第17話 帰還
「人類の未来ですか。随分と大きく出ましたね」
シュヴァルツは内心の焦燥を極力出さないように気を付けながらシュナイトと会話を進める。
「えぇ。今のままでは人類に未来は無いと思うんです」
シュナイトはまるで世間話でもするかのような気楽さで話を続ける。
「現状この国……人類全体が多種族に排他的と言えます。それどころか会ってもいない種族に殺意を抱いてすらいるでしょう」
淡々と、シュナイトは話を進める。
「それをこの先も続けられるとは到底思えない。今でこそ豊富な冒険者に軍勢力、そして
「……戦力が低下とは、するとは思えませんが」
「えぇ。今の国の盤石さを見ればある訳の無いと思えるでしょう。いや。実際に無いのかもしれない。私の杞憂とさえ言えるかもしれませんね」
「ならば何故?」
「全てを敵に回していけば、必ず消耗します」
シュナイトはそう言い切る。
「
一旦手に持っているワインを口に含んでから、シュナイトは続ける。
「そうなれば人類は終わりだ。全てを敵に回している人類はそのまま全ての敵に滅ぼされる。それを避けるために、今の段階から人以外の種族と同盟を結ぶ……いや、友好的になるべきなんです」
「なるほどなるほど」
割と理に適っている、とシュヴァルツは考える。
というか正しく今直面している問題だな、とも。
シュヴァルツ達デモンズレギオンの者達とこの神聖王国がまさしくこの問題そのものだ。神聖王国とデモンズレギオンの間には覆しのしようが無い壁がある。
極端な話、今この段階でデモンズレギオンと神聖王国が戦争を起こしても最低で神聖王国が半壊、最悪全滅するだけの力の差があるとシュヴァルツ達の調査でわかっている。
勿論これは国の上層部が戦局を一つで覆すような切り札を持っていない場合に限るが。
「だからこそ私は貴方に興味を抱いたんです。人ではない者が人の世界で人の振りをしている。それも一人ではなく、二人。となれば何か組織的な動きを感じざる負えない」
ちっとシュヴァルツは内心で舌打ちをする。
シュヴァルツだけでなくパイモンの正体も見破られているのは想定外だ、と。
──ここで殺すか?
一瞬。シュヴァルツはそう考えてしまう。だがそれは物理的に無理だ。人が大勢いるパーティ会場で人一人を暗殺する能力をシュヴァルツは持っていない。
パイモンならば持っているが、それは魔法だ。何かしらの探知系魔法を使われれば直ぐにバレてしまう。
故にここで殺すというのは出来ない。いや、仮に何かしらの暗殺可能手段を持っていても難しいだろうとシュヴァルツは考える。
(こいつ……強い)
最低でシュヴァルツが操作する人形とある程度戦えるだけの実力を持っているのが竜の探知能力でわかる。
つまり百八十レベルと戦えるという訳だ。最低で百レベルは超えているのが確定した。これはこれまで調べて来た冒険者や軍人のレベルから大きく離れた数字だ。
シュヴァルツの見立てではレベル百三十から百四十と言ったところだろう。
「どうか私を貴方方の主に合わせてはくれませんか?」
「無理ですね。今の私では、そうとしか答えられません」
シュヴァルツはシュナイトの願いをバッサリと斬り捨てる。
「そうですか……残念です。ですが今の私では、と答えましたね?」
其処に好機を見つけたり、とばかりにシュナイトはいい笑顔をする。
「つまり貴方と仲良くなればチャンスはあるという事。仲良くしましょうね」
シュナイトはそれはそれはいい笑顔で言うのだった。
■
「それでおめおめと帰って来た訳か」
「弁解のしようもありません」
魔城ゴエティアの最奥。玉座の間。
そこに二人の異形と二つの人影があった。
長身。二百二十センチの体。がっしりとした体躯だ。
人型ではある。だが頭部は異様。両目は縫い付けられ閉じられている。額にも縫い目があるが、王冠を被る事で隠されている。
こめかみからは黒い結晶にも似た角が突き出ている。黒い髪であるが先端が赤く染まっている。
ギルドソロモンの主、バァル・ゼブルが玉座に座って居る。
もう一人は玉座の前に立っている。
バァル・ゼブルと同じく長身。百八十センチの身体。
海老や蟹のような甲殻類に似た装甲に覆われた漆黒の体。
腰みのを付けたある種蛮族染みた恰好。頭部からは山羊の角が生えている。
金の瞳で配下を睨みつけている。
片膝を付いているのはシュヴァルツの人形とパイモンだ。
パーティが終わった後。シュヴァルツはパイモンに正体がばれた事を報告。そのまま
そして最上位意志決定者であるバァル・ゼブルの耳に入り、こうして失態を自ら報告させているという訳だ。
「正体が露見したか……確認するが、そのシュナイトとかいう人間にのみバレたのだな?」
「はい。シュナイトが周囲に言いふらしてない場合に限りますが」
ふむ、とバァル・ゼブルは顎に手を着き考える。
「ならばそのシュナイトという人間を消せばよい話だな」
「それは早計かと」
バァル・ゼブルの考えにオロバスが待ったをかける。
「収集した情報ではシュナイトとやらはこの国の勇者を名乗る存在。その様な存在を容易く屠れるとは思いません。暗殺はまず不可能でしょうし、おびき出しての殺しも国の精鋭と一緒でしょう。そもそも殺すという考え自体がまずいのです。よくも悪くも勇者が死ねば神聖王国は次なる一手を打ち出すでしょう」
「ふむ。であればどうするのがよいと?」
「シュナイトとパイモンは徐々に活動を減らしてもらい、辺境の街に行くという事にして撤退させます。直ぐの撤退では怪しむ者もいるでしょう。それかモンスターにやられたことにしてしまうというのも手ですね」
「ふむ。撤退時期などはオロバス。其方が決めろ」
「畏まりました」
これでソロモン側は情報と資金の入手経路を一つ失った事になる。無視できないダメージだ。
「そこで提案です。
「それは看破されるリスクが高くないか?」
「
「そうか。それで問題ないというのならそうするとよい」
それで、とバァル・ゼブルは言いにくそうに声を発する。
「余は人間の街に行きたいのだが、その話は無かったことになる感じか?」
「奥越ながらそうするしかないと。現状我々が人の街に行くのはリスクが高すぎます」
むぅ、とバァル・ゼブルはうねる。
バァル・ゼブルがこの世界に来てから移動したのはシュヴァルツの背に乗って森の上空を飛んだぐらいだ。人の世界というものに行ったことが無い。
「……せめて一度ぐらいは行きたいのだ。駄目か?」
「…………バァル・ゼブル様がそうしたいというのならば、そうしましょう。ですが護衛をどういたしますか?」
「この二人ではダメか?」
「……そうですね。設定としては二人の友人としてならば、問題ないでしょう」
「よし。早速だが向かいたい。設定を煮詰めるぞ」
「此方の予定もあります。まずはスケジュールを合わせましょう」
かくして四人の話し合いは続き、玉座で話す事でも無いとバァル・ゼブルの私室に移っても長い事話すのだった。
■
くるり、と女が鏡の前で一回転した。
容姿端麗な女だ。
肌は太陽に当たった事が無いかのように真っ白で、できもの一つ無い綺麗な肌。
女としては長身に当たる百七十五センチの体。
胸は大きくないが、尻は大きい方だろう。安産型の尻と言える。
黒いドレスを纏った姿は様になっており、絵画の一枚絵に相応しい。
黒い髪だが先端が朱く染まっており、瞳もまた朱い。
「似合っているか?」
そう女は私室に居る自らの宰相、オロバスに尋ねる。
「よくお似合いですよ。バァル・ゼブル様」
──そう。この姿こそがバァル・ゼブルの第一形態。
バァル・ゼブルは形態を三つ持つ。普段から使っている悪魔らしい姿の第二形態。人の姿の第一形態。そして本気を出す時しか使えない最終形態である第三形態。
「そうか」
ふふ、とバァル・ゼブルは微笑む。見る者を魅了する微笑みだ。
(いやーまさか異世界に来て女になるとは思わなんだ。だが容姿も美しいし問題ないな!)
「さて。では早速行こうか」
「その格好のまま行かれるので?」
「ああ。このドレスも
「……流石にドレスだと人目につきます。恰好を変えた方がよろしいかと」
「むぅ……そうか」
バァル・ゼブルは言われて着替えを始める。
服を脱ぎ始め、下着姿になる。
そのことに対し何かを言う悪魔は居ない。IOOにおける悪魔とは無性とされている。
設定や外見などで人格が男性だったり女性だったりするし、男性器や女性器が着いていて性行為が出来る者もいる。
だが本質的には性別というものに無頓着であり、気にする者が居ないのだ。故にバァル・ゼブルが裸体を晒す事にも何も言わない。
バァル・ゼブルは服を着替える。
今度の服はドレスではない。
無地の黒い服と黒いズボン、黒い靴下に黒い靴という全身真っ黒コーデの恰好だ。
「これで問題はあるまい」
「えぇ。その格好ならば不自然ではないかと」
「よし。じゃあ行くか──
バァル・ゼブルは魔法を唱え、街へと向かった。
デーモンキング~ゲームの魔王は異世界でも魔王をする~ @Revak
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