第2話
「それで、夕ちゃんは何を聞きたい?」
「何って言われても……」
聞きたいことが多すぎる。昔テレビで見た寝ている間に記憶を整理するとは何だったのか。全然整理できないのでその番組に文句の一つでも言ってやりたい。
「そうだなー……夜さんって胸のサイズいくつ?」
「は、はぁ!?夕ちゃん何言ってるの!?」
「だってなんでもって言ってたし……」
「なんでもとは言ってないし何でそんなどうでもいいことから聞いてくるの……」
「いや一番気になるところだよ!中学の時、水泳の授業も一緒だったはずなのに夜さんの胸があんなにおっきかったの気づかなかったもん!」
なんなら中学の修学旅行で一緒にお風呂に入ったはずなのに全然記憶に残っていない、とても気になる。
「ふふふ、あははは」
「胸の大きさは重要なことでしょ!答えてよ!」
人並の大きさもない絶壁の私にとってあの姿の夜さんは羨望や憧憬、あるいは畏怖すら覚える大きさだ。実際に揉むことはできたがあれが何カップなのか想像がつかない。
「……ちょっと恥ずかしいから耳貸して」
「え?うん」
耳元でぼそっと告げられたアルファベットが果たして何番目だったかを指折り数える。私は片手で足りるしなんなら指一本もあれば十分なのだが、えっとA、B、C……なんとか両手の指で数えられるほどだった。
「ねえ!私の眼の前にいる夜さんからは考えられないサイズだったんだけど!」
本当にそうなのか確かめるために彼女の胸をわし掴む。
「きゃあああ!夕ちゃん!」
ペシっと頭をひっぱたかれてしまった。
「ううっひどいよ夜さん……」
「ひどいのはどっちだと思ってるの!?こんな朝っぱらの住宅地で揉んでくるなんて時と場所を考えなよ!もうお嫁にいけない……」
「大丈夫!あの胸ならどんな男もイチコロだよ!」
「男をイチコロしても意味ないんだよ……」
「え?なんて?」
「言わない!もう、ちゃんとした話をしようとしたのに夕ちゃんが遮るからタイミングなくなっちゃったじゃん!」
「ごめんごめん、今度クレープ食べに行こ?」
「今回はそれで許すけど次はないからね!」
多分次も許してくれるだろう、なんだかんだ夜さんは優しい。そんなにちょろくて若干心配になるけど。
「夜さん私がずっとそばにいるから安心してね……」
「夕ちゃんな、何をいってるの!?」
「いや、いつかダメ男に引っかかりそうだし、心配だから私が彼氏チェックしてあげるね!」
グッと親指を立てるが夜さんは両手でそれを倒す。
「私まだ彼氏作る気ないからね?」
「でもでも高校生になったし浮ついた話がでるかもしれないじゃん」
「はぁ……学校行こっか」
「あれ質問タイムは終わり?」
「終わりっていうか私の心臓と頭が持たない」
「大丈夫?早退する?」
「一体誰のせいだと思って……」
「だれだろうねーわかんないなー」
「おいていくね?」
「待って待ってぼっち登校は寂しいって!」
日常的な会話はできていたし彼女の走る速度も常識外れというわけでもない、だけど彼女の言動が昨日の夜のことが夢ではないとはっきり告げていた。
「ふーなんとか間に合ったね」
四月の中旬、まだまだ制服の上着を手放せない気温だがひとっ走りすると汗をかく。
「別に……走らなくても……間に合ったよね……」
「どんなことでも体力は重要だよ夜さん……というか昨日の巨乳状態ならアクロバティックみたいな動き出来るんだし体力って私以上にあるくない?」
「ふう、人間の時とは身体能力に大幅に制限がかけてるから肺機能とかもろもろが人並みなってるの、というか夕ちゃんの体力が人並み外れてるのはあると思う」
「身体能力は私の唯一といっていい取り柄だからねそっち方面でも夜さんに負けたら私全部負けちゃうし……というか制限って自分からそうしてるの?それともあのトラックキツネに命令されて?」
「自分の意思でしてるけどそれが?」
「いやー自分の意思であんな
「正直私としてはあんなにあっても動きづらいし肩はこるし、男性から嫌な目で見られるし、いいことなんて一つもないと思うんだけどね」
「
「知らないよ……というかそろそろ着席しよ?先生来たし」
「この話、放課後もしっかり話してもらうからね」
春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。春はめっちゃ眠い。つまりは一時間目の数学の授業が始まって10分くらい経ったくらいで私が船をこいでも不可抗力だ。おそらく昨日夜更かしをしたせいだろう、2時過ぎに寝て7時起きでスッキリするなんて私みたいな常人には無理だった。窓際の席は陽光が温かく降り注ぎ机は人肌とまでは言わずとも腕を預けるにはちょうどいい温度を保っている、寝てしまうのも無理からんということで許してほしい。
だから説教されるのは不条理だと思う。数学教師には私の文学的才能を発揮した春に居眠りをしてしまう理由を述べたがまるで相手にされなかった。
そのことを昼休みに夜さんに愚痴ろうと思ったが教室に彼女の姿は見当たらない。トイレかな?と思って向かうがどの個室の扉も開いていた。すれ違ったかと考えて教室に戻っても見当たらない。心の中で彼女の名前を呼んで廊下をうろつくがどこにもいなかった。
「おい、そこのお前……夕ちゃんだったか?ついてこい」
昨晩のトラックキツネの声が後ろから聞こえた。
「人違いじゃないですか?私の名前は彩夏で夕ちゃんなんてなんて呼ぶ人は滅多にいませんよ」
「いいからこっちを向いてさっさと来い」
獣の唸り声が背後で聞こえ私の心を焦らせる。
足を止めて落ち着こう、現在地は教室とトイレの間で私は教室に向かっていて距離にして10メートルもない。全力で走れば数秒だ教室に入りさえすれば安全だろう。私はその考えに5秒で至った、いや5秒もかかってしまった。
目の前が真っ暗になる。直前に見えたのは肉食獣の動物の牙、歯科検診の歯の裏を見る妙な味のするやつの気分てこんな感じなのかな。
バクン。
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