妖怪になってしまった私ですが親友がついているので問題ないです。

七夕茸

第1話

 眠い…

 今日の3時限目は果たしてなんの教科であろうか?入学してから半月程度時間割は記憶できていないためできれば眠くならない授業がいい。……そんな考えがよぎる自分に少し嫌気がさす。お父さんお母さんが共働きして稼いでいるから私は学校で授業が受けられる。だから私はしっかり授業を受けていい大学に行かなくてはならない。

 高校受験は失敗したし大学受験は絶対に、絶対に第一志望の実家通いできる大学行きたい!


 決意を新たにグッと拳を握って上に掲げる。


ゆうちゃんどうしたの次移動教室だよ?」

 

周りに誰もいないことを確認していたはずだったが親友がいたらしい。


よるさん今見たこと忘れて!」


 彼女は夜野雲母よのきらら小学校からの付き合いで一番の友達といっても過言ではない。きららって名前がキラキラネームっぽくて嫌らしくみんなから「よるさん」って呼ばれてる。正直きららは普通の読み方ではあるし女の子っぽくかわいい名前だと思うから嫌がる理由はよくわからない。


「忘れてって?夕ちゃんが誰もいない教室で手を上にふりあげたこと?」

「説明ありがとう!そうだねお願い!」

「それは忘れてもいいけど……次の授業は美術だから忘れないようにね」

「わかった!今すぐ準備するから先に行ってて!」


 ロッカーから美術の教科書を引っ張り出し彼女を追いかける。


 これが私、此夕彩夏しゆうあやかの日常であったはずだ。


 その日の夜、眠れないから歩いて10分くらいの橋の上で月を眺めていた。明日は満月なのだろう少し歪なお月さまが空に浮かんでいる。夜風が気持ちよくて頭がすっきりする。


 数分眺めてそろそろ帰ろうかなと考えながら川を覗き込む。すっきりした脳みそでも水の上だし落っこちても割と生きてそうだなー程度のくだらない感想しか思い浮かばない自分が情けない。

 風が吹いて桜の花びらが川に流れる。もう四月も中盤なのにここの河川敷の桜はまだ咲き誇っていた。夜さんを誘って週末にお花見でもしてみようか。

 水面に花びらとは違う何かが映ったのが見えた。


「な、な……」


 目の前には二本の角に赤い刺繍が施された黒い着物、いくつもの鬼火とハイクオリティな鬼のコスプレをした女とキツネのバケモノとしか形容できないトラックくらいの大きさの何かが刀とツメを切り結んでいた。


「明日も学校があるから早くくたばってください!」

「ならお前がくたばればいい、おばけに学校はないぞ」

「それは嫌です!」

「そう真面目に返さないでくれ鉄板ネタなんだぞ」


 重量差なのだろうコスプレ女は押し負け私の方に吹っ飛んできた。そして彼女はやっと私がいることに気が付いた。


「え!?」

「え?え……うわっ」


 反射的に受け止めようとするが相当の勢いがあったのか私とコスプレ女は車道にまで転がった。


「一体何なの……」


 柔らかい何かが頭を守ってくれたのか足と腕が少し痛むだけで問題ない。

 立ち上がろうとして弾力があるなにかを掴む。


「他に人がいるなんて聞いてないんです……け……ど。あれ夕ちゃん!?」

「その呼びかたもしかして夜さん?」


 夜さんは眼鏡をしてたし胸もこんなに膨らんだものではないし、運動神経だって人並はあるけどあんなバケモノと戦えるほどではない。だけど私を自分の「夜さん」って呼び方にかけて「夕ちゃん」なんて呼ぶのは夜さんくらいだ。まさかこんなにハリがあって大きい胸を隠し持っていたとは……


「えっと色々聞きたいんだけどね、その……お、おっぱい揉むのやめてくれない?」

「はっ!ごめん夜さん」


 慌てて胸から手を放し彼女の上から降りる。


「とりあえず私の後ろに下がって!」

「え?う、うん!」

「私語は済んだか?」


 そういいながらキツネが襲い掛かってくる。


「はああぁっ!」


 夜さんが地面をしっかり踏みしめツメを刀ではじき返すとキツネが一瞬驚いたような様子を見せた。


「ふむ……今日はここまでにするか。雲母、話は明日する。きっちり反省しろ」


 キツネが己のツメを見ながらそんなことをいってボフンという音とともに煙を出して消え去った。


「え、ちょっ!?」


 唖然とした様子で煙を見送った彼女だが、深呼吸をし私の方を向きなおして小さく「変化」とつぶやいた。するとボフンという音と煙とともに中から私のよく知る黒髪のおさげとメガネがかわいい夜さんが現れた。


「ほんとに夜さんなんだ……」

「そんなことより夕ちゃんなんでこんなところにいるの?」


 普段の彼女からは見せないほど言葉に圧を感じる。


「うーん……夜眠れないからここまで歩いてきたって言ったら信じる?」


 悪びれもせずに言う私に彼女は大きなため息をついた。


「信じるよ。私と夕ちゃんの仲だもん」


 小さくほほ笑む姿はいつも通りの彼女だった。感情に一段落ついたので先ほどから疑問に思っていることをぶつけることにした。


「ならよかった。それよりもあのトラックキツネといい夜さんのコスプレといいなんなのアレ?」

「トラックキツネ」


 その単語のなにが面白いのか彼女はクスクスと笑った。


「ん?そこ笑うところ?」

「いやいや夕ちゃんには関係ないことだから大丈夫……な、わけないか。どこから話そうかな……」

「もしかして長くなりそう?」

「うん、そうだけどこれから何か用事あった?」

「用事も何も普通の人なら寝る時間だよ?」


 ポケットからスマホを取り出し夜さんに突きつける。時刻は午前1時46分たいていの日本人なら寝てる時間だ。


「あーそっか。そうだね……夕ちゃん今見たことすぐに全部忘れることってできない?」

「無理だね。ちょっと衝撃的すぎる」

「そっか。じゃあまた朝に」


「解」というつぶやきとともに彼女は先ほどの鬼コスプレの姿となって夜の住宅街に消えていった。


 静寂が訪れる。先ほどまでの光景は私が夜風にあてられて妄想したのだと錯覚してしまいそうになるけれど全身がズキズキと熱い。


 昨晩を現実と証明するものはいくつもあった。

 一つは朝になって制服に袖を通そうとするときに体のあちこにあおたんだったり少し擦れて赤くなっている箇所がいくつもあったこと。昨夜夜さんに巻き込まれて道路を転げまわったからだろう。


 もう一つは家のインターホンが鳴ったことで示された。お母さんが対応したが私に呼び出しがかかる。つまり私に朝から用がある人間でありきっと彼女だ。朝に話をしたいと言っていたし。


「おはよう夕ちゃん!学校いこ!」

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