比べれば幸せだったのかもしれない。

「母を助けたいと思って、美容師の専門学校へ行きました。卒業して母の店で働くようになって、ますます仕事の大変さ、お金を稼ぐということの難しさを知りました。私には兄弟がいません。母の老後は私が面倒見なければいけない。それがせめてもの母への恩返しだと思いました。だから結婚はしないと決めたのです。そりゃあ若い頃は恋の一つや二つはしました。結婚しようと言ってくれた人もいました。でも私の結婚の条件は、うちに一緒に住んでくれることでしたので、それを言うと、みんな私のもとを去っていきました」

夕貴さんがこの美貌で結婚していなかったのは、そういうことだったのか。

「母からは結婚しろ、結婚しろと、ずっと言われていましたけどね。あなたの花嫁姿を見たいんだって。相手がいないことには結婚は出来ないよって、いつも答えていました。さすがに40歳を過ぎてからは言わなくなりましたけど」

「夕貴さんの花嫁姿は綺麗でしょうからね」

夕貴さんは俺の方を向いて照れたように笑った。

「結婚への憧れがなかったわけではないです。でも、それよりも母への恩返しを優先したというところです」

夕貴さんはゆっくりグラスを傾けて、俺の顔を見ず、話を続けた。

「石塚さんが母の財産をどうにかしようなんて考える人でないことは、一目会ったときにわかっていました」

俺は「え?」と思って、夕貴さんの方を見た。

「とても優しそうな、良い人だなと思いました。この人なら母を幸せにしてくれるだろうとも思いました」

「だったら、どうして?」

「母は70歳になったのを機に、鋏を置きました。それまでも老眼が進んで、細かいカットがうまくできなくなったと言ってはいたのですが、何よりずっと立っているのが辛くなったそうです。それからはたまに若い人へアドバイスや指導をしてもらう程度で、お店にはほとんど出なくなりました。私は母にこれからは自分のために時間を使ってと言いました。すると、働き出してから一度も出たことがなかった同窓会に出ると言ってくれたのです。同窓会って日曜日とか祭日とかに開催されるので、うちの仕事をやっていると出られなかったのですね。同窓会から帰ってきた母は、今まで見たこともないような笑顔だった。よほど楽しかったんだろうなと思いました。高校時代に好きだった人に55年越しに告白されたって、少女のように喜んでいた」

それがうちの親父ということか。それほど喜んでもらえていたのか。

「それから母は度々出かけるようになりました。石塚さんも仕事を引退していると言うことで、二人とも時間だけはありましたからね」

親父は今日も恵美子さんと横浜中華街へ行くと言っていた。

「私は良い友達が出来て良かったね。と、その程度に考えていたのです。母は石塚さんと会った日は、石塚さんはとても優しい人で、こんなことをしてくれた、こんなことを言っていたと、惚気るように言っていました。そして、1年くらいして、母が突然石塚さんを家に連れて来て、石塚さんと結婚したい、この家を出て石塚さんの家で一緒に暮らすと言い出して、驚きました。え?どういうこと?私はあなたの老後の面倒をみるために結婚も諦めて、この年までここで暮らしてきたのよ。それを今さら、たった1年前にポッと出てきた人に母を奪われるの?って、思ってしまったのです」

そうか、そういうことだったのか。

「そんなのは、私の勝手な思い込みで、母はそんなことは望んでいなかったかもしれません。でも、取り残された私はどうなるの?て思うと、とてもやりきれなくて・・・」

夕貴さんはその後の言葉は続かず、おしぼりで目頭を押さえた。

俺は夕貴さんの背中に手を回し、ゆっくりと背中をさすってあげた。

しばらくして、夕貴さんが落ち着いたようだったので、静かに話しかけることにした。

「夕貴さんがお母さんにしてあげられる恩返しは、老後の面倒をみるだけではないですよ。お母さんを幸せにしてあげることは何よりもの恩返しじゃないですか?そして、夕貴さんがいままで頑張って美容室を手伝って、お母さんが仕事しなくても生活できるようにしてあげたからこそ、うちの親父との出会いもあったのではないですか?」

「そうですね」

「あの二人がどこまで長生きするのかはわかりません。でも基本的に女性の方が寿命は長いようですので、うちの親父が先に逝ってしまう可能性が高いかもしれません。そのときこそ、お母さんの面倒をみるのは夕貴さんです。そして、二人とも長生きしたとすれば、二人の面倒を見なければならないことになります。その時は私も一緒になってあの二人の面倒をみますよ」

「淳史さんって、お父様に似て優しいのですね」

「私は母親似で、親父には似てないと思いますけどね」

女性の好みは親父と似ているとは言えなかった。


親父たちは、さすがにあの年なので、結婚式は挙げないが、籍だけ入れることにした。俺たちは4人でそのお祝いをした。現状は恵美子さんの通い婚のような形で、美容室のある家と親父の家を行ったり来たりしているようだった。俺はお袋の位牌がある実家では恵美子さんが気を使うのではないかと思い、自分のマンションを明けるので、ここに住まないかと提案すると、親父は乗り気だったが恵美子さんが淳史さんに申し訳ないと遠慮しているようで、その話は保留になっている。

夕貴さんはあの日以来、毎週月曜日になると俺を飲みに誘ってきた。俺は喜んでそれに付き合った。その日は美容室の近くに新しくイタリアンレストランが出来たので行ってみようということになった。初めて美容室の近くに来たが、そこは俺のマンションから電車で20分程度のところだった。美容室へは実家より俺のマンションからの方がはるかに近かった。やはり親父たち夫婦は俺のマンションに住むべきだと思った。

「母が家にいないことが多くなって、寂しくなると思っていたのですけど、淳史さんがこうやって付き合ってくれるので、なんとか寂しさをごまかすことができています」

「私も、最近は毎週月曜日を楽しみにしていますよ」

食事の後夕貴さんが、せっかくだから美容室を見ていきますかと言うので、ついていくことにした。

「良い店ですね。私も今度からここでカットしてもらおうかな」

「是非そうしてください。私が淳史さんに似合うカットをしてあげますよ」

夕貴さんは嬉しそうにそう言った。

夕貴さんに誘われるまま2階にあがった。通されたのはリビングだった。

「いまコーヒーでも淹れますね」

夕貴さんがそう言って台所へ立つ。俺はその後ろから夕貴さんを抱きしめた。一瞬ビクッとした夕貴さんが、俺の腕の中でゆっくりと振り返り、俺の方を向いた。目を合わせた瞬間に俺は唇を合わせた。夕貴さんもそれに応える。唇を離すと夕貴さんが恥ずかしそうに言った。

「あっちの、寝室へ行きましょう」


夕貴さんは20年以上そういう行為はしていなかったということで、最初は苦労したが、何とかひとつになれた。行為が終わったあとは、お互い息を切らして汗だくだった。

「この年になって、またこんなことが出来るなんて、思ってもみなかった」

「夕貴さんは、自分が思っているより、見た目も体も、ずっと若いですよ」

しばらく沈黙が続いた後、俺は思い切って言ってみた。

「マンションを親父たち夫婦に明け渡して、ここに引っ越してきてもいいですか?」

「ここにですか?」

「恵美子さんは、俺に気兼ねしてマンションへ引っ越すことを遠慮しているのです。でも俺が夕貴さんと一緒に暮らすためにここに引っ越すと言えば、遠慮はしなくなると思うのです」

「確かにそうですね」

「それに、夕貴さんと結婚する条件は、ここに一緒に住むことでしたよね?だから、私はここに一緒に住みたいのです」

「それって・・・」

「結婚しましょう」

「まさか、私まで結婚できるとは思ってもみなかった。母たちはびっくりするでしょうね」

「私が夕貴さんと結婚したがっていることは、親父はもう知っていますよ」

「そうなのですか?お父様は何か言っていました?」

「親子だな、女性の好みが似ていると言っていました」

「何ですかそれ?」

夕貴さんはそう言って笑いながら俺に抱きついてきた。その笑った顔の目からは涙がこぼれていた。

夕貴さんの肩をしっかり抱きながら、人が幸せになるのに、年齢は関係ないと思わずにはいられなかった。

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