第3話

 ほんとに食べられるときにバクンって音するんだなーとくだらないことを考えるが口の中はとんでもなく息がしづらい。あのトラックキツネは私を口の中に入れたままどこかへ移動しているらしい。

 揺られること数十秒、止まったと思ったらペッと吐き捨てられた。


「私はガムか!」

「ガムはちゃんと包んでゴミ箱に捨てろよ」

「ちゃんとやってるって、それはそうとトラックキツネさんここはどこ?」

「トラックキツネ……」

「御不満でも?私のことを荷物みたいに誘拐するし、その図体の大きさといいトラックじゃない」


 私がここまで彼?に対して大きな態度をとれるのは理由がある。食べられたときに私をそのまま呑み込んだりしなかったからだ。なら多少強気に出たところで私に危険はないだろう。


「はあ……ここは現世と幽世の間だ」

「つまり私あなたに食べられて死んでしまったと?」

「安心しろちゃんと生きてるし話が終わったら家にも帰す」

「すごい良心的。なら帰りはトト〇の猫〇スみたいに解放的にならない?」


 ちゃんと帰すつもりならそもそも誘拐などしないでほしいのだが。


「お前私をなんだと思ってるんだ?」

「昨日私の親友に襲い掛かって今日私を誘拐したけど帰りも手配してくれてる良心的なトラックキツネ」

「……まずそのトラックキツネって呼び方やめてくれないか?ト〇ロの〇バスって例を出されたせいでそれと同じカテゴリっぽくて嫌なんだが」

「いいでしょ〇トロの猫バ〇。私金曜夜にやってたら毎回録画して見てる!」

「ちゃんと映画館で見ろよ……」

「あそこの映画なんて必ず金曜夜どこかのタイミングで放送されるでしょ?映画館でお金を払うのは無駄。同じ理由で春にやってる死神探偵サッカーRUNも映画館では見ないし、というかそもそもトト〇に限って言えばリアタイできるのアラサーとかアラフォーでは?花の女子高生がそんな年齢に見えてるの?」


 バクン。うるさかったのか上半身だけ甘噛みされた。このキツネいつか絶対エキノコックス抽出させてデトックスさせてやる……


 再度排出されて仕切り直し。


「話が脱線したがまずは自己紹介からしようか。私は妖狐の狗掛山いぬかけさん里瓜さとかだ」

「私は人間の此夕彩夏しゆうあやかよ。というか里瓜さんってオスなのメスなの?」

「なぜそんな疑問が出る?」

「いやさ、散々オスだと思ってたけどサトカさんって名前からしてメスじゃないかと思って、メスだったらおっさん扱いして申し訳ないなーって思ったり思わなかったり」

「秘密だ」

「まあ、といっても動物なんだし股間を見れば一もk」


 バクン。本日三度目今回は丸ごと食べられた。やっぱり私のことをガムか何かと勘違いしてるのではないか?

 力任せにキツネの上あごを押し上げて脱出する。


「ええい!ツッコミ代わりに噛むんじゃない!そうやって暴力にしか訴えられないのは所詮ケモノだからか!?」

「キララが私に説明を頼む理由が分かった……こいつは話を脱線させないと気が済まないタイプの人間か」

「雲母って夜さん?昨日あんなにバチバチにやりあってたのになんで夜さんと仲よさそうなの?」

「キララは私の教え子のようなものだからな、生徒に頼まれた以上断る理由もない」

「えっと生徒ってどういうこと?」

「やっと話を聞く気になったか」

「最初から聞く気満々でしたけど?」


 さっさと帰って授業も受けたいしこれは本音だ。普段から寝てばっかりではあるが流石に板書は取りたいし授業についていけなくなるのは困る。授業をさぼって行方不明になったなんて親にまで伝えられるなんてことは絶対に嫌だ。


「調子のいいことを……それとさっきも言ったがここは現世と幽世の狭間だ。そのため時間の流れが大きく異なる。ここで多少に時間が経過したところで学校では数分も経過したことにはならない」

「便利な空間ー」

「それでキララに聞きたいことがあったんだろうできる限り答えてやる」

「なるほど、では早速一つ目夜さん……夜野雲母が鬼に変化したときのあの胸の大きさの秘訣はなに?」

「言えるかバカモノ」

「なんでも答えてくれるって言ったでしょ!?」

「できる限りと言ったはずだ。他人の身体の発育理由なんて知るわけがないし、よしんば知ってたとして言うわけないだろう。次変な質問をしたらお前を幽世に送り届けるからな?」

「落ち着いて落ち着いて今のはブレイクタイムじゃん?じゃあ二つ目あなたは世間一般でいう妖怪って括りでいいの?」

「ああそうだな私もキララも妖怪というよりだな」

「一般人からすると同じ意味だと思うんだけど違いって?」

「わかりやすい違いをあげるとしたらどうかってことだな」

「でも里瓜さんが人間らしいかどうかと言われても見た目的にはそう思わないんだけど……ごりごりのキツネじゃん」

「人型ならとれるぞ」


 「変化」と宣言すると昨日と同じくボフンという音とともに煙に包まれ、現れたのは中性的で眼鏡と泣きぼくろが似合う美人だった。


「と、まあこのようにあやかしは人間社会に溶け込むすべを持っている妖怪のことを指す。ん?どうした美人が目の前に現れて言葉も出ないか?」

「いやいやいや!そんな美人になれるなら初めからそっちで接してよ!相手がこんなに美人なら私だってもう少しおとなしくなってたし、連れてこられるときだってホイホイ付いていったよ!」

「お前はほんとにろくでもないな……」

「美人にほいほいついていくのは日本人の義務だよね?」

「美人局には気をつけろよ……」

「わかってるって、いざとなったら夜さんも忠告してくれるし」

「めんどくさいから次の質問に行け」

「じゃあ三つ目の質問今回わざわざ場所を用意して私に夜さんや里瓜さんのことを明かすのはなぜ?夜さんはともかく里瓜さんは今後私と会うこともなかったかもしれないのに」


「彩夏があやかしと関わってしまったからだ」

「ただ目撃しただけでこんなにしてくれるのは律儀すぎない?」

「こればっかりはしょうがないんだ。一度妖怪、あやかしを認知し存在を肯定してしまうと生涯それが憑いてまわる。余計なトラブルを生み出さないためにもあやかしが目撃者と接触し付き合いかたを教える、悪いがこっち側のマナーみたいなものだからつきあってもらうぞ」

「余計なトラブルって例えばなに?」

「例えばだが彩夏、キララは最初から鬼だったと思うか?」

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