第8話 夏休みの予定
俺はお父さんと一緒に夕飯を食べている時、
「瑞幸、学校の生徒の様子はどうだ?」
「皆、俺に近付かない様にしている。でも前みたいに嫌がらせとか無いからいい」
「話しかけてくる子が誰もいないのか?」
「うーん、変な子が二人いる。一人は早乙女由羅って1Bの女の子。俺がここから初めて学校に行った日のお昼に声を掛けて来た子。それまでは全然知らなかった。
それと同じクラスで香坂翠という子が最近声を掛けて来た。朝の挨拶とお昼一緒に食べたいとか言って。
でもこの子、俺が今になる前は隣に座るのも嫌だって顔で避けていたし。だから容姿が変わったからって急に近付いてくるような人達とはあまり話したくない」
やはり今までの生活環境が瑞幸の心に相当のストレスを与えてしまっている様だ。人を拒絶している。
「瑞幸。人と言うのはやはり印象で相手を見る。でも次にする事は相手と話してどんな人か確かめるんだ。それで嫌なら仕方ない。
今迄辛い思いをして来た事が瑞幸をそういう気持ちにさせているのだろうけど友達を作ろうという気持ちをもう一度思い出してくれ。
最初は一人でもいい。朝の挨拶とか普通に学校の話とか出来る友達を持ちなさい」
「分かった。お父さんがそういうなら努力してみる」
「それでいい。ところでもうすぐ夏休みだ。何かしたい事とかないか?」
「夏休み中に全科目の予習を全部終わらしたいと思っている。それに宿題も出ているし」
「勉強をするのは良い事だが、気持ちをリフレッシュするのも勉強がはかどる方法の一つだぞ。どこか行きたいとかないか?」
「本当にどこでもいいの?」
「ああ、どこでもいい」
「なら、お母さんのお墓にお参りに行きたい。こっちに来て全然行けてない。もうお墓の周りも草ぼうぼうだと思うし」
「葉月の墓か。…よし、一緒にお母さんの墓参りに行こう。お盆時期がいいな」
「それと…。山に行きたい。友達が一杯いるんだ」
「友達?」
「うん、俺が小さい頃、お母さんが田んぼや畑仕事をしていた時、遊んだシカやタヌキやヘビ達」
「…分かった。そうしようか」
「ありがとう、お父さん」
なんて事だ。田舎にいた時でさえ、瑞幸には人間の友達が居なかったのか。この子はどれだけ辛い思いをして来たんだ。私がもし、あの時、葉月と別れていなければ…。
「お父さん、どうしたの?」
「いやなんでもない。食べ終わったら一緒にお風呂入ろう」
「うん」
§上河原幸一
私は瑞幸と一緒にお風呂に入った後、弁護士の榊原に直ぐに連絡を取った。
『上河原様、何でございましょう?』
『至急、調べて欲しい人物がいる。一人は瑞幸の学校の1Bにいる早乙女由羅という女の子。
もう一人は瑞幸と同じクラス1Aにいる香坂翠という女の子だ。本人の事もそうだが親の仕事状況とか親戚関係も全てだ』
『分かりました。直ぐに調べます』
瑞幸には勉強も大切だが、人として大きく育って行ってもらわなくてはならない。
瑞幸にはああ言ったが、実際瑞幸の前までの事を考えると私の元に引き取られたとたんに直ぐに話しかけて来る様な子は注意しないといけない。変に唾を付けられても困るしな。
俺は翌日、学校に行って教室に入ると自分の席に行った。まだ周りからは誰も話しかけて来ないどころか俺を見ようともしない。
でもこれが一番いい。今迄何年もずっとこうだったんだ。今更近付かれても対応が分からない。でも一人違う人が居る。隣に座って居る香坂翠さんだ。俺が席に着くと
「おはよう、上河原君」
「おはようございます。香坂さん」
「上河原君、そんなに丁寧な言葉でなくてもいいよ。明日からおはようで良いからね」
「……………」
馴れ馴れしいのは嫌いだ。そんな言葉を使えたのは、小学校の時の幼馴染高橋幸奈位だ。でもお父さんもああ言っているし気を付けるか。
学校は、後一週間で終業式だ。今は毎日午前授業。お昼は家で食べる。でも帰る時香坂さんが
「ねえ、上河原君、今日午前中で終わりでしょ。駅前のファミレスで一緒にお昼食べない?」
「ファミレス?」
-上河原の奴、ファミレスも知らないのかよ。
-格好はまともになったけど、頭は昔と同じだな。
-あいつの頭の中は勉強しかないんじゃないか。
「あんた達、先生の言った事忘れたの。三人共停学よ。もう夏休みまで来れないわよ」
「えっ、香坂、先生に言い付けるの?」
「後ろ見なさいよ」
「「「あーっ!せ、先生」」」
「香坂の言う通りだ。終業式は出れないからな!」
「「「そんなぁ」」」
馬鹿な男子だ。決まり事が頭から直ぐに消える。あれじゃあ、勉強も無駄だな。
「香坂さん、誘ってくれてありがとう。でも俺家に帰って勉強したいから」
「うん分かった。でも今度行こうね」
「はい」
§香坂
上河原君が教室から出て行った。でも彼、今日はいつもより優しく話してくれた。一歩前進かな。出来れば夏休み一緒に遊びたいけど。まだ先だな。
§他の女子達
-ねえ、上河原君の態度が少し柔らかくなって来たんじゃない。
-うん、最初は怖かったけど。
-夏休み明け頃から朝の挨拶してみる。
-いいかも。彼綺麗で素敵な顔立ちしているし。
-前は知らないけど、今とってもお金持ちみたいだしね。
-そこは関係無いんじゃない。
-ええーっ、重要な要素だと思うけど。
-私、勉強教えて貰いたい。
-私も。
§香坂
不味い。上河原君が優しくなりつつあるのは良いけど他の女子も引き付けてしまう。早くポジション占めないと。
―――――
書き始めは皆様の☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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