第一話

 車で数分のところにある神社へ到着し、邪魔にならないところへと車を止めて境内に入る。

 最初に神社でお参りをしてから、箒など掃除用具が置いてある場所へと向かい、境内の掃き掃除を始めた。

 あまり人が来ることのない神社は独特な雰囲気が漂っている。

 定期的に掃除されているとはいえ、落ち葉がそこら中に散らばっていて、全部を掃き終えるのになかなか骨が折れそうだ。

 一応小さい頃は友達とここで遊んだりしていたけど、中学高校に進級していくごとに学校生活が忙しくなり、年に一度の初詣くらいで来なくなった。

 それでもなんとなくこの場所にくると、昔の思い出が蘇って懐かしくなってしまうのは愛着のある場所なんだろう。


 まあ、昔遊ばせてもらったし、出来る限りは綺麗にしておくか。


 そう考えて俺は気合いを入れて掃除を続けた。

 そして、ようやく境内の掃き掃除が終わり、額に滲んだ汗をタオルで拭いて、箒を片付けて帰ろうと鳥居へと向かう。


「ん? なんか霧が……」


 境内を歩いていると、突然視界に霧が立ち込めてきて困惑してしまう。


 天気もいいし、そもそもさっきまで霧なんか出るような感じじゃなかったのに……。

 とりあえず霧が濃くなる前に早く家に帰ろ。

 流石に霧の中運転できるほど慣れてないし。


 そう思って歩く速度を速めようとする。


「……はぁ!?」


 速めようとしたのだが、いきなり周りの霧がじんわりと赤く染まっていき、つい足を止めてしまった。


 なになに!? 怪奇現象!?


 流石に怖くなって辺りを見回す。


「……っ!? なんで空が……」


 赤黒い霧の向こう側に見える青空は見る影もなく、この霧の色をもっと濃くしたような、真っ赤な血の色に変わっていた。


「ヤバいヤバいヤバい! なんかの災害が起こる前兆なのか!?」


 早く帰らないと!


 俺は急いで鳥居に向かって走り出す。

 数秒もかからずに鳥居へと到着し、ノンストップで鳥居を潜って階段を降りようとした。

 しかし、俺の足は階段を数歩降りたところで止まってしまう。

 それは何故か。


「……なんだよ、あれ」


 そう。階段の下から、この世の物とは思えない、異形の化け物が階段をのそのそと上がってきていたのだ。


「う、うわぁぁぁぁぁああああああ!!」


 情けなく悲鳴を上げて、もう一度境内へと戻る。


 あれはヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!

 捕まったら殺される……っ!!


 直感でそのことが分かり、俺は身を隠す場所を探した。

 しかし、ここは神社の境内。

 身を隠せるほどの建物は存在しなかった。

 唯一本殿の中以外は。


「……っごめんなさい!」


 俺は罰当たり極まりないとは思いながら、土足で本殿へと上がる。

 古い木でできた本殿は、俺の重みで軋む音を立てる。


 どこか隠れる場所、隠れる場所は……。

 あ、あそこは隠れられないか!?


 俺が目指した先は御神体が祀られている場所。


 あそこの鍵が開いていれば……!!


 俺は化け物が階段を昇り切る前にとギシギシと軋む本殿を走った。


 頼む。開いててくれ!!


 そう願いながら、俺は扉に手を掛けた。

 すると、本当に鍵が掛かっていなかったのか、簡単にその扉が開いた。


「なんだこれ……。刀?」


 扉の先に祀られていたのは、御神体ではなく、刀が一本。

 ただそれだけだった。

 木の鞘に収まっているそれは、この禍々しい空間の中でただ唯一、神聖な雰囲気を纏っていた。

 もし化け物に見つかったら、これを使ってなんとかできるんじゃないか?

 正直神社に祀られているものを武器として使うのはバチが当たりそうで怖くもあるけれど、背に腹は代えられん。

 念のために一礼してから、俺はその刀を手に取って中に入り扉を閉めた。

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