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そう、私が作ったのはウィンナーコーヒーというもの。生クリームは好きって言っていたし、これならシュガーなくとも飲めるかなって思った。それに前々からちょっとやりたいとも思ってたし。


「え?じゃあその後ウィンナーをぶっ込むんすか!?」


どうしよう………バカがここにいた。


「そんな珈琲みたことない。」


どんな珈琲だよ。

ウィンナーがぶっ刺さってる珈琲なんて、見たくも飲みたくもないわ。

あ、でも一応用意しとくか、シュガー。


「え、教えて下さいよ!!」


バカは無視に限る。

お盆に珈琲とシュガーを用意して待っている彼女のところに運びに行く。


「お待たせしました。ブレンド珈琲でございます。」


「ありがとうございます。わぁ、クリームが乗ってる!」


こんな些細なことで笑顔になってくれる。

それだけで少し工夫した甲斐があったもんよ。


「ウィンナーコーヒーにしてみました。クリームでマイルドにはなると思いますが、お好みでシュガーもどうぞ。」


「あ!よくウィンナーコーヒーって文字を見ますね。なるほどこれが…。てっきりウィンナーが入ってるものかと……。」


どうしよう…………岸本と同類がここにいた。


「ウィンナーとはソーセージのことではなく、オーストリアのウィーンのことを指しております。意味としてはウィーン風なコーヒーで和製英語なんですよ。」


岸本には説明してやらんけど、彼女は別。

お客様だしね。


ふと改めて彼女を見る。

あの夜、酔っぱらいの彼女とは全然違う。

そして、あの夜に私の手で乱れた彼女にも到底見えない。


あの時が夢だったのでないかとさえ錯覚するほど全く違う。


でも現実であるとはっきり分かるのは、私の手にあの時の感触が残っているから。

私自身で見たから。


彼女のそんな姿をもう一度見たいと思うのはおかしいことなのか。

彼女をもう一度抱きたいと思うのは、まだ欲情しているからなのか。


今の私には分からない。


「ではごゆっくり。」


これ以上は何か悟られそうだったので、私は彼女から視線を外し、カウンターに行こうとした。


「あ、待って下さい。」


裾を捕まれた。

誰に?

彼女に。


「あ、あの。今日、何時まで……お仕事ですか?」


「え?」


「ミズキちゃんと、その。話がしたくて。」



名前を呼ばれるだけで嬉しくなっている自分がいる。

でも少し後悔。

あの時、恋人でもなかったから名字を教えたけど、下の名前にしたらよかったかも。


それに話って……たぶん、あれのことだよね。


「そろそろ終わるから。ゆっくりしてて。」


まだ退勤時間ではないけれど、いつも残業しまくりだから、たまにはいいだろう。


「マスター、用事できたから帰るわ。」


マスターがいるキッチンへ行き、それだけ伝える。


「用事?」


疑問を浮かべてる。

後々面倒がいやなので、私は彼女から話があるということを話した。それからこれ以上遅くなるのも悪いからと。


「そうかい。あの取っ替え引っ替えのお嬢にとうとう本命の彼女ができるのか。」


「なんでそうなる。ただ話すだけだってば。」


バカなのか、マスターは。

付き合うとかそんなこと考えてないし。

だいたい女性同士だし、私も同性と付き合ったことなんてない。


まして好きになったことなんて…いや。

付き合う…………か。

彼女とだったら悪くないかもしれない。


っていやいやいやいや。

だからそんな話し合いじゃないだろ。



「ま、お嬢には残業ばかりしてもらってるしな。いいよ。」


「最初からそう言ってよ。」


余計なことなんて言わずにさ。


「報告、楽しみにしてるからな。」


ああもう、無視無視。

さすがにカノンの制服じゃよくないから更衣室に着替えに行く。


とはいっても、今日は学校からそのまま来たから学校の制服なんだけども。


話ってたぶん、あれだよね。

あの一夜のことだよね。

何言われるかな。

やっぱり罵られるのかもしれない。心の準備はしておこう。


「お待たせしました。行きましょうか。」


「え?あ、会計。」


彼女のもとへ行くと、珈琲を飲み終えたところだった。


「会計は結構ですよ。行きましょう。」


彼女の会計は予め私が払っといた。

そのことを伝えると申し訳なさそうにお礼を言われる。

なんだかそれがくすぐったかった。


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