18

常連客に言われながら私は岸本の元へ行く。

注文表を持って。

私がイライラしているのは…きっとマスターの意向を岸本が無視したから。

誰もがリラックスできる場所をコンセプトとしているのに、必要以上に絡んで……。


いや、やめよ。

違う。

よりにもよって彼女に絡んでるのが気に入らないんだ。

彼女を見つけたのは私が先なのに。


「岸本。」


「お、お嬢!?」


「注文取ってくるのにどんだけ時間かかってんの。」


そこでようやく自分がやらかしていることにハッと気付いたらしい。


「す、すいやせん!あまりに美人だったんで興奮してしまいました!」


「まあ分からなくもないけど。それでも彼女はダメだ。」


「え。あ!彼女っすか!お嬢の女神は!」



だからその女神って何。

ほら、彼女も困ってるし。



「ほら、私が代わるから。適当に常連客の相手しといて。」


「は、はい!」



岸本が慌ててカウンターに戻る。

常連客とヒソヒソしているから、私のことでも話してるだろう。



「すみませんね、ウチのもんが。」


「い、いえ………。」


話すのはあの時以来か。

少し緊張する。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「え、えっと。ブレンドお願いします。」


「かしこまりました。生クリームは好き?」


「え?あ、うん。好き。」


「はいはーい。」



生クリームは好きなんだ。

よし、ちょっと試したいことあったからちょうどいいかも。

少し緊張したけど、普通に会話できている。それがよかった。

カウンターに戻ると岸本と常連客がニタニタしている。なんでそんな顔しかできないんかね。


「あれがお嬢の…。やっと見れた!いいっすね!羨ましいっす!」


何が羨ましいのやら。


「でも久しぶりじゃねぇか?いいねぇ。寂れたところに一輪の華ってやつだろ?」


「それ、マスターが聞くと泣くよ。」


今はキッチンで料理してるので聞こえないと思うけど。

こんなレトロでもまだそんなにオープンしてから経ってないんだから。



「お嬢もいいっすけど制服が男装っぽいっすからね。やっぱあの女性こそ華っすよね!」



妙なフォローいらんぞ岸本。

こんな年齢層に彼女はまぁ目立つわな。

さてさて、今日はどのブレンドにしようかな。


「お嬢、俺のブレンドも考えてくれよ!」


「後で。それに適当でいいよね。」


「この対応の差…泣けてくるぜ。」


そりゃああの人と常連のおっさんの扱いを一緒にはしないし。


「これかな」


キリマンジャロと配合したブレンドにしよう。

苦味もそこそこあるけど、独特な酸味のあるキリマンジャロ。

これならクリームとよく合うはず。


「ってお嬢!好き勝手にやっていいんすか!?」


「マスターから許可もらってる。」


「いいなぁ!俺も早く珈琲入れてぇ。」


マスターは珈琲に関してはすごくシビアで厳しいからね。

私は、店がオープンする前から、三年以上家でも学校サボってずっと練習してようやく合格貰えたんだから。

対して岸本は一年ほど前に来たばかりでまだまだ修行中。


メインまでの道のりは長いだろうなぁ。



「よし。出来た。」


「うお!生クリーム乗ってるっすね!」


「お嬢、それってウィンナーコーヒーってやつかい?」


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