17

しかしある時、突如変化が生じることとなる。

それは、私が彼女と一夜過ごした日から一週間がたったある日の夜八時頃。


私はいつも通りにバイトしていた。


「くそぅ。一度でも、一瞬でもいいから拝みたいっす!お嬢を落した女神。」


バイト仲間の岸本が机に頭を伏せながら、なぜか嘆いていた。


「まだ言ってんの?無理でしょ。」


そんなことより仕事してくれ。

なぜだろう。岸未だに会えていない彼女のことを岸本が気にしてるとかキモいのだが。

なんか岸本と会うたびに似たような嘆きを聞いてる気がする。

早く諦めればいいのにと思う。


ってかまじぇ女神って何。


「お嬢はいつも通り冷たいっすねー!でもそこがいいっす!」


「は?ドMにでも目覚めた?」



見境ないのか。

ってかドMにマジで目覚めたのなら…。

いや、マジでキモいわ。


「お嬢ー元気だせよ!」


「別に落ち込んでいるとかないから。いつもどおりだから。」


彼女が来ないからって、ニタニタしながらからかうのやめてくんないかな。常連客さんよ。


「お嬢がここまで落ち込むんだ。ここは元気になってもらいたいし、注文して売上に貢献してやるからな!」


「へーありがとうございます。では全メニューでございますね!」


「おい!それは勘弁してくれ!」


変にニタニタした罰だ。

存分に苦しめこの野郎。

でも実際そんな会話をしてると、常連客みんな笑ってくれるこんな時間は嫌いじゃない。


ガチャ。


「らっしゃいませー!」


私はマスターとカウンターで常連客の相手をしているので、手が空いてる岸本が接客に回る。

ったくその言い方、マスターからやめろって言われてたのに。


最近は練習に集中できるのか、珈琲入れがますます上達したと褒められたので、珈琲担当になりつつある。

……結構大変だけど。


そのため、岸本がいるときはカウンター以外岸本が注文とったりするようになった。

私は接客は嫌いではないけれど、あまりしなくなったらなったで少し寂しい。


「お嬢、最近いい話ないのかい?」


「いい話?」


「これだよ、これ。」


カウンターにいる常連客が小指を立てる。

ニタニタしながら。

それだけで何のことかわかる。

恋人か好きな人ね………。


「そうですね、今はいない。」


ふと頭の中で彼女のことが横切ったが、すぐに打ち消した。

あり得ないことだから。


「珍しいなぁ、お嬢。しばらくいないんじゃね?」


「そんなこともあるよ。」


常連客が知ってるのは、単に今まで彼氏いるか聞かれて、正直に答えていたからだ。



「あ、お嬢お嬢!」


「んー?」


別の常連客が声をかけてくる。


「あれ、お嬢のお気に入りの女じゃねぇか?」


「は?」



その常連客が指を指した方向を見ると……。

幼さを残しているけどキレイな顔でサイドテールをした彼女がそこにいた。

というか岸本に絡まれていた。


さっき来たお客様って、彼女だったんだ。

岸本に任せっきりにしているから、誰が来たのか確認してなかった。


なんか注文とってくるのが遅いって思ったら、岸本のやつ。

彼女に絡んでるのを見てイライラしてくる。


「ごめん、ちょっと行ってくる。」


「ごゆっくりー。」





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