第13話 怠惰の傘下
片手には酒。酔っ払いみたいだ。
ってかお上りさんてよくわかったな。
ああそうか、服が綺麗すぎるのか。
「おいガストンやめとけって」
「うるせえ! 昔から気に食わなかったんだよ。貴族だからって偉そうにしやがってよお」
むかつくやつだが、貴族だからって偉そうにするのはよくないよな。
それは同意見。
「それ見ろよこいつう。フォークより重たいものは持ったことなさそうなツラしてるじゃねえか。さらにいえば、メイドにコスプレでもさせてそうなイヤラシイ顔だぜ」
図星を言われてダメージを負う。こいつ、俺と同じで転生者か!?
「おい、聞いてんのかよ」
すると大男は、俺の頭を掴もうとデカイ右手を伸ばしてきた。
お前、流石にそれはまずくないか? 貴族だぞ? 俺、お貴族だぞ? いや、何もしないけどさ。
「――おいこらカス、殺されてえのか?」
そこに颯爽と現れたのは、なぜか口調が死ぬほど悪くなったキャロルだった。
いえ、どういうこと!?
「私のスロース様に指一本でも触れたら、体をみじん切りにしますわよ」
さらにはエヴィまで。ちなみに原作では割と狂気タイプのキャラだったので、そうなる可能性もありえそうで怖い。
細切れの肉なんて見たくないよ!
「だ、大丈夫だ!?」
慌てて止める俺。なんか、立場逆じゃない?
しかしここで揉めてしまうと更に評判が悪くなってしまう。
もしスロースとバレたら大変だ。
これから先、俺の人生は続く。
できれば改心したところを見せておかないと。
「ガストン、やべえって!」
「今度会ったら、覚えてろよぉお」
仲間たちになだめられ、ガストンも溜飲を下げる。
なんかむかつくけど、まあ良しとしよう。
「スロース様、大丈夫ですか?」
「ありがとう。でも、守ろうとしなくていいから。一人で何とか出来るよ。エヴィもね」
「はい。申し訳ございません……」
シュンとするエヴィ。
原作ではもっと荒々しかったけど、そのあたりは変わっているみたいだな。
いやでもさっきみじん切りにするって言ってたっけ……?
それから俺たちは洞窟にいる魔物を倒す依頼を受けた。
驚いたことにキャロルもエヴィも冒険者資格を持っていた。
南門から出て、数時間歩いて洞窟に到着。
何とも言えぬ異質な空気が漂っている。
久しぶりに
『お久しぶりでございます主様。本日はお日柄もよく、素敵なマンデーですね』
ユーモアのあるsi●iみたいな感じだが、魔力を消費するのでずっとは使えない。
魔物にもカウントダウンは有効なのか? と尋ねてみる。
『もちろんでございます。ただし、通常と同じく魔物に触れて詠唱する必要がございます』
なるほど、やっぱりそうか。
『それからは同じように、殴る、蹴る、斬る、アルゼンチンバックブリーカーなどで――』
またもやプロレス技を所望してきたので、一旦解除。
こいつ暇さえあれば俺にプロレス技を仕掛けてほしそうにするな。
一度やってみたさはあるが、有効だったらそれはそれでプロレスラーになりそうで嫌だ。
さて、ここからが本番だ。
エヴィはともかく、キャロルはコスプレ好きのただのメイド。
無理させないようにしないと。
「俺が先頭で、エヴィは援護を頼む。キャロルは無理しないでくれ」
振り返ると、キャロルは一度も見たことのない指だしのグローブをはめていた。
え? 近接タイプ?
「なに……それ?」
「砂鉄のグローブです。お気に入りの武器なんですよ」
拳を固めるとめちゃくちゃ硬くなるらしい。触れて見ると、確かにガチガチ。
え、なに? そのハチマキもどっから持ってきたの?
「キャロル、もしかして魔物と戦ったことあるの?」
「ありますよ。昔はよく遊んでましたから」
実に強者感のある返しだ。
いやでも普通に遊んでいた可能性もあるか? ペット魔物とかもいるもんな。
魔力探知をしながら、洞窟へ進んでいく。
依頼は、ゴーレムを五体倒すこと。
シンプルな魔物だが、とにかく硬い。
耐性が強いので、倒すにも時間がかかる。
のんびりしていると仲間が増えてしまい――お陀仏となる。
警戒しながら進んでいると、すぐにゴーレムを見つけた。
思わず俺は――テンションが上がってしまう。
本物、本物だ!
「ゴオオオオオオ」
凄い。やっぱりエアコンが壊れたみたいな音で鳴くんだ。
さて、まずは
ん、キャロルが近づいて……?
「――セイヤッ!」
空手のように右ストレートを繰り出す。
ダメだ。ゴーレムは物理防御が最も高い――。
と思っていたら、一撃で腹に穴が開いて倒れる。
え? どゆこと? キャロル?
「ゴオオオオオオ」
「――うるさいですわ」
その横、新たなゴーレムが出現したかと思えば、エヴィが風魔法で切り刻んだ。
え、ゴーレムって魔法耐性も強いってはずでは……?
ヤバイ。このままでは俺の出番がない。
「ひ、ひい、あああああ」
「な、なんだよおこいつらああ」
「ひゃああああ」
そのとき、俺をバカにしたガストン御一行が襲われていた。
もしかして酒を飲んだまま狩場へ向かったのか。
ゴーレムに追いかけられて、必死に逃げている。
冒険者稼業ってのは自業自得だ。
俺があいつらを助ける義理なんてない。
けどま、任務クリアのついでにちょうどいいか。
「ひ、ひひはあああ――」
「うるせえな。黙ってろ――
ゴーレムが打ち下ろした攻撃を剣で防ぎ、魔法を付与した。
数値は500しかない。
……てことは、ベリル兵士長どんだけ強いんだよ。
……え、キャロルもか?
「ゴオオオオ」
「――うるせえエアコンだな」
そのまま滅多切り。やがて数値が0になると、驚いたことに魔物はアイスクリームのように溶けていく。
魔物は魔力で形成されているからか。
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
ガストンが泣きながら礼を言う。
こいつ、意外といいやつかも。
◇
翌日、無事に任務も終えて
観光もたっぷり楽しんだし、リフレッシュも完了だ。
宿をチェックアウトし、帰ろうとしたら街中でガストンたちが立っていた。
なるほど、恩を仇で返すタイプか。
「スロース様、お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「っす!」
すると突然、全員が頭を下げる。
え、なに?
「昨日は酒に酔ってしまってすみません。実は俺、ずっと前からスロース様の悪行非道に憧れてたんです。不躾な真似をして申し訳ありませんでした」
え、そうなの? そういうことだったの? てか丁寧過ぎない言葉遣い!?
「そ、そうか。気にしないでくれ」
「うっす。ありがとうございますスロース様!」
やめてくれ。頭を下げないでくれ。
そそくさと馬車に乗って帰るも、翌日、キャロルから最悪の話を聞いた。
「スロース様、王都で話題になっているみたいです。荒くれ者たちを傘下にしたと」
これもシナリオの強制力だろうか。
ちなみにキャロルは、王都で購入した天使のコスプレをしていた。
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