第21話

 父の目線がナーナから花梨へといく。

「じゃあなんて呼べばいいんだ? 恥しかないだろ?」

「だから――」

「自己紹介、してもいいですか?」大将が言う。「大将といいます。人買いです」

「なっ!」

「大将まで……」

 少なくとも花梨は、二人の正体は潜伏したほうがいいと思っていた。そのほうが親父との衝突も少なくなるし、話も早く進むと考えたからだ。

「いい加減にしろ、花梨!」

 ドン! と力強く、父は机を叩く。

「怒らせちゃったじゃん」

 と、小声でナーナに言えば、

「そっちのほうが本気で話せるだろ」

 と、小声で返され、花梨は肩をすくめる。その会話を聞いたシュウは、また小さくため息を吐く。

「花梨、友達は選べと言ったはずだ、なのになんでこんなやつらと――」

「あたし、花梨の友達じゃないし。御家人だから」

「屁理屈を言うな、ナーナ! 御家人でも同じだ。人を見る目がなさすぎる!」

「人柄で判断して、花梨がいいって思ったらかあたしが御家人になってんの。あんた、人柄とか見てないだろ。家柄で判断してるだろ」

「人柄って、ナーナ、お前は強盗だ。それも人柄に入るだろ!?」

「たしかにな」

「でもっ!」花梨は声を荒げる。「ナーナにもナーナなりの理由があって――」

「関係ないよ」

 花梨の必死の言い訳を、ナーナ自身が鋭い声で遮る。

「事情を説明したいけど……、ここは親父さんの出番かな」

「花梨。例え話をしよう」

 ナーナの目線の先で、父が喋りだす。

「ある人が金の欲しさのあまり、人を殺した。花梨はどう処罰する?」

「それはもちろん、死刑でしょ。法律でもそうなっている」

 父は満足そうに頷く。

「じゃあ次だ。少年がいる。家族がいない、明日生きていけるかも定かではない少年だ。その少年は金の欲しさのあまりに人を殺した。花梨はそいつをどう処罰する?」

「そんな」

「もちろん、死刑だ。でも花梨は、理由が理由だから、無罪にする。違うか?」

「だって、可哀想じゃない。家族がいなくて、お金が欲しかったんだから」

「それは前者の人でも同じことだ。どちらも金が欲しくて人を殺した。花梨は、理由だけで、罪の大きさを変えるのか。王に『可哀想』という感情はいらない。だから」

 そこで父は言葉をきる。

「ナーナも大将も、当然死刑だ」

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