第2話 新たな能力、こっくりさん

 まずはダイエットだ。

 そう思って食事を抜き、運動をし始めたのだが――。


 スロース・エンヴィルド。

 職業:呪詛師。

 呪力:SSS。

 所持スキル:命の刻限カウントダウン


 New:BMI:40

 New:ステータス:糞ほど肥満体質。


 痩せる気配がまったくない。ステータスも俺をバカにしすぎだろ。

 それに命の刻限カウントダウンも――。


命の刻限カウントダウン


 部屋の鏡の前で声を出してみたが、何も起こらない。

 もう七日も経過しているのにだ。


 俺はいずれ主人公にボコボコにされ、傲慢に暗黒世界に送られてしまう。


 もっと頑張らなければ。


 ――コンコンコン。


「……入っていいぞ」


 突然言葉遣いを変えると変に思われてしまうので、できるだけスロースっぽく喋るように心掛けている。

 現れたのはメイドのキャロルだ。

 くりくりのおめめ。思い出したのだが、原作ではスロースの玩具おもちゃと一文があったはず。

 一体どんなことを……。

 

「失礼します。今宵のお肉パンパンの件ですが、本当にご用意しなくてよろしいのでしょうか?」

「……もう必要ないといっただろう」

「も、申し訳ございません!? 念のためにと思いまして……」

「それよりキャロル、一つ聞きたいことがある」

「なんでしょうか?」

「なぜ……バニースーツなんだ?」


 キャロルは、バニースーツを着ていた。

 網目模様のタイツ、かろうじてメイドカチューシャはつけているものの、頭にはデカイウサミミをつけている。

 この世界は現実だがゲーム。こういうこともありえるだろうが、やっぱり疑問は抱いてしまう。


「し、失礼しました! すぐにチャイナドレスにお着替えしてきます!!!」

「ああ、え、いやちょっと待て!?」

「は、はい……」


 プルプル震えている。ついでにウサ耳も震えて、ちょっと可愛い。

 いや、そうじゃない。

 

 いや、もしかして……。


「もしかしてだが、俺がコスプレをしろと、命令したか?」

「え? は、はい……スロース様が、『毎日コスプレをして俺を楽しませろ、がはは、苦しゅうない。お前の美脚で、飯五杯もいけるいける! 』 と涎を垂らしながら、ご命令していただきました」


 な、なんて酷い野郎だ。スロースってやつ最悪だな。いや、いまは俺か。

 というかキャロル、俺の物真似上手だな。

「そのことだが、もういい」

「え? もういいっていうのは?」

「言葉通りだ。バニーガールも、チャイナドレスも着なくていい」


 キャロルは、可愛いおめめを見開いていた。嬉しさと困惑だろう。

 嫌われないようにするため、無理はさせないようにする。

 俺のため、キャロルのため、ひいては破滅回避のため。

 

「スロース様……」

「気にするな。今まで……悪かったな」

「バンドゥビキニも……でしょうか?」

「バンドゥビキニも必要ないんだ。今まで楽しかったよ」

「……わかりました」

「今後はしっかり前を見て歩くよ。それが、わかったんだ」


 人はふとしたきっかけで大人になる。理由なんて必要ないだろう。

 キャロルはまだ疑ってそうだったが、それでもしっかりと頷いてくれた。


 さて、有言実行だ。

 痩せて今後も頑張らないとな。


 しかし翌日、俺の目に飛び込んできたのは、ナース服を着たキャロルだった。


「おはようございます。スロース様」


 俺はキチンと伝えたはずだ。信じてくれていなかったということだろうか?


「どうして、ナースのコスを……」

「ナース? これは西地方の治癒者のコスですよ」

「そ、そうか。でもなぜ治癒者のコスを……」

 

 するとキャロルはほのかに笑みを浮かべる。


「自分がしたいからです」

「……自分が?」

「スロース様の指定されたコスではなく、自分が着たい服をきています。好きにしていいと言われて、初めて解放された気分でした。スロース様のように、私も自分を見つめ直したんです」


 コスプレは好きだったんだ。まさかの出来事すぎる。

 まあでも、当人が楽しいならいいか。


「そうか。なら好きにしてくれ。俺はこれから――」

「お痩せになる努力、でしょうか?」


 その言葉に思わず言葉が詰まる。

 実はダイエットはひそかにしている。突然一人で何か始めたら、変に企んでると思われかねないからだ。


「酒池肉林ソングを辞めていいと言ったあの日から、スロース様は使用人たちにもお優しくなりました。そして、夜な夜な走っていることも知っています」


 何もかもバレている。とはいえ、流石に中身が変わったことには気づいていないようだ。


「これからはちょっと、新しいスロースになろうとな」

「素晴らしいと思います! 私は、以前の怠惰で涎を垂らしたスロース様より、汗を流すスロース様が好きです。これからは、よりお傍でお仕えさせていただけませんか」

「……いいのか?」

「もちろんです!」


 本当のスロースは使用人たちに裏切られ、主人公にいたぶられ、“傲慢”に殺される。

 でもちょっとだけ、未来が変わったのかもしれない。


 あ、そうだ。


「キャロル、良かったらその……痩せ方を教えてくれないか? 自分ではうまくいかなくてな」

「もちろんです! 私も昔は太っていたんですよ。だから、任せてください!」


 ガッツポーズするナース。いや、キャロル。

 どうやら頼りになる仲間ができたようだ。


「スロース様、まずは有酸素運動です!」


 それから、キャロル式トレーニングが始まった。

 なんかすげえ現代語使ってる気がする。


「次はお野菜です! 食べないのは体に悪いのです!」


 時には優しく、時には厳しく。


「瞑想です。痩せた自分を想像するのです」

「これマジで意味ある?」

「痩せたくないんですか? 痩せたくないんですか?」

「痩せたいです」


 何で二回言ったのかわからないときもあったが、数か月後――。


「すげえ、これが俺か……?」


 鏡にはほっそりした金髪男が映っていた。

 痩せたらイケメンじゃないか。スロースめ……!


「素晴らしいです。スロース様!」

「キャロルのおかげだ。俺一人ではこうもいかなかっただろう」

「そう思ってくださって嬉しいです。これからも続けていきましょう」


 まだほかの使用人には怖がられているが、大きな一歩を踏み出した気がする。


 そのとき、アナウンスが聞こえた。


『――経験値を一定数取得致しました。スキル「案内人こっくりさん」を習得しました』


 ――――――――――――――――

 果たして|案内人《こっくりさんとは?

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