第54話 英雄《ヴィクター》と怪物《ブレイン》の死闘②
——消えかけていた
暴れる魔力は、まるで意思を持ったかのように四肢を駆け巡り、崩れかけていた左腕、左脚の神経や筋組織に、黄金の雷光が迸る。
砕け、裂け、原形を失っていた左腕と左脚があった場所から、もはや肉体の再生ではなく、純粋な黄金の雷光そのものが、腕と脚の形を成して再構築されていく。
それは、物理法則を超越し、ヴィクターの魂が現実を書き換える“奇跡”そのもので——。
痛みは無かった。代わりに身体の隅々までを雷が走り、全感覚が黄金色に塗り潰されていく。まるでこの世界のすべてが、自分の意志一つで動かせるかのような、奇妙な全能感が胸を満たす。
《偽英雄》の名は、今この瞬間に剥がれ落ちた。
『
——ヴィクターは、その一瞬の隙を見逃さない。
『あぁ——今なら、なんでもできる気がする。俺が思い描くイメージのままに——』
左腕の雷光が一閃し、戦場に転がる砕けた剣、折れた槍、金属鎧の破片、あらゆる「鉄」が、雷磁の力に吸い寄せられるように宙へと浮かび上がる。
「――
命令のような一言と共に、数百の金属片が重力を忘れ、ヴィクターの周囲を渦のように旋回し始める。その様は、まさに死を纏う衛星群。空気がうなりを上げ、雷の弧が次々と鉄の破片を横切る。まさしく、これから始まる一方的な蹂躙を予告する、死の鉄の嵐のようで。
それを見た
「――
——次の瞬間。
爆ぜる音。
裂ける空気。
時間が引き裂かれたかのような錯覚。
超高密度の鉄の雨が、無慈悲に、容赦なく、四方八方から
「giiiiiihhhhh!!!」
貫かれた
しかし、四方八方から休みなく、そして予測不能なタイミングで襲い来る鉄の嵐に、その防御はまるで追いつかない。その黒い身体に、次々と剣や金属片が突き刺さり、黒い体液を撒き散らしバランスを崩し倒れ込む。
「gigyaggjmjgg…!!!!!」
「そう。——お前なら当然そうするよな」
ヴィクターはそれを読んでいた。
電磁力で操作された金属片が、彼の前面で瞬時に分厚い「盾」を形成し、その衝撃波を完全に防ぎきる。
「——何発もバカスカ撃って来やがって。とりあえず左腕と左脚は潰せた。これでお相子だ。クソが」
そう悪態を吐きつつもヴィクターは手を一切休めない。
周囲を素早く見渡す。そして——。
「……みつけた」
一瞬の内に倒壊した建物の下から、二本の鉄骨を雷磁で引き寄せる。
左右に平行に固定されたそれは、まるで巨大な砲身の“レール”そのもので。
さらにその間に、先程の攻撃で変形した鉄の塊を、過熱し、再構築し、まるで“砲弾”のように挟み込んだ。
その姿はまさしく、
初めて見る異様な構築に、
ヴィクターは、そんな
「……物理法則の一つに“ローレンツ力”ってのがある」
雷光を帯びた左腕を掲げ、ヴィクターは講義のように語る。
その場にそぐわない、ヴィクターの問いかけに、
「まあ、お前のその気色悪い深淵産の粘土をこねて作ったような小さな頭じゃ、逆立ちしたって理解できないだろうけど——」
ヴィクターは、その雷光の左腕をゆっくりと掲げる。
「さぁ――その
ヴィクターは、その二本の鉄骨――即席のレールに、自らの
「――『
——ッッ轟!!!!!!!!!!
雷光の奔流を纏った鉄塊がとんでもない轟音を残して射出された。
空気が引き裂かれ、衝撃波が爆発的に広がる。超音速の金属塊が、
その巨体の下半身に関しては、存在したという痕跡すら残さず完全に消し去り、残った上半身はフロントライン砦の南門がある方角へと、凄まじい勢いで数百メートルほど吹き飛ばしていく。そして、吹き飛ばされた
◆
崩落した南門へと吹き飛ばされたはずの
しかし。
なおも瓦礫を掻き分けて出てくる災厄。
「gghhaaaa……gjjgh……!!」
瓦礫を突き破るようにして、黒く濁った触手が何本も空へと伸び上がる。砕け、焼かれ、削がれたはずの肉塊が、執念のような意思で再び身を起こした。
「gggghhhhhaa……gggh…!!!!」
その肉塊は、触手の構造を強引に翼のように変質させ、空を目指して這い上がってくる。
——飛ぶ。腐肉の翼で。
「……あれでまだ動けるのか……しつこいにも程がある」
吹き飛ばした
圧倒的な殺意——ただ、それだけ。
ヴィクターが睨む先、深淵の瘴気が再び立ち上り、
——もはや形などどうでもいい。
抵抗すら“生存本能”で成り立っているだけの、なりふり構わぬ暴走のように見えて——。
直後、空間が軋む。
「gyagagaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ブレインは雄叫びと共に、
ヴィクターのそばの地上、斜め、空中、前後左右、あらゆる方向へと無秩序に展開される内破の嵐。
それはもはや魔法というよりも、空間そのものを破壊するただの暴力のよう。
だが——
ヴィクターはその全てを見切っていた。
雷光が疾る。真空の爆心を紙一重で回避しながら、瓦礫を蹴り、大地を裂き、爆風の渦をすり抜ける。その手には、すでに第二のレールガンの構築が完成していた。
並列する鉄骨。
軌道を固定した電磁列。
その中に、今度は巨大な金属板を重ねて溶接した、より重い質量弾が装填されていた。
「——第二射目だ」
左右に並べた鉄骨の“レール”。その間に、先ほどの何倍もの重さと密度を持つ金属塊が、雷を纏って固定される。
磁場が唸りを上げ、空気が震える。
ブレインの触手が、雷の気配に反応して蠢く。
だが、遅い。
「――消し飛べ」
「『
——ッ轟!!!!!!!
閃光とともに放たれた金属塊が、
雷の尾を引いて空を裂いた。
——衝撃音。
鼓膜が千切れそうな雷鳴とともに、質量が音速を遥かに超えて撃ち出される。
黄金の尾を引くその塊は、空を裂き、視界を焼いた。
ブレインは対応しきれなかった。
防御のために伸ばした触手は、雷の熱で焼け裂け、真空による逸らしも力を失い、ついに——
ブレインの上半身の右側半分が、抉られるように吹き飛んだ。
触手も腕も、口も、胸も、何もかもが破裂するように砕け、空中でバラバラになって舞う。
「ggh……gi……」
声にもならぬ呻きだけを残し、ブレインの肉塊は失速し、浮遊すらできなくなった巨体が、ぐらりと空中で傾く。
呻き声を漏らしながら、バランスを失い、ブレインは空から落下し始めた。
ヴィクターは、地を蹴って駆ける。
絶対に逃さない。
次こそ、完全に葬る。
魔力が、左腕にと左脚に、黄金の雷光が収束していく。
空から地へと流れるはずの雷が、逆に、地から空を焦がす逆転現象を引き起こしていって——。
「——これで、終わりだ」
詠唱は不要。
その名を告げるだけでよかった。
大地を砕き、雷が奔る。
雷槍の魔法式が逆回転で広がり、存在を焼却する槍が顕現する。
それは、存在を否定する力そのもので——。
「——
叫びと同時に、雷光が地を砕き、空へと突き上がる。
地面から生まれた紫電の槍が、天へ向かって放たれた。
空を焼き尽くすような、まるで神罰のような雷槍で。
暗黒に染まる夜空が炎に焦げたように赤黒く染まり、世界が一瞬だけ、音も色も失った。
その中心――
——そこにはもう何も残ってなかった。
そしてそれを見届けたヴィクター周りに
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