第6話 悪い事をすれば酬いがある
§末崎家
「母さん、あの子どこ行ったの。昨日今日と見当たらないけど」
「さあ、通学中に事故にでも合ってくれていると良いんだけどね」
「えっ、そうしたらあのお金はみんな私達のもだよね」
「そうだよ。もう少ししたら警察に行方不明届け出も出そうか。それであの子の死体を見ればそれで終わりさ」
「やったーっ。ねえねえ、今年の夏は海外に行こうよ」
「いいね」
その時、電話が鳴った。
『もしもし、末崎さんのお宅ですか?』
『はいそうです』
『こちら世田谷警察署ですが、ご主人が仕事で車を運転中に事故に遭われ中央病院に運ばれました』
『何ですって?主人が事故?』
『はい』
『直ぐに行きます』
「房子、あの馬鹿亭主が仕事中に事故を起こしたみたいよ。ちょっと行って来る」
「えっ、事故?」
§末崎房子
母さんが急いで出かけて行った。父さんが事故か。稼いだ金を家に入れず酒とギャンブルばかりの父さん。
居ても居なくても同じだわ。ついでに死んでくれれば母さんと二人であの金を使って一生遊んで暮らせる。こんな貧乏暮らしなんかもう終わりよ。運が向いて来たな。
三時間程して母さんが帰って来た。
「どうだったの?」
「一命はとりとめたけど、足と腰を痛めて、車椅子生活になるだろうって、医者が言っていた。全く金も入れずに酒とギャンブルに溺れた罰が当たったんだよ」
「でも、仕事出来ない上にお金掛かるじゃない」
「そうなんだよ。全く」
それから数日して母さんと二人で父さんの所に行こうとして玄関を開けると男の人が立っていた。母さんの顔を見るなり
「末崎道子さんですね」
「そうですけど、あなたは?」
「私はこういうものです」
「弁護士?」
「はい、今、あなたの手元にある。瑞幸様と母の葉月様の通帳を返してもらいに来ました」
「何ですって!あの子は何処に居るのよ?」
「はい、瑞幸様のお父様の家で過ごされております。もうこちらにご迷惑を掛ける事はございません」
§末崎道子
なんて事だい。あの子は死んだと思っていたのに。父親の家に居たなんて。ここは適当に逃げるしかない。
「これから亭主の所に見舞いに行くんですよ。後にして貰えますか」
「その件に付きましても被害に遭われた家族から訴訟を起こされています。ご主人への説明も必要です。私も同行いたしましょうか?」
「何ですって!そ、訴訟?事故だから保険が降りるんじゃないの?」
「残念ながら事故当時、ご主人からお酒の反応が出まして。飲酒による事故は保険金が下りません。ちなみにご主人が勤められていた会社からも損害賠償の訴訟が起こされています」
§末崎房子
母さんが玄関に座り込んでしまった。でもその弁護士は冷たい言い方で
「今は取敢えず瑞幸様と葉月様の通帳を渡して下さい。それ以外の訴訟については追って詳細をご連絡します」
そしてあの三つの通帳を持って行ってしまった。夢が遠のいて行く。父さんは飲酒運転で事故を起こして損害賠償を求められている。
うちは母さんの仕事で何とか生活していたけど、これからどうなるの?
§末崎道子
瑞幸の母親つまり私の妹が死んで、弁護士に連れられて私の元にあの子がやって来た。あの子の手元にあるのは田舎から持って来た洋服と中学の時の学生服だけ。
中学三年の時に転入して来たが、高校の制服は買ってあげず、ギリギリ高校の授業料だけ払った。
あの子に酷い仕打ちをするのは、妹が物凄い美人で素敵な夫を持っていい生活をしているのに、自分は全く似てないブスで夫は稼いだ金を家に入れず生活が苦しくて悔しかったから。
そして瑞幸の持っていた金に目を付けた。瑞幸が死ねば全て自分の物になると考えている。
だから中学校は片道四キロ、高校まで片道八キロを歩かせた。事故で死ねば更に保険金が入る程度の考えでいた。それなのに通帳は全部弁護士に持っていかれてしまった。
馬鹿亭主は車椅子で働けない体になる。損害賠償がいくらなのか知らないけどそれも払わないといけない。
娘は高校三年生。大学に何とか行かせてあげるつもりだったけど、今すぐにでもバイトでもして家に金を入れて貰わないといけない。
あの子が来てから碌な事が無い。妹同様忌まわしいったらありゃしない。そうだ
「房子、あんた明日からでもバイト探して家に金入れて」
「何言ってんの。私はまだ高校生よ」
「高校生だってバイト位出来るだろう。もう大学はないからね」
「そんなぁ」
やっぱりこうなったか。高校卒業したらこの家なんか出て行ってやる。子供の金を頼る親の元になんかいる訳ないでしょ。くそ婆。
§上河原グループをまとめる上河原ホールディングスの会長オフィス
「上河原様、通帳は取り戻してきました」
「ご苦労だった。他の事については?」
「はい、訴訟を起こされています。遠からずあの家も売るしかなくなります。それでもまともな生活は出来ないでしょう。賠償請求されたら自己破産も出来ません。
下半身不随の夫を持ちながら損害賠償金を払い続ける生活を維持するのは並大抵の事では出来ません」
「そうか」
大事な瑞幸を金欲しさに引き取って辛い思いをさせた罰が当たったんだろう。我が子にまともな生活をさせていればこんな事にもならなかっただろうに。
―――――
本話に出て来る世田谷警察署と実在の警察署とは何も関係がございません。ご配慮の程お願いします。
書き始めは皆様の☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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