3.お持ち帰り

9

私の日常なんてその辺いる人と何も変わらない。朝は幼馴染に起こされて、半日退屈な学校生活。そのあとはユウと帰るか、バイト。


まぁ部活もやってないし、放課後も退屈だからバイトしてるのだが。


ちなみにユウだけはバイトの場所まで知っている。杏も大ちゃんもバイトのことは知っていても場所までは知らないのだ。


ま、ユウは出禁になったけど。

理由は…まぁ超お節介が働いて常連客に迷惑かけたから。マスターの説得もあって来ないことになったのだ。



「マスターまた来るよ!お嬢もまたな!」



夜22時。

最後の常連客がようやく帰った頃にはそんな時間になっていた。

そんな時間とはいわゆる閉店時間。


「いやー今日もお疲れちゃん、お嬢に渉。」


「お疲れ様。」


「マスター、僕も珈琲やりたいっすよ!」


「まだまだだ。やるならお嬢を越えてからな。」


「ぐぬぬ。お嬢の珈琲には勝てる気しないっす。」



マスターの試練は厳しいからね。

私も苦労したなぁ。

そんなマスターの試練で四苦八苦してるのが、


私とマスター以外唯一のバイト、岸本渉。

確か高校生だったような。

覚えてないけど、こいつも私のことをお嬢呼ばわりしてくるやつだ。


「そういえば今日も来てなかったっすね。」


その言葉に後片付けしていた私の手が止まる。

なんのことだかと、とぼけようとしたけれど黙っておくことにした。

気になるのかどうか問われそうだし。



「確かに最近頻度減ったなぁ。お嬢、何か知らないか。」


なぜ私に聞くんだ。


「知らない。」


ここ数日あの人は来ていない。

二日に一回とか割と頻繁に来てくれていたのに。


「………きっともっとオシャレなカフェかなんか見つけたんじゃないの。」


彼女だって若い女性だ。

そりゃあこんな寂れた喫茶店よりオシャレなところ行く方が当たり前ってものだ。


「……いいのか?」


「何が。」


「このまま来なくなっても。」


「別にいいでしょ。」


だからそんなんじゃない。

人として気になってるのは確かだけども、恋愛的な意味じゃないってば。

それに彼女は常連客ではないし、どこに行こうが彼女の自由だし。

常連だったのに来なくなることも珍しくない話なのに。


「うぅ……一度でいいから見てみたかったっす。」


「あれ、見たことないの?渉」


「そうっすよ!マスター!僕しばらく来れてなかったし、来たと思いきや噂の女性いないし!」


あー…。

岸本って確か部活と両立させてたっけ。

春休みのときは部活三昧だったらしく、バイトに来れなかった。

だから彼女を見たことなくても不思議ではない。



「また来てくれるといいな、お嬢。」


「……べつにどっちでも。」



来るか来ないかは彼女の自由。

でもまぁ、せっかくなら来てくれた方がいい。

売上にもなるし。

売上よくなるとお給料、また増えるかもしれないし………。



「くぅ!早く見たい!」


「なんで美人さんだとそう見たがるんかね。」



だいたいの男子ってそう。

新しいクラスになったばかりだけどスタイルのいい女子や可愛らしい女子はもう噂になっている。

杏から聞いたけど、一年の情報ももう回ってるらしい。


怖いよね、情報社会ってのは。



「美人だからってのもあるけど、ほら。お嬢を虜にした美人だからっす。」


「なんか尾ひれ付けまくりじゃない?確かに美人だけど虜になってないし。」


「そういやお嬢。新しい友達できたんか?」


「別に。」


新しい学年に新しいクラス。

これだけで新しい友達なんてできるか。

そんなもん人気者ぐらいでしょ。


「お前なぁ。」


「杏いるし。こんな見た目のやつ誰が近寄るよ。」


杏も派手だから近寄りがたいだろうし。

まぁ私はガヤガヤした感じが苦手だからちょうどいいんだけどね。


「しかもお嬢は難しい性格っすからね。」


「うるさい。」



人見知りではないけど、話すのが好きではないから別にいいでしょ。

岸本、一言多いんだっての。



「顔はよく似てるのに性格は真逆なんだよなぁ。夏音はな…もっと明るくて…。」


うわ、出たよ。

マスターの私の母自慢。

これ長いんだよね。



「んじゃあ私、着替えて帰るから。岸本、マスターの相手よろ。」


「え、ちょっ、ズルいっす!卑怯っす!僕を犠牲にしないで!?」




さっきの余計な一言の罰だっての。




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