第2話 未来のために

 三万年後


ルミナス歴 30000年。


月の神が創りし異空間、月陽界げつようかい。




 赤髪で長髪、青い瞳を持つヒイナ・ギガンディールは、情熱的なオーラを纏い、その豊かな赤い髪は




まるで燃え盛る炎のように流れる。鋭いがどこか優しさを湛えた瞳は、過ぎ去った時代の物語を秘め、




 見る者に深い印象を与える。整った顔立ちと、柔らかな表情の奥に感じられる知性が、彼女の存在に独 特の品格を加えている。




 一方、短髪で金髪、たくましい筋肉を誇るアラン・ギガンディールは、英雄としての風格を体現している。短く整えられた金髪は、陽光を受けて輝きを放ち、日焼けした肌と引き締まった肉体は、数多の戦いや厳しい鍛錬の証を物語る。彼の鋭い眼光には、過去の激闘と未来への揺るぎない決意が宿っている。




 湖畔で戯れるサク・ギガンディールは、艶やかな黒髪が美しく、その柔らかな輪郭には少年特有の瑞々しさが感じられる。最近父親の稽古に励んだという彼の瞳には、まだ見ぬ可能性と強い意志が宿り、これからの成長を予感させる。




 そして、金髪で長髪、太陽のように輝く瞳を持つ少年、エリオ・ギガンディールは、その存在自体が希望の象徴のようだ。波のように流れる長い金色の髪は、風に乗って柔らかく揺れ、まるで生命そのものの躍動を感じさせる。瞳は明るく、温かな光を放ちながら、無邪気な好奇心と冒険心に満ち溢れている。


 静寂に包まれた湖のほとりで、サク・ギガンディールとエリオ・ギガンディールが笑い声を響かせていた。








 水を掛け合い、穏やかな時間が流れていた——しかし。








 ゴゴゴゴゴ……ッ!!






 突然、空が唸りを上げる。




 頭上に禍々しい裂け目が開き、黒い靄が溢れ出した。歪んだ空間が悲鳴を上げるように軋み、冷たい風が吹き荒れる。




「エリオ、帰ろう!」




「う、うん! サク、急いで!」




 二人は湖を飛び出し、家へ向かって駆け出す。




 胸の奥に広がる正体不明の不安。それはすぐに現実となる。




 パァァァン!!




 突然、空が眩い閃光に包まれ、耳をつんざく爆発音が轟いた。




 衝撃波が大地を揺らし、二人は思わず足を止める。




「い、今の何……?」エリオが怯えた声で呟く。




「わかんない……でも、ただ事じゃない!」サクは唇を噛み締める。




 その瞬間——。




 ザザッ……。




 薄い光が瞬き、二人の前に銀色の翼を持つ使い魔が現れた。




 その瞳は冷静でありながら、どこか悲しげな色を帯びている。




「ヒイナ様からの伝言です。」




 母の名に二人は驚き、戸惑いの表情を浮かべた。




 使い魔は静かに続ける。




「サク、エリオ……ここから逃げて——」




 言葉の途中、使い魔の姿は風に溶けるように消えた。




 二人はその場に立ち尽くし、胸に広がる不安を拭いきれない。




 ——その瞬間から、二人の運命は大きく動き始める。




   ** *




 アランとヒイナの家




 ——ドォン!!




 突如、家の扉が吹き飛び、漆黒の闇がなだれ込む。






 アランとヒイナは即座に身構えた。




「……来たか。」






 空気が張り詰める。






 そこに立っていたのは五つの影。




 一歩前に出たのは、白い仮面をつけた女。






 背には巨大なクレイモアを背負い、四枚の羽を広げている。






 天使のような姿でありながら、その眼差しには冷酷な光が宿っていた。






「……奸臣ニルハイナ。」






 彼女は何も言わず、静かに頷く。






 次に現れたのは、全身に木々と花を宿した性別不詳の存在。




 右手には杖を、左手には心臓の形をした木の実を握りしめている。




「我の名は陀森ヒテンコウライ。野望を叶えるため……お前たちには死んでもらう。」




 三人目は、オレンジとピンクのドレスを纏った少女。






 手には短剣を持ち、無邪気な笑みを浮かべている。




「私の名前は慈悲楽カッカマです。よろしくお願いします♡」




 その無垢な声には、底知れぬ狂気が滲んでいた。




 そして、四人目。槍を常に空へ向け、下半身を霧で覆った存在。




「照天震ハーラーだ。」




 その声と共に、空に雷鳴が轟き、稲妻が周囲を照らす。




 最後の一人は、静かにアランへと歩み寄る。




「……逆審ドゥルガ。」




 名を呼ぶと同時に——。




 ——轟音と共に戦いの幕が上がった。




 * * *




 エリオとサクは、月陽界の中心に立っていた。




 そこは静寂に包まれ、ただ淡い光が二人を照らしている。




「こちらへお入りください。」




 母ヒイナの使い魔であるアークは、感情のない声音でそう告げた。




 その言葉に、サクは震える弟エリオをしっかりと抱きしめながら、静かに歩を進める。




「……これでいいんだよね、母ちゃん……」




 声がかすかに震えた。




 彼らの前に開かれた扉の向こうには、未知なる世界が広がっている。




 それでも進まなければならなかった。




 * * *




 逆審ドゥルガの手には、血に濡れた剣が握られていた。




 冷たい刃先から、ぽたり、ぽたりと血が滴り落ちる。




 アランとロシャは英雄のような強さで圧倒し、奥義『天月葬破』を放ったが——




 それでも、逆審の力には及ばなかった。




「……きっと、あの子たちが……」




  ヒイナはか細い声で呟いた。


 彼女の目は光を失いかけ、やがてその輝きが薄れていく。




 カッカマは、不満げに唇を尖らせながらニルハイナを見た。




「ねぇねぇ、二人の気配が消えたけど……追わなくていいの?」




 ニルハイナは何も言わず、静かに頷く。




 それだけでカッカマは察し、ふっと口元を歪めた。




「ふーん。やっぱり、お姉さまは優しいんだねぇ。」




 カッカマが無邪気に湖へと駆け寄るのを横目に、ニルハイナはふっと細く息を吐いた。




(……あの子たちが“選ばれし者”なのかどうか、確かめるまでは——)




 そして、アラン・ギガンディールは最後の言葉を紡ぐことなく、静かに息を引き取った。




 ドゥルガは剣を握り直し、ふっと小さく笑う。




 かつて、ドゥルガは正義を信じ、世界の秩序を守るために戦った。だが、ある日、不正な審判によって無実の罪を着せられ、無惨にも処刑された。




 彼の叫びも、誓いも、誰にも届くことはなかった。




 死の淵で憎悪に染まりながら、彼は闇へと沈んでいく——そのとき、手を差し伸べたのがウラヌガイだった。




「お前はまだ終わるべきではない。憎しみを糧に、新たな力を手にせよ。」




 その言葉とともに、ドゥルガは死の淵から蘇る。だが、それはもはや過去の彼ではなかった。




 かつて信じた正義は、脆くも崩れ去った。




 彼の目的は変わる——世界そのものへの復讐。




「この世界に正義などないなら……俺が新たな審判を下す。」




 そして今、彼は剣を握り、闇の力を携えて再び歩み出す。




 彼が目指すのは、ただ一つ。かつて自分を裁いた世界そのものの破滅。




 運命の歯車が、音もなく回り始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る