第5話 治霊院 2
「話を治療に戻そうか。どうぞ続けて」
治療の話から治霊院の話にズレてきていたので、治療の話題に戻す。
「ええと、二日はここで過ごしてもらうわけですが、自由にしてもらって問題ありません。ただし一般病棟と東区画には入らないでください」
「どうして?」
「霊力者とわかると勧誘されるからです」
「オカルト対策課に所属が決定しているよね」
そうだと知らないから勧誘されるのかなと蓮司は思う。
「治霊院は表も裏も関係なく受け入れる場所なんです。だから所属が決まったばかりで組織に愛着なんかがないと、引き抜こうとする勢力はあります。そういったところと接触しないように政府所属霊能力者と裏関連の霊能力者と一般人の病棟はわけているんです」
その決まりがあるため、連絡を受けた蓮司の祖母が見舞いに来ることもできないのだ。
家族の見舞いまで制限するのはやりすぎではないかなと蓮司は思うが、家族を人質にとって言うことを聞かせてこようとする者もいるため、家族の安全のためにも接近は禁じていた。
ただし裏社会に属するという危険人物たちがルールを守るのかと蓮司は疑問を抱いて、ルールを無視しないのかと聞く。
「治霊院の中では守ります。そうしないとここを使えなくなりますから。治霊院という場所は、オカルト治療に関して国内随一なのですよ。でも退院したら関係ありません」
顔を覚えられると退院してから接触されるため、そうならないように分けているのだ。
蓮司がいる霊能力者病棟西区画は政府所属の霊能力者が入れられるところだ。
「西区画だけで過ごせばいいんだね、わかった」
「娯楽室にはテレビやBlu-ray、漫画に雑誌、ちょっとした遊具があるから、暇つぶしはいくらでもできるわ。二日だけなら退屈することもないでしょう。先輩になる霊能力者たちもいるし、今後のために話を聞くのもありよ」
「あ、そうだ。祖母に連絡を入れたいんだけど、それは大丈夫?」
「ここでスマホを使って大丈夫なので、あとで連絡を入れるといいと思いますよ」
ほかには食事や風呂の時間といったこと、次の治療時間、今食欲はあるかといったことを話して終わる。
すぐに食事が運ばれてくると言って瑠璃と智が去っていき、蓮司はスマホを取り出す。
時間は二十一時。まだ祖母は起きている時間で、祖母のスマホに連絡を入れる。すぐに繋がった。
『蓮司かい!』
「そうだよ。心配かけてごめん」
向こうで祖母がほっとしたような大きな溜息を吐いた。
『本当に、ただでさえ短い寿命が縮まる思いだよ。こうして連絡を入れたということは無事なんだね』
「うん、治療してもらって体はもうどこも痛くない。あとは魂の治療だって言っていたよ」
『適切な治療を受けられるならいいんだ。場所は治霊院だって聞いているけど本当かい』
「そうらしい。あと二日はこっちで治療を受ける必要があるってさ」
『しっかりと治療してもらいな。着替えとか持っていけたらよかったんだけど、できないと言われてね』
「入れる人を制限しているみたい。着替えとかもこっちで準備してもらえたから大丈夫」
霊能力者になったことは直接会ってから話すことにして祖母との連絡を終えて、次に丸岡にメールを送る。
何度か心配する連絡が入っていたのだ。
『事故にあって入院している』と送ると、すぐに『大丈夫なのか』と返ってきた。それに大丈夫と返し約束を破ったことを詫びて連絡を終えた。次にバイト先にも入院している旨を伝えておいた。
そのあとは運ばれてきた食事をとり、風呂に入って、ベッドに横になる。
次の治療は朝なので、もう寝ることにした。
夢をみることもなく熟睡した翌朝、朝食をとった蓮司は瑠璃に治療を受けて、娯楽室に向かう。
そこは聞いていたように漫画や雑誌が置かれた棚やテレビやダーツ台などがあった。
先客が一人いて、ソファに座りテレビのニュースを見ていた。
娯楽室に入った蓮司に気付いて振り返ってくる。四十歳手前の男だ。胴体を怪我しているようで襟の下に包帯が見える。
「おはよう」
「おはようございます。ちょっと話を聞きたいんですけど大丈夫ですか」
「大丈夫だ。なにを聞きたいんだい」
男はテレビの音声を小さくしながら言ってくる。
「俺は霊力に目覚めたばかりでして、オカルト対策課というところに入るらしいんですよ。そこがどんなところなのか、そもそも霊能力者がどんなことをするのか知らなくて、話を聞いてみたいと思ったんです」
「なるほど」
隣を勧められて、蓮司は座る。
互いに自己紹介して、男の名前は大田原翼だとわかる。
「まずはオカルト対策課についてだ。霊能力者を使って各地のオカルト事件を解決する政府所属の組織だ。各地に支部があり、それぞれでやり方が異なる。君はどこの県出身かな」
蓮司が出身県を答えると翼は頷く。
「俺とは所属する支部が違うから、君が所属する支部のことは教えられない」
「どうして違うってわかるんですか」
「それは俺の出身県が違うからさ。霊能力者は現在暮らしている県で働くことになる。まあこの県の支部にひどい噂を聞いたことがないから、滅茶苦茶な扱いをされることはないだろうさ」
彼がここに入院しているのは、治霊院が各県にはなく各地方に一つだけだからだ。地元には治霊院がないため、近場のここに入院している。
「おそらくでいいのなら、君の今後はこうなるだろうと推測できるが聞くかね」
「はい、お願いします」
「まず座学と基本を教えられる。いきなり現場に放り込むようなことはしない。霊力に覚醒したとはいえ、素人を放り込んだところで場を荒らすだけだからな。その次は県警に行くことになると思う」
「県警? なんでですか」
勉強と基本を終えたら、先輩に付き添われて現場かなと蓮司は思っていた。
「いくつか理由があるんだ。まず初心者につきっきりで教えられる人的余裕がオカルト対策課にはない。どこの支部も霊能力者は十人前後。大なり小なりオカルト事件が頻繁に起きて、出動することになるんだ。それの解決に数日から月単位で拘束されることもある。いろいろと人手を取られて、教育に回ることができない。だから引退した霊能力者がいる県警に行って、基礎を教わる。どこの県警もオカルト部というものがあって、そこの教官として引退した霊能力者がいるんだ」
「オカルト対策課と県警のオカルト部はどんな違いがあるんでしょう」
「明確な違いがある。オカルト対策課は高度なオカルト事件を担当し、オカルト部は規模の小さなオカルト事件を担当する」
その違いは所属する霊能力者の強弱だと翼は語る。
「霊能力者には一級から五級までの区別がある」
「あー、治療のときにちらっと聞きました。二級が各地に支援に行けるとかなんとか」
「そうだな。一級は日本に五人だけ。二級は約百人。三級は約千人。四級は約五百人。五級は各県に約百人といった感じにわけられる」
「俺は霊力に目覚めたばかりだから五級ですね」
違うと翼は首を振った。
「四級だ。五級は正確には霊能力者とは言えないんだ」
「どういったふうに区別しているんですか?」
「一般人の霊力量を10とすると、霊能力者と認められる最低限の霊力量は25から。五級は10以上25以下の霊力量を持つ者たちなんだ。25という数値にもちゃんと意味がある。霊能力者と認められる条件は霊力量と霊力質度と霊能力の三つ。五級はそのうち二つが足りていない」
霊力量が足りていないのはすでに翼が述べている。
霊的質度は0から3まであり、一般人は0、五級と四級が1、三級と二級が2、一級が3で分けられると翼が説明し、詳細は訓練するときに聞くといいと語った。
「霊能力は道具使い、式使い、術使い、肉体強化、異能の五系統にわけられる。四級以上の霊能力者はメインとサブで二つの霊能力を持つんだ。この霊能力が発現するための条件が霊力量25以上だ」
「五級は霊能力を持っていないということですか」
「そうだな。訓練でどうにかメインだけは取得できるんだが、その効果は四級と比べても半減している。あと取得できる霊能力も道具使いか肉体強化だけだ」
「未熟というか未完成というか、そんな印象を受けます」
百年前には五級は存在しなかったと翼は言う。
ではいつ五級が生まれたのかというと、高度経済成長の時期だ。
当時は日本という国が成長する一方で公害も増加していた。
その公害による被害を受けたのは人間だけではなかった。妖怪や精霊や神も被害を受けたのだ。
それによって妖怪は報復し、精霊と神は土地の守護を放棄した。
土地が守られなくなってオカルトへの防衛力が低下し、オカルト被害が増加。
人的方面とオカルト方面で公害対策が急ピッチで進められたが、オカルト被害の増加を止めることはできず、当時の霊能力者では人手が足りなくなった。
オカルト事件が多すぎるため、疲労が溜まって倒れる者もでてくる始末。ただでさえ足りない人手がさらに減るという悪循環だったのだ。
そこで霊能力者を増やすためあれこれ行われたことの一つに、五級霊能力者区分の創設というものがあった。
「当時は国が五級霊能力者に相当する者を集めて、対オカルト班という組織を立ち上げた。対霊装備を与えて力の弱い悪霊や妖怪への対応を行わせたんだ。それによって霊能力者たちの仕事量が減って、十分な余裕を持つことができた」
「五級霊能力者たちの役割は霊能力者が大きな事件に対応できるようにすることですか」
「そうだ」
「でも仕事が落ち着いたのなら、今はもう必要ない区分なんじゃないですかね」
翼は首を横に振った。
「精霊や神に謝って再度守護してもらおうとしたが、現代でも土地の守護を放棄したままというのは珍しくない。だからオカルトへの防衛力は若干上がった程度で五級霊能力者の仕事はなくなっていないんだ。ちなみに対オカルト班は警察と合流し、今ではオカルト部と名乗るようになっているぞ」
「あー、オカルト部は規模の小さな事件を担当とさっき言ってましたね」
県警にあるオカルト部はそうやってできたんだなと蓮司は歴史を感じた。
国がやったことはほかにもあるのだが、それは非人道的なものもあり若い蓮司に聞かせるようなものではないだろうと、翼は口に出すことをしなかった。
それに関した事件も起きていて、気持ちのよい話ではないのだ。
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