第22話
言葉を失う花梨。当然のように頷く大将。満足そうに笑うナーナ。表情を崩さないシュウ。じっと花梨を見る父。
「死刑なんてあまりにもひどすぎる……」
「シュウの言うことが本当ならば、花梨のこの二人と会って1日程度。そんな友達とも言えないやつらと一緒にいるな」
「友達だよ――」
「友達なわけないだろう? たったの1日で、友達ができることはありえない。そんなもの、偽物だ」
「――しろよ」
「は?」
「撤回しろよ!」
花梨はそんな大声のした方を見て、目を見開く。こんな低い声を出すのは大将だと思った――もっとも、大将はこんな言葉遣いをすることは思ってもないが――けど、そんな声を出したのはナーナだった。
いつもヘラヘラ笑っているナーナが、苛立ちの表情を表に出している。表情では満足できないのか、声までに、苛立ちを混ぜている。
「『友達』の定義なんて誰も知ったこっちゃねえ。でもそんなことを、たかが王であるてめえが決めるんじゃねえ!」
立ち上がって、それでいて、父の胸ぐらを掴むナーナ。こればっかりには、シュウも驚きを隠せずにいた。
「貴様――」
「友達に時間は関係ない! 何があっても、心を通わせられるのが友達だ! あたしは、あたしと花梨と大将を友達じゃないといったお前を一生許さない!」
花梨は驚いた。大将と戦ったときもそうだが、『友達』に対するナーナのこの執着はなんだ?
「『友達』のことを偽物だと言ったお前に、友達がてきることなんて、あり得ねえよ!」
「ナーナッ!」
花梨はナーナを親父から引き剥がす。
「ナーナ、落ち着いて」
「ナーナ、お前、死刑だぞ。王に向かってそんなこと言ったからな」
「たとえ王に向かってでも、本音を言えただけであたしは充分だ。殺せ」
「馬鹿言わないでよ! 親父、間に受けないで――」
「1時間後だ」
「お、意外と早い」
「ちょっと! 勝手に話を進めないでよ! 大将もなにか言ってよ!」
「花梨さん、落ち着いてください」
大将の言葉に花梨は口をつぐむ。
「あの、5日間くれませんか?」
「それで何をする」
「『たから』を探してきます。それでいいでしょうか」
その声に、その場にいた全員が息を呑む。
「『たから』は伝説だ。どうせ見つからない」
「しかも『たから』は中央山にあるんだよ?」
「中央山と言えば……、コドリでもここから1日はかかりますね」
「しかも中央山の標高は4000㍍だろ? そこから探すとなっても、時間どんだけかかるんだよ」
一息おいて、みんなからいろいろと批判を浴びても、大将は首を横に振らない。
「5日後、『たから』を持って帰ってきたらナーナの死刑を免除してください」
「大将、勝手に決めるんじゃねえ」
「ナーナこそ、勝手に決めないでください」
「ははっ、いいだろう! その勝負にのった!」
「大将、親父の好みよく知ってるね」
花梨はそう、大将にかけるが本人は首をかしげただけだった。
「好み、とは」
「親父、『走れメロス』大好きなんだよねー」
「なるほど」
大将は深く頷いた。
シュウは、さっきまでとは違う、安心したため息を吐いた。
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