第八話 呼ばれない名前 と 聞こえない声
大学生活初めての夏季休暇も終わり、後期初日。通学電車内でシオンを見かけるがシオンは気が付いていない様子だった。私から声を掛けようにも、通勤通学ラッシュの時間帯である今、車内で移動できるわけもなく、大学の最寄り駅に着くのを待った。
電車を降りて、駅からも出てからシオンに声を掛けた。
「シオン、おはよ」
「……」
「シオン……?」
「……」
「シ、オ、ン!」
「……」
反応が返ってこなかった。イヤホンをしているのかと思い横に並んでみるもイヤホンはしておらず、考え事をしていて聞こえていないだけと思うようにして、もう一度声を掛けてみたが、反応はなかった。それほど深く、周りを切り離して考え込まなければならないほど、何か悩んでいるのだろうか。もし、そうだとしたら言いたくなるまでそっとしておこうと、自分の中で考えがまとまってからはシオンに話しかけることをやめ、シオンから話してくれるのを待つことにした。
後期の履修講義は十三科目で、後期一週目の講義の出欠確認を受けて、問題なく出欠確認を終えたのが五科目、残り八科目は名前を呼ばれなかったり。または、私が名前を呼ばれても気づかなかったりで、危うく欠席扱いを受けそうになった。ただ、名前を呼ばれなかった科目に関しては、一週目は履修漏れの可能性もあるため、気にもしなかった。
この一週間の間にシオンと話す機会あった。
「シオン、後期初日に話しかけても無視したのなんで?」
「へ? 無視した記憶ないんだけど……?」
「でも、私が声掛けたのに返事してくれなかったし……。それに何か悩んでるような感じだったし」
「うーん。やっぱ覚えてないよ。あと、悩みなんてないよ」
「そっか、わかった」
「心配してくれてありがとう」
口調や表情を見るに本当に、身に覚えがないっぽい。それに悩みも本人から『ない』って言われたらどうしようもないため、気にしないようにした。
後期が始まってから2、3か月経ってくると、講義の出欠確認漏れが頻繁になってきた。口頭で行う講義に関しては、すべての科目で名前を呼ばれなくなっていた。講義後に教授および講師へ言いに行っても、見えていないのか、それとも聞こえないのか、欠席扱いなることも多くなった。
用紙記入で行う講義に関しては、一枚の用紙を講義内に回して自分の欄に名前を書いていくものに関しては、同じ科目を履修している学生にも私が見えていないかのような対応、ようするに私に用紙が回ってこないことが増えてきた。それでも後者に関しては私から離れて座っている誰かしらが気遣ってくれるおかげで、出席扱いになっていた。
私の出欠扱いが行われなくなるに伴うように、シオンに無視される回数も増えていった。しかし、シオンと話すときに何度もそれを話題に出すが、本当に覚えていないようだった。
そんな不安定な中で、何とかシオンと協力しながら考古学のレポートを完成させ期限内に提出することができ、短い冬期休暇を迎えることになった。
冬期休暇が終わると、講義で行われる出欠確認は欠席扱いが格段に増えていて、このままでは成績が付けられないところまで落ちぶれる可能性が出てきていた。私にできるのは、これ以上講義で欠席扱いを受けないように行動することだけだった。
そして、シオンからの連絡がなくなり、通学電車内や大学で見かけることも少なくなった。
心配になり連絡を取ろうにも、電話を掛けてみれば、機械のお姉さんからアナウンスが繰り返される。
『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。電話番号をお確かめになって、もう一度お掛け直し下さい』
メッセージを送れば、アカウントが見つかりません。メッセージアプリを使うようになってからは使わなくなったメールを送れば、アドレスが見つかりませんでした、と返ってくる。
シオンとの連絡が完全に途絶えたことで気が付いた、シオンの家を知らないことに。そのため、シオンを訪ねることもできなければ、大学内外で姿を見かけることもなくなった。私は必然と大学内では常に一人行動となったが、シオンと知り合う前に戻っただけだと思えば、時間が経つにつれ、それほど気にならなくなっていった。それに伴るように、履修講義十三科目すべてで出席扱いになるほうが稀になったが、自分でも不思議なほど出欠確認をされず欠席扱いを受けることに違和感がなくなっていた。
それとほぼ同時期に、もうひとつの変化が私を襲った。
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