第7話 周りが変わって行く


 俺はお父さんの家で過ごしてから二週間が経った。家の中での生活には大分慣れて来た。


 お父さんと話しているのも楽しい。お父さんに薦められて本棚にある本も読み始めた。前の生活の事は早々に忘れられないけどここでの生活はとても気持ちいい。


 だけどいつかまたあんな生活に放り出されるかもしれないという不安の様なものが心の中にある。


 ここに居られる間に勉強して自活できるようになればそんな不安も消えるだろう。だから勉強には一段と力を入れた。

 ノートが有るというのは凄い、とっても勉強しやすい。一年の教科書も夏休み中には予習を終わらせるつもり。


 学校へは東条さんが毎日送迎してくれている。最初の時は周りの人が驚きと変な目で見ていたけど、今は俺が車から降りても彼らにとっては風景の一つになっているみたいだ。


 昇降口で上履きに履き替えて教室に入ると隣に座る女の子が

「上河原君、おはよう」


 名前も知らないので

「おはようございます」

 とだけしか言えない。二週間前までは俺の隣に座って居るのも嫌な顔していたんだから。


 だから俺は教室に入ると直ぐに一時間目の授業の用意をしている。移動教室の時も周りは俺から遠のくように座って居たのに今は俺の隣に座って居る。都合がいいとしか思えない。


 1Bの早乙女由羅は、毎日学食で俺と同じテーブルに座って色々話してくる。

 友達になりたいと言っているけど、いきなり目の前に現れてそんな事言われてもこっちが困る。だから話も聞くだけで俺からはほとんど話さない。


 そんな感じで更に一週間が過ぎて七月に入り一学期末考査が有った。四日間の試験だけどまだ一年生という事もあり簡単だった。


 次の日は模試が有った。初めての事だったけどあんまり難しいという感じは無かった。まだ一年の初めだからな。



 そして翌火曜日に成績発表が有った。中間と同じで一位だ。五教科五百点満点中四百八十五点。十五点のケアレスが有ったという事か。ケアレスは完全に潰さないといけない。


 教室に戻るとまた隣の子が

「あの、上河原君。私、香坂翠こうさかみどり。中間も一番だったけど期末も一番だね」


 この人何を言いたいんだろう。

「それでね。私、朝の挨拶くらいしたいのだけどいいかな?」

「そういう事ならいいですよ。香坂さん」

「ありがとう」


 周りの生徒が俺を驚いた顔で見ている。なんでだ。朝の挨拶だろう。でも香坂さん以外は話しかけて来ない。むしろそっちの方がいい。


 中学三年間、のけ者にされ苛められ、この学校に入ってからだって五月終りまで俺を汚物扱いしていたんだ。

 俺が変わったからって急に態度を変えて来るような輩は近付かないでほしい。



 予鈴が鳴って担任の先生が入って来た。朝礼の後の連絡事項でも特に変わった事もない。授業が始まると試験問題の答え合わせをしていた。あまり面白くないけど仕方ない。


 午前中の授業が終わり学食に行こうとすると香坂さんが

「あの、私も一緒に行っていいかな?」

「えっ?俺と?」

「うん」

「別に構わないけど」

 

 また周りの生徒が驚いている。何でだ?でもあの早乙女さんが一人で話をしているのを聞くよりいいかもしれない。


 二人で学食に行く為廊下を歩いているとすれ違う人達がまた驚いている。


-上河原が女の子と一緒に歩いている。

-誰も近寄りがたいと思っていたのに。

-そう言えば学食で早乙女さんがあいつに話しかけているよな。

-学年一の美少女がどういう理由か分からないけどな。



 早乙女さんは学年一の美少女と呼ばれているんだ。そのまま二人で学食に行ってチケット自動販売機で彼女はヘルシーなA定食、俺はボリュームのあるB定食のチケットを買ってカウンタの列に並んだ。


 カウンタで定食を受け取って二人席に座ろうとしたら空いていない。仕方なく四人席に座った。香坂さんとは向かいだ。食べ始めると

「瑞幸君、座るね」

「はい」


 §早乙女由羅

 学食に行って上河原君を探すと1Aの香坂さんと一緒に食べている。もう他の子が触手を伸ばし始めたのか。思ったより早いな。


「瑞幸君、珍しいね。クラスの女子と一緒に食べるなんて?」

「早乙女さん、私が学食に一緒に行きたいって頼んだんです」

「ふーん。そうだ瑞幸君、期末試験、中間に続いてまた一位だったね。それも四百八十五点。凄いわ」

 だからなんなんだ。試験は真面目に勉強すれば点数なんかどうにでもなるだろう。


「別に大した事では無いですよ。勉強すれば誰だって取れますから」

「あっ、話してくれた。嬉しい」


 ミスったかな。

「でも勉強してもあんな点数は誰もが取れる訳じゃ無いよ。私だって一生懸命勉強しているけど、あんな点数取れないよ」

「私も四百点行くのが精いっぱい。上河原君凄いよ」

「そうなんですか」

「あっ、また返事してくれた」

 何っているんだ。早乙女さんは?


 俺には馬鹿な話にしか聞こえない。教科書しか無くてノートも無かった時から教科書だけが俺の大事な友達で有ったんだ。まだ十五点もケアレスがあるなんて教科書に申し訳ない気がする。


「俺、教室に戻ります。五限目の授業の準備があるので」

「あっ、私も戻る」

「私も」


 俺は教室に向かう廊下では今度は香坂さんだけでは無くて早乙女さんも一緒に歩く事になってしまった。またまたすれ違う人が大きく目を開けて驚いている。なんでだ?




 §早乙女由羅

 参ったなあ。香坂さんが彼に触手を伸ばすなんて。でも誰が触手を伸ばしても私が先。負けないわ。


 §香坂翠

 やっと上河原君と話をする事が出来た。小井川という姓が何で上河原に変わったのか知らないけど、姓が変わってから彼は大きく変わった。


 顔だってあんなに綺麗だとは思わなかった。だから皆が彼に近付く前に友達になろうと思ったらなんと学年一の美少女1Bの早乙女さんが既に近付いていたとは。それもあの話し方からして最近の事じゃない。

 しかし、彼女は上河原君に向かって返事してくれたとか言っていた。という事はまだ全然なんだ。まだ大丈夫だわ。


―――――

書き始めは皆様の☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る