第14話 新しい能力と不穏な影

 またいつもの日々が戻ってきた。

 平穏な――ではなく、汗と血を流す訓練の日々。

 中庭で、男の声が響き渡る。


「まだまだやれるはずですよ。スロース様!」


 相変わらずベリル兵士長が厳しい。むしろ、日に日に要求レベルが上がっている。

 今は上半身裸で木刀を持たされていた。

 魔力で防御しても当たるとすげえ痛いんだよな。


 例えるなら、冬のドッチボールのもっとヤバイ版。


「はい。隙ありです」

「――いってえええええ」


 背中をバシッと叩かれ、激痛で叫ぶ。


 以前の俺ならこれで倒れこんでいたが、背中の赤みが段々と消えていく。

 なぜなら新しい能力を手に入れたからだ。

 どうやら、俺はもっと強くなれるらしい。


 スロース・ギルガルド

 呪詛師:Lv5

 呪力:SSS。

 所持スキル:命の刻限カウントダウン 

 New:チャクラ。

 New:陰陽五行。


 チャクラを使用すると、肉体的な損傷を回復してくれる。

 ちなみに身体能力も強化してくれるので、いわゆる自己バフのようなものだ。


 おかげでちょっとした怪我は問題ない。とはいえ、痛いには変わりないが。


「これで終わりですか、スロース様」

「いいえ、ここからですよ――陰陽五行」


 距離を取り、俺は地面に手を触れた。

 この魔法は、まだベリル兵士長相手にも試していない。

 魔法陣ではなく、黒と白の模様が浮き出る。

 そしてそれが一気に広がり、ぐるぐるとメリーゴーランドのように回った。


 初めての光景にベリル兵士長が驚くも、構わずに攻撃を仕掛けてくる。

 何かが起こる前に叩く、ということだろう。

 魔法には詠唱だったり時間がかかることが多い。

 しかし、この能力は発動した時点で、既に成功しているのだ。


「――これは、魔力が出ない?」

 

 俺は、ベリル兵士長の剣撃を受け止めた。

 いつもならできない芸当だ。そもそも早すぎて回避できない。

 なのに今の一撃はいつもより遅かった。威力もかなり弱くなっている。


 もちろん、偶然ではない。


 陰陽五行の上にいると、魔力を練る、という行為の手順が変わるのだ。

 例えるならばゲームのコントローラーのボタンがグチャグチャの配線になってしまうようなもの。


 上を押せば右に。左を押せば下に行く。

 強ければ強いほど魔力操作は複雑になる。上級者ならボタンが100個あり、それを正しく選択して戦っている。

 いくらベリル兵士長といえどもこの短時間で把握するのは不可能だ。


「――愉しい、愉しい、愉しいです! こんな技、見たことがない! さすが、流石スロース様です!」

「ちょ、ちょっとおぉ!?」


 魔力が一切使えなくてもフィジカルで押し切ろうとしてくる。

 これはちょっとズルい。


 結局有効打を与えることはできず、勝ち切ることはできなかった。

 初めて見せたので何とかなると思ったが、まだまだだな。

 

「ダメだったかあ……」

「いいえ、素晴らしいですよ。私は物心ついたころから剣を振ってきました。王都で騎士相手に指南をしたこともあります。今まで才能のある方を多く見てきたつもりでしたが、本当の才能がある人を初めて見ました。――スロース様、胸を張ってください」


 俺が? いや、スロースがか。

 所詮俺は乗り移っただけだしな。


 何だかだましてるみたいで申し訳ないな。


 そういえば今日はキャロルとエヴィがめずらしくいない。


「ありがとうございます。そう言ってもらえてうれしいです」

「その割には、嬉しくなさそうですが」


 どうやら顔に出ていたらしい。何とか誤魔化す。

 夕刻になり日が落ち、屋敷に戻ろうとするとなぜか引き留められた。


「もう少しだけ待ったほうがいいですね」


 ……どゆこと?



 一時間ほどしたら解放され、浴場で汗を流し、いつものように食事をとる為、大食堂へ移動した。

 扉を開けると、なんと――。


「お疲れ様です。スロース様、そしておめでとうございます!」

「おめでとうですわ」


 キャロルとエヴィが、頭に『いつも頑張ってますで賞』と書かれたハチマキを巻いている。

 なんか曖昧!? いやでも、怠惰の俺にとってはかなり凄いことか。


「ありがとう。それに、ご馳走がいっぱいだな」


 テーブルにはたくさんの食事が並べられていた。

 香ばしい匂いがする鳥のチキンやクリームシチューにふわふわのホワイトパン。どれも俺が美味しいといったやつだ。

 キャロルが覚えていてくれたんだな。


 そしてよく見るとベリル兵士長もいる。

 同じように拍手してくれている。


「スロース様、おめでとうございます」


 しかしその強面の目は、チキンに向けられていた。

 好きなんだ。チキン。


 だから待ってくださいと言ったのか。

 にしては誤魔化し方が直球すぎたが。


「よし、今日はいっぱい食うか!」


 するとメイドや執事たちが、思い切り息を吸い始めた。

 え、なに? ブレス?


「宴よ! 舞えよ! 盃(さかずき)高く!」

「極楽気分で 乱れ咲け」

「肉の波間で 夢を泳げば!」

「ここは天国、スロース様の、酒池肉林☆パラダイス♪♪」


 まさかの酒池肉林ソング。

 もうやめて、スロースのライフはゼロだぜ。


  ◇


 その夜、屋敷の裏で黒づくめの男たちがひそひそと会話をしていた。


「いいか。狙いはスロース・エンヴィルドだ。金髪でブクブク太ってるガキだ。間違えるなよ」

「了解。手足の一本ぐらいは切ってもいいんだよな?」

「ダメだといってるだろう。俺たちはスマートがうりだ」

「はーいはい。でもま、ほかのやつは皆殺しでもいいか」


 ――――――――――――――――

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