第7話

「危なすぎるよ!」

「そういう花梨のほうが危ないんだって!」

「ていうかみんなを助けなきゃ!」

 すだれによってよくは見えないけれど、馬車の中に人がいるのは明らかだった。

「何いってんだよ! 今はそれどころじゃねえの! あいつらは他の国のどこかに行くんだ、いつでも連れ戻せる! 今は自分の命だろ!」

「でも!」

「でもじゃねえ! これが、今できる最良の手段なんだ!」

 ナーナの迫力に花梨は押し負ける。花梨からしたら、国王だから今全員を救いたいという気持ちが大きいのかもしれないが、ナーナがしているのは、『自分たちのため』だという、悪く言えば欲望が大きい方法だった。

「っ!」

 その時、鋭い刃が花梨の頬をかすった。そいつは、花梨が適当に倒していった敵とは違う、威圧感みたいなものを周りに纏っていた。

「攻撃中止!」

 そいつが叫ぶとみんなが攻撃を止める。そして、ナーナも花梨の側による。

「お嬢さん、いい顔立ちですね」

 ニヤリ、とそいつは笑った。

「売ったら何円になるんでしょうか?」

「っいや!」

「やめろ!」

 ナーナが花梨の前に来て、花梨をかばう。

「お嬢さんもいいですねえ」

「気持ち悪っ」

 ナーナはそいつに堂々と言い放った。

「ばっ! その御方は軍の大将だぞ!? 口を改めよ!」

 1人の戦士が言う。

「よい。なかなか言うな、この俺に向かって。舌を掻っ切ろうか」

「やれるもんならやってみろよこの野郎が」

 自然と、ナーナの太刀を持っている方の手に力が入る。そして大将と呼ばれたその男はナーナに向かって剣を向ける。

「ナーナッ!」

 花梨が叫んだのと同時に、ナーナが大将の腕を斬った。

 なんの音もなかった。スッ、とかグサ、とかそういう音はいっさいしなかった。そう思えるぐらい、ナーナの動作はごく自然だった。無駄な動作なんてナーナの中には存在しなかった。いや、存在することでさえ、許されていなかった。

「チッ!」

 大将はすぐに後ろへ下がる。

「ナーナ!」

「花梨、戻れ。リンに乗れ」

「ナーナは?」

「ここにリンを呼んだとしても時間的に1人しか乗れねえ。なら花梨が行くべきだ」

「ナーナはどうすんの?」

「あたしはここに残って、もう1回隙間を作るから、そのときに乗る。行け。時間がもうない」

「それは――」

「じゃあはっきりという」ナーナは花梨の言葉を遮る。「足手まといだ」

 そう言ったナーナの顔は苦しそうだったけど、前を向いていたから花梨にはそれはただの『拒絶』にしか聞こえなかった。

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