8

私は、一礼してカウンターに戻る。

まだマスターはニヤニヤしている。


「お嬢、ライバル増えそうだぜ?」


「は?」


ライバルってなに。

懐疑的な視線を送ると…。

マスターやカウンターに座る常連客がバレないように指を指す。


「あー…。」


理解した。

常連客の中でも比較的若めの男性が彼女を見て赤くなっている。

きっとさっきの笑顔を見たんだろうな。

それか前から気になってたとか?


「でもお嬢、珍しいな。サービスなんて。やっぱお気に入りは違うってか?」



「だから違うって。私はただ色々な配合のブレンドを作りたいだけ。あの人シュガー入り飲んでるのに、今日はマンデリン使っちゃったからちょっとね。」


「ま、そういうことにしとくか。そういや、始業式だったろ?どうだった。」



あー。

マスターは、私の親が海外にいるから保護者代わりだし、確か一年間の予定表持ってたっけ。



「別に何も。変化なんかあるわけないでしょ。相変わらず学校なんて退屈だし。」


「お前なぁ。」



何期待してんだか。

面倒くさいマスターなんかほっといて、チラリとあの人を見る。


サンドイッチを食べ、珈琲とバニラを一緒に食べてる。

今日は傍らにパソコンを置きながら。

社会人なのかな?仕事中?

やっぱりどうしてここに来るのか分からない。

珈琲が好きだから?



まぁ確かにマスターが騒ぐのも分からなくはない。中三から手伝ってるけど、その頃には既にだいたいに興味なんて失せてたし。


退屈すぎてイライラしてたし。



まぁ珈琲入れとかは貴重な数少ない趣味にはなったけども。

だから私がここまで他人に興味を抱くなんて驚きだろうし、勘違いもするのも無理ない。

まぁ気になってるし興味あるけど。

その枠から何かに発展することはないと思う。


だって私も彼女も同じ女だし。

仮に異性同士でも発展はないと思う。


いつか彼女がカノンに来るのが当たり前の日常になっていくと、自然と興味も失せていくだろう。



ただ今は珍しいだけ。

こんなところに女性が一人で来るこの状況が新鮮なだけ。



それだけなのだ。



それに私は彼女のことを何も知らない。

今は少しだけどんな人なのか知りたい気持ちはゼロではない。



でもいつかこの興味は失せていく。

私はここのバイト従業員で高校生。

彼女は最近来るようになっただけの謎の女性客。


たったそれだけの関係なのだ。


ここから何か発展なんて考えられないのは必然的。




そうでしょう?



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