第3話 幕間『毛糸』

       ◇

「うーん」

 楚唄は百円均一ショップの店内でひとり、頭を抱えていた。

 その手には、金色に輝くかぎ針が、数本。

「これ、何号があればいいんですかね? ぜんぜんわかりませんよお」

 うあー、とうなり、すみません、と、近くにいた女のひとに声をかける。

 黒髪のロングヘア。

 きれいだなあ、とは思いつつも、すっ、と一瞬で興味をなくす。

 事務的な微笑みを顔に浮かべて、尋ねる。

「好きなひとに、マフラーを編みたいんです。これって、どの針を買えばいいんですか?」

「は、はい」

 女のひとは数歩下がって、楚唄を見上げる。

 背ぇ高ッ、という小さな呟きが、楚唄の耳には、はっきりと聞こえていた。

(まあ、潔良くんよりは大きいですけれど。……そんなに驚かれるとは)

 店内を見渡す。

 たしかに、自分より背の低いひとが、ほとんどだった。

(潔良くんはたぶん、ちっちゃめの部類ですねえ。かわいいなあ)

 指先がぴくり、と動く。

 それを見られるのがなんとなく嫌で、楚唄はそっと、正直な人差し指を、反対の手でくるむ。

「え、っと。まず、どの毛糸で編むのかで、決まるんですよね」

 つっかえながら、女のひとは、自分の手に持っていた毛糸を指した。

 いろんな毛色の混ざった、なんとなくシックな色合いのものだった。

「このラベルの裏。――ほら、ここに、かぎ針だったら何号、棒針だったら何号推奨です、って、書いてあるんですよ」

 該当箇所を手で示す。

 図といっしょに表記されていたので、うとい彼にもさすがに、意味しているところが理解できた。

 おおー、と、納得したような声を上げる。

「ありがとうございます。じゃあ、そうして探してみますねえ」

「いえいえ。編み物の本も買っておいたら、きっと上手に編めると思います。がんばってくださいね」

 女のひとが小走りに去っていくのを見届けて、親切なひとだったなあ、と、ふわふわした声でこぼす。

「あれも確かにお洒落しゃれですねえ。でも、編むの大変そう。……とりあえず、一通り見てから考えますか」

 にこにことしながら、毛糸のならぶ棚の前に移動する。

 種々雑多しゅじゅざったなそれらを興味深そうに眺めていた目が、ある一点でぴたり、と止まる。

「……良いですね。これ」

 それはふわふわとした、毛足の長いファーヤーンだった。

 茶色い毛糸に巻かれたラベルには、

『編みぐるみづくり、ポンポンづくりに』

と、ポップな文字が躍っている。

「潔良くんっぽくて、良いですね。でも、髪の毛とあいまって、目立たないかもなあ。うーん」

 滑った目が、その隣に向く。

「黒がある! これにしましょう」

 うれしそうに、その毛糸をかごにそっと、大切なものをあつかうように入れる。

「待っててくださいね、潔良くん!」

 後日、かぎ針を持った彼が全身ぐるぐる巻きになりながら毛糸と格闘するのは、また別のお話。

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