第2話 典型的ないじめっことの対立イベント

 『スク水だらけのマリンレース』


 前世の記憶でこのゲームをプレイしていた記憶はわずかしかない。

 一応ストーリーのようなものは存在していた記憶がある。

 主人公は元マリンレースのトップアスリートで大会を何度も優勝したことがある実力者だったが、ケガを理由に引退。松葉づえ生活を余儀なくされて腐っていたところにメインヒロインであるムツミ・ホージョーと出会い、彼女にマリンレースの可能性を感じてそのコーチに回り育てていくというストーリーではあるのだが……。

 そのどちらも俺ではない。

 せっかくそんなゲーム世界に転生した俺ではあるのだが、主人公でもメインヒロインでもなく、転生したのはモブの女の子———サクヤ・ビンテッド。

 なんでこんな冴えないキャラクターに転生してしまったんだとトホホと肩を落として歩いていると、隣を歩くツバキ・ヤイバが心配そうにこちらの顔を覗き込む。


「どうしたの? サクヤちゃん何だかさえない顔しているけれども」

「え? ああ、なんでもねぇよ」

「〝ねぇよ〟……? どうしたの、そんな男の子みたいな言葉遣いで、何か怒ってるの?」

「あ、いや、なんでもないよ何でも!」


 口調が原作のキャラクターと違うことで違和感を持たれてしまったが、そもそもこのサクヤと言うキャラクターの口調を覚えていない。

 本当のこのキャラクターは中途半端なキャラクターで喋ることはあるにはあるのだが、どうでもいいことしか言わない、やんややんやとはやし立てるか解説のようなことしか言わない。

 そんな物語の進行役のようなキャラクターで名前が合ってありがたいと思うようなモブキャラクターなのだ。

 一方で隣を歩くツバキはがっつりとメインキャラ、もといサブヒロイン。

 おとなしいお姉さんキャラで主人公を優しく包んでくれるタイプ。

 胸はDカップとその手のお姉さんキャラとしては小さい方だが、この世界はスク水のキャラクターばかり出てくる世界のため、その程度に収まる。

 スクール水着には巨乳は似合わない。

 現に俺が歩いている道の脇に歩いている女性徒たちも皆スクール水着だ。

 しかも一様に貧乳だ。

 やはりスクール水着にはつるぺたが似合う。


 そんなことを思っていると———、


「危ない!」


 突然、ツバキに手を引かれる。


 ばしゃあ!


 先ほど俺がいた場所に水しぶきが飛び、石畳の地面の上を濡らす。


 ———何だ⁉


「ごめんなさい!」


 そう言って通り過ぎていくは、水路を行く【水上ボートアクアトレック】。

 俺のすぐそばの水路を高速で走り抜けたゆえに水しぶきが飛散ってしまったのだ。


「急いでいたの!」


 【アクアトレック】の座席に座る、オレンジの髪を靡かせる少女が、ハンドルから手を離して謝罪する。


「びっくりしたぁ……大丈夫? サクヤちゃん」

「あ、あぁ……」


 あれが———【アクアトレック】……。


 超小型回転核融合駆動———アクアドライブ搭載の高速移動水上ボート。


 そのボディの各部には未来的な光の直線的なラインが走っており、それがアクアドライブがしっかり駆動している証しを示す。

 そしてそのボートの何よりの特徴が前後部に付けられている車輪タイヤである。

 実際はそれはタイヤと言うよりは水車のように回転式の水を吸い上げる組み上げ機の役割を果たし、その車輪タイヤの回転によって水を吸い上げられて、内部のアクアドライブに水を運び、エネルギーと化している。

 そういう仕組みなので、【アクアトレック】の外見は、ボートというよりもバイクに近い。


 ———水上を走るバイク。


 それこそが【アクアトレック】の外見上の姿だった。


「実際になまでこの目で見ると、凄い光景だな……」

「何言ってるの? いつも乗ってるでしょ? だって私たちは海賊を取り締まる水上警察アクアポリスを目指してるアクアヶ丘生徒なんだから」


 そうなのだ。

 アクアヶ丘高校の人間がどうして常にスクール水着を着て、【アクアトレック】に乗る訓練を日夜しているのかというと、【アクアトレック】に乗って海をかけ、悪党と言う名の海賊を成敗する正義の味方———水上警察アクアポリスを養成する学校だからだ。


「立派な水上警察アクアポリスになって悪を成敗しないとね」


 そう言って敬礼するツバキに対して俺は苦笑しながら返礼をする。。

 と、そんなこんなでもうすぐアクアヶ丘高校の校門へと辿り着くと言うその時———、


「オ~ッホッホッホッ‼ オ~ッホッホッホッ‼」


 高笑いが聞こえた。

 声の聞こえる方向を見やれば、どうやら校門の前でトラブルが発生しているらしかった。

 校門には、【アクアトレック】の訓練校宜しく外から内部へ運河が引いてあり、それはいくつもあった。

 その中の一つに接した通路の一つで、真ん中がべっこりとへこまされた赤い【アクアトレック】とその前に立ち高笑いをしている金髪ロールのお嬢様っぽい娘とピンク色の髪の女の子がいた。

 どちらもスクール水着を着ている。当然だ。制服なのだから。


「う……うぅ……ひどい、こんなのって……」


 ピンクの髪の子は泣いていた。


「オ~ッホッホッホッホッ!」


 金髪ロールの高笑いしている女の子の目の前で四つん這いになって涙を地面に落としていた。


「私の【アクアトレック】を壊すなんて……家族のなけなしのお金で買ってもらった大切な【アクアトレック】だったのに……!」

「そんなものでわたくしの【ゴールデンゴージャス】の前を走るからいけないのですわ!」 


 ふとみやれば、彼女たちの横にはキンキラリンに輝く趣味の悪い【アクアトレック】が停めてある。どうやらそちらはあの金髪ロールの【アクアトレック】でどうやら衝突事故を起こしてしまったようだ。


「後ろからぶつかってきたのはそっちなのに……!」


 ピンクの髪の子が悔しそうに言う。

「おだまりなさ~い。遅い上に弱いそちらが悪いんですのよ。【アクアトレック】使いであれば、後ろから接近してくる私に気づいて避けるなり、反撃するなりすればよかったじゃないですか。それができないからって私のせいにしないでくださる?」

 双方の言い分を聞く限りは、金髪ロールの女の子が悪いようだ。

 だが、ピンク髪の子の方はろくに反論する言葉を持たず、ただただ悔しそうにしている。

 その上、彼女たちの周りの通りすがりの人間たちも目を伏せたり、遠巻きにひそひそ話すだけで助け舟を出そうともしていない。

 何ともムカムカする光景だった。


「……早く行こ。サクヤちゃん」


 トントンとツバキが俺の肩を叩く。


「どうして?」

「あの金色の【アクアトレック】を持っている子。【アクアトレック】販売の有名メーカー・KUJOのお嬢様だよ。この高校にも多額の寄付金を収めてる。だから目を付けられたらどんな目に合うかわからない」


 そうか、だから他の子たちは目を逸らしているのか。

 というか、思い出した。

 この光景は原作ゲーム『スク水だらけのマリンレース』の冒頭の光景だ。

 ピンク髪の女の子が金髪ロールにいじめられているのが原作ゲームの通りにあり、そこを颯爽と助けに通りかかるのが主人公の役目だ。 

 男の、本来の主人公の役目だ。

 だが、そんな奴は今、ここの何処にもいない。

 見渡してもそのエロゲ主人公らしき少年は何処にもいない。よくいる前髪で顔を隠しているような少年は何処にもいない。 

 だから———、


「あ! サクヤちゃん!」


 俺が行くことにした。


「おい、お前」

「お前ぇ?」


 金髪ロールのお嬢様に話しかけると彼女はかなり不愉快そうに眉をひそ めた。


「随分と下品で乱暴そうな女ですわね。生まれが知れますわよ」

「あ、いや……ンンッ! ちょっとあんた! そこの女の子、泣いているじゃない!」


 うわ~気持ち悪~……。

 女の体に転生してしまったから仕方がないと腹をくくって女口調を使ってみたが、自分がそのように振舞っていることに激しい違和感を覚える。

 だけど、これからもう慣れていくしかない。


「泣いていますけど? それがあなたに何の関係があるのかしら?」


 フフンと金髪ロールが笑う。


「不愉快なのよ。人の物を壊して謝りもせずに高笑いをして。一言この娘に謝って」

「謝ってってあなたには関係ないでしょう? 横からしゃしゃり出てきて何様のつもりなんですの?」

「私が何者であろうと関係ない。不愉快なものは不愉快なの。人が涙を流しているのに、何もしない薄情者にはなりたくないのよ」

「へぇ~……」


 金髪ロールが俺に興味を持ったように目を細めた。


「でも、だから何だと言うんです? 所詮はあなたも無力な人間。何もできないでしょう?」

「いいや、あなたに謝らせることができる。力づくでも」


 俺は彼女に向けて指を突き立てて———宣言した。


「決闘よ」

「決闘?」

「あなたさっき自分で言ったじゃない。遅くて弱い方が悪いって。だったら、私の方があなたより速くて強いんなら———私の方が正しいってことでしょう?」

「なるほど———この私に、このゴクジョウ・クジョウにアクアレースを挑もうというわけですわね?」

「ああ———俺……もとい、私が勝ったらこの子に謝ってもらう」


 ピンク髪の子は俺をまるで英雄を見るかのように見上げてていた。

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