#3 : 力の代償は高くつくという



「──【封印逆転リバース】はもう無理か、なら仕方ない【封印解除我の存在を証明する】」


妹の危機に思わず封印していた自分を解き放ってしまった俺は再び力を封印することは出来なかった。俺は仕方ないと割り切り人家のないところに移動した。


「……名を返却する・・・・・・


俺はそう呟くと黒い光に包まれる。そして光は止み俺は元の自分──柊壱馬そっくりな誰か・・・・・・・になった。


「この身体も久しぶり、前世の自分・・・・・


魔法使いであり賢者であるグランとは別の姿であるこの姿は柊壱馬に凄く似ていた。いや本人であることは間違いないのだが、身体の構造が全く違っている。封印していたのは前世の自分の力であり【浮浪】の力。この力を解放したせいで柊壱馬の身体が改変されたのだ。


「見た目の変化は…無いか、まあ当然だけど前世も自分も今世の自分であることに変わりは無い。ちょっとだけ身体能力が人外になっただけのこと…いやそれヤバいか?」


今更ながら自覚した。今世の自分に比べて遥かに上昇した身体能力の恐ろしさに。


「一旦、確認するべきか。一応17年は普通の人間だったし」


そして俺は唱えた。


「──異空間よ現れよ・・・・・・・


魔法は発動し黒い渦が現世に表現する。


「さて、どのぐらい変化したか…」












「──あー、ヤバいな前世の自分。控えめに言って、クッソ人外」


さてどうしたものかと頭を抱える。

目の前には妖魔だったものの残骸が転がっていた。


俺が呼び出したこの異空間には、前世の俺が色々とやらかした時の危険物をめんどくさがって処理せずそのまま放置していた有様が広がっていた。危険物が生命を持ち妖魔へと至った個体がおよそ10万引きを超えて増殖しており縄張り意識が高い妖魔が異空間に侵入した俺に襲いかかってきた。


腕試しにちょうど良かったので、試しに制圧してみた結果がこれだ。今世の自分の数百倍は身体能力が向上している。このざまでは日常生活に支障をきたすかもしれない。…訂正。かもじゃなく確実にきたすわ。


「早急に手加減を覚えねば…」


俺は残骸となった妖魔に有り余る生命を分け与えた・・・・・。するとまるで糸に引かれるようにして妖魔がよろめき立つ。その様はまるでゾンビの様だった。


「さて、良いサンドバッグが手に入ったところだが、遅くなる前にさっさと帰りたい。そのためにも…」


──沢山、妖魔モドキ達に頑張って貰おう。





◇ ◇ ◇ ◇





「──ようトア・・。封印を解いたみたいだな」


「ロズ…」



あれから約1時間ほどで、ある程度普通に暮らせる範囲まで力加減を覚えて帰ってきた。


俺が自室に戻ると何やら気持ちの悪い笑みを浮かべる黒猫が1匹。俺をトアという名前で呼ぶコイツはロズ。前世、俺が親友だと思っていた・・・・・・・・・モノだ。


「何をするつもりだ?」


コイツがこんな笑みを浮かべる時は決まっていいことはない。俺が肌から感じた不吉な予感に眉をひそめると喋る黒猫が宣った。


「何をするか、ねぇ〜。トア忘れたとは言わせねえぞ。俺様が縛った・・・封印を解いたんだ。力の対価を代償・・を払ってもらう」


まぁ、そうなるか。二度と解くことはないと思ってたのに妹のピンチに何も考えず飛び出したのだから対価を支払わなければならない。だから契約って嫌いなんだよ。こうなることが予想できるから。



「……そうか、何が欲しい」


「じゃあ感情の一つでも貰おうか」


「できるだけ日常生活に支障がない程度の感情で頼むぞ…?」


「大丈夫だ」


……不安なんだが。と思いつつ俺はロズの対面に立ち、ロズの準備を待つ。


「出来たぞ」


魔法の準備が出来たのか、先程よりもより一層笑みを深めた。……気色わりぃ。今更だが俺はこいつの思い通りに事が運んだという事実に苛立った。



「さっさとしろ」


「言われなくてもやるさ────さて、我は星に名を示す。またの名を【呪縛ローズ】。その名の元に我は願う。我は如何なるものも縛る茨なり。よって、我の望むままソレを縛ろう・・・



ロズが魔法を発動したその瞬間、ロズの背後から無数の茨が飛び出し俺の胸を貫いた。


「ぐっ…」


茨が貫いた所辺りから激痛が走る。別に耐えられないほどではない。ないが、痛いものは痛い。さっさとしろと俺はロズに睨みつけるように目線を送った。



「そう急かすなよ。直ぐに終わるさ。……我が縛るもの、それ即ち──恋愛感情・・・・なり」


「!?」



──ロズがソレを唱えた。

それから突如として俺の身体に異変が起こる。何かが抜きとられる様な感覚に見舞われたと思いきや急激な脱力感が俺を襲った。


意識が朦朧として、俺は背中から倒れる。…そうまるで他人事のように理解した後、俺の意識は途絶えた。







──ロズ視点──


俺様が過去トアに掛けた魔法は契約の魔法である。その内容は前世の力を俺様が封じ込める代わりにトアが自分の意思で封印を解いた場合のみ、トアにとっての何かを俺が対価として縛れる・・・というもの。


そして俺様がトアから縛った…いや奪い取った物はとある一つの感情。それ即ち恋愛感情・・・・だ。


これは俺様の・・・トアには必要ないものだ。俺様だけがソレを独占・・していいもので、他の誰にも向けられていい感情ではない。俺様だけのものだ。


そして恋愛感情を失ったトアは、契約魔法の縛りを受けた影響で気を失い。糸が切れた人形のように崩れ落ち背中から倒れた。


「おっと危ねぇ」


俺様は咄嗟に猫形態を解いて・・・・・・・、トアを抱き抱える。まるで死んだように眠っているトアをそっとベットに横たわらせ一応身体に魔法の影響が無いか確認し、また猫形態へと戻った。


「やっぱりこの姿の方が身軽でいいな」


トアが転生しこの世界で別の肉体を得たように俺様にもこの世界の肉体と呼べる姿、猫の身体を得ている。最初の頃は何とかして人の形・・・に戻るために名を示そうとしたのだが、猫の声帯がおかしな事になっておりまともに喋ることはおろか意思の疎通もままならない状況がしばらく続いたものだ。最終的にはたまたま乗ってしまった漁船で耳にしたモースル信号とやらでなんとか【世界証明】できた。数年も猫だったおかげですっかり猫の身体に慣れてしまいもう人の形に戻れるとは言えどことなく違和感を感じるようになってしまった。


そしてこの世界ではじめてトアと出会った時はそりゃもう驚かれた。前世の俺様とトアの関係でしょうがなかったとは言え、ものすごく警戒されたことはちょっと落ち込んだ。猫形態なら詠唱必須な魔法は使えないと説明して、なんとかこの家には住まわせて貰っている。


「トアが近くにいる。傍らにいる。触れられる。結構前までは当たり前だったことがこんなにも幸福であったとはな」


俺様はトアの頬を舐めた。少ししょっぱい。今日は絶対に解かないと豪語していたはずの封印を解いてしまうくらいにはとても大変だったらしいから汗をかいたのだろう。


トアの匂い、トアの魔力、トアの息遣い、トアの肉体から確かに感じられるその温もりと全てが、その存在が生きていると示していた。


「己の犯した過去の過ちは、消して失われることはないだろう。それでももうトアを俺様の手から失いたくないんだ」


これは保険である。過去、己が支配された恐ろしい感情が身を滅ぼすと知っているからこその保険。


「愛されなくていい。嫌われていい。むしろ俺様を怒ってくれ執着・・してくれよトア……いや、もうトアじゃないのか」


俺様は目の前の、もう人間ではいられなくなった・・・・・・・・・・・・存在を見て、思わずそう呟いた。


「柊壱馬、本当トアとそっくりだよな…」


彼は眠る。軋むも前世、の顔で。




◆ ◆ ◆ ◆



私は招集要請を受け魔法少女連盟に来ていた。

ここに訪れるのも今回を入れて三回目。一度目は魔法少女に選ばれた時、二度目は軍師と面会した時だ。今回の招集要請は急だったが丁度よく連盟に用事ができたので、煩わしいとかはない。むしろ運が良かったとも言える。


「──魔法少女星姫ただいま参上致しました」


私は魔法少女連盟の長である方々に向けて挨拶する。


「やあ、来たようだね」


威厳のある女性が言った。魔法少女連盟代表取締役──上杉鏡花。


「待っていたぞ」


私より二歳年上の少女が言った。彼女こそ最強の魔法少女として知られる──『軍師』水戸アズマ。


「星姫、妖精から聞きました。本当に無事で良かったです!」


そして金色の髪を靡かせ人間離れした容姿の女性が言った。そんな彼女、実は人間ではない。──魔法少女の生みの親と呼ぶべき存在、『慈愛の魔女・・・・・』クリスティーナ様である。



「はい。クリスティーナ様、実はこの度の怪人討伐にて少々お話があります」


「そうね。是非とも話してちょうだいな。実は今日貴方を呼んだのも当事者の貴方、星姫からその事について聞くためなのよ」


「そうなのですか?」


「ええ、とても懐かしい名前を聞いたものだから……」



クリスティーナ様はまるでかつてを懐かしむような感傷深い表情を浮かべた。



「それでは星姫。一応途中から見ていた・・・・けれど改めてことの端末を聞こうか?」


「はい社長、実は──」



それから私は怪人と戦い力尽きた私を助けてくれた彼、浮浪の魔法使いグランと名乗る少年と出会ってからその端末を社長、軍師、クリスティーナ様に話した。



「なるほど。そのような人物が魔法を…」


「魔法を使ったのなら、と考えたけれど少年ならば魔法少女ではないようだね」


「怪人を倒したということはアイツらとは敵対しているようね。私達の敵…だとは思いたくないわ」


「そうだね。彼は強い」


「認めたくないが、見ていた限りかなり戦い慣れている。何しろ戦いの最中、常に余裕があった。その態度は正しく強者のそれであろう。そして間違いなくあの少年には何かがある。もしも彼が明確に敵であるならば間違いなく、我々にとって一番厄介な敵になる」



軍師の見解を聞いて私は頷いた。見ていたから分かる。戦闘経験も魔法の扱いも格段に私達とは一線を画す。あれは化け物だ。


「星姫の話を聞いて更に謎が深まったわ」


そこで、私の話を聞いてからずっと黙っていたクリスティーナ様が口を開いた。


「謎?」


私は思わず聞き返す。



「その彼は浮浪と名乗ったのよね?」


「はい。確かに言っていました」


「それはおかしいわ。だって浮浪は既に滅びているはずだもの」



私はクリスティーナ様の言っている意味が分からなかった。



「滅びている?」


「ええ。皆は魔女が生まれる方法を知っているかしら?」


「聞いたことはあります」



魔女が生まれる方法。それはごく普通の人間から突然生まれる場合だったり魔法を極めた人間が魔女に進化する場合と妖精から聞いたことがあった。


──そして魔女と名乗れるもの達には、必ず星からの寵愛を受ける。それは力と名前の贈呈・・・・・・・



「魔女になったものは必ず星から名前が授けられる。私の場合【慈愛】ね。そしてその名は絶対に無くならない・・・・・・・・・。名付けられた魔女が死ぬまで・・・・は。そして私が知る限り【浮浪】は大昔より既に亡くなっているはずだわ」


「亡くなっている!?」


「それでは、その浮浪と名乗る少年が嘘をついているというわけか?」



私はクリスティーナ様の発言により言葉を失っていた。それでは彼は既に死んでいるということ?いいえ、そんなわけないわ。だって私は実際にその姿を見ているのだし。それとどうして彼は魔法を使えたのだろうか?だって男性・・なのに。



「魔法は女性にしか発動できない。それは保有する魔力量が男性より女性の方が多いからだ。と、僕は教わっているよ。最も男性は魔法発動条件を満たしていないからね」


「その通りだ。だが実際、あの少年は使えたのだろう?」


「そこが不思議なところだね」


「私が見ていた限り。あれは【浮浪】に間違いないわ。だから謎なのよね。一度、浮浪と合ったことがあるけど姿形も彼そっくりだしその性格も…同じ力を使っている所を見ると…」


「ちょっと待ってください!」



今クリスティーナ様の口から聞き捨てならないことを聞いたような気がする。



「えっとその『浮浪』さんて、男性だったんですか?」


「あら?言ってなかったかしら?そうよ。魔女という種族に進化した人間にしては珍しい男性の魔女だったわ」



じゃあさっきまで悩んでいたのはなんだったの?!男性は魔法使えないじゃ…というか魔なのに男って──と、危ない。話が脱線してしまったわ。



「お願いします!教えてください!クリスティーナ様は彼について何か知っているのですか?!」


「落ち着け星姫!」


「僕も是非とも聞きたいね」


「社長…」


「私が知っているのはせいぜい『浮浪』についてだけよ。あの少年が本人かどうかは分からないわ。でもそうね…」



クリスティーナ様は一拍を置いて語り出した。


「かつて厄災の魔女の一人と呼ばれた浮浪が、人間の弟子を取った。あの頃は本当に驚いたわ。今でも鮮明に思い出せる。その弟子の名はトア・・、魔女の力と名前を引き継いだ彼は名乗った──」


── 俺は【浮浪の賢者・・・・・】グランだ!


「…浮浪の賢者、最強の魔女にして、皮肉にも・・・・25歳という若さでこの世を去った。私のかつての同期だった子・・・・・・・・・・・・


クリスティーナ様の瞳は慈愛の色を消して、悲しみに包まれていた。


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……どうも朝露です。そろそろ更新しないとなぁと思ったので3話更新しました。ちなみに4話はまだ出来てません!何故ならばやる気が起きないからです!

……え、どうしよ(´˙꒳​˙ `)

小説読むかー(現実逃避)

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