第六話 考古学調査 in ペルー
十一時に大学へ集合。国際空港へ行き、二時間ほど待たされた。飛行機に乗り、メキシコを経由して移動時間約二十時間。長いフライトを終えホルヘ・チャベス国際空港に到着した。日本とペルーの時差は十四時間。八月九日十四時頃に出国して約二十時間も空を飛んでいたのに、ペルー到着が八月九日二十時。
角崎さんから言われた通り、時差ボケをなくすために飛行機へ乗ってからの行動はペルー時間に合わせて行っていた。そのため、体調不良などはないけれど、感覚的には変な感じがしている。
谷城教授と角崎さんに引率され空港を出ると、現地の考古学調査スタッフが出迎えてくれ、荷物を置きがてら滞在する宿泊施設へ案内された。
宿泊施設は想像していたよりも綺麗なところで一安心しながら、谷城教授から部屋割を聞き、同室となったシオンと共に荷物を置くとホールに集まった。調査の参加者が揃ったところでスタッフから、明日は一日フリー、明後日は一日かけて現地の文化などを知るワークショップに参加、明々後日から調査に加わる旨の説明を受けた。そして、今日一日は自由に時間を使ってよく、外出の際には現地スタッフが一人付いてくれるそうで、電車での移動方法など案内役をしてくれるらしい。
「初めまして。ようこそペルーへ。私はJuana(フアナ)と申します。今日から最終日まで、木崎さん、加賀見さんの付き人です。よろしくお願いします」
「はじめまして、フアナさん。私は加賀見シオンです。四週間、よろしくお願いします」
「あ、えっと。はじめまして。木崎アキです。よろしくお願いします」
「早速ですが、今日はどうする予定ですか?」
「シオン、フアナさんは何と言ったの?」
「今日のこの後のご予定は? って。まだ決めてないけど、どうする?」
「うーん、どうしようか」
自由行動時間があることを事前に知らされていなかったため、とっさに行きたい場所が思い浮かばなく、シオンと顔を見合わせていた。
「あの、特に決まったご予定がないのでしたら、クスコはどうでしょうか? 私たちの調査しているインカ帝国の中心地と言われている場所でマチュピチュへ向かう途中の街です。今日は時間がないのでマチュピチュまではいけませんが、どうでしょうか?」
フアナさんから言われた言葉を私は理解できなかったため、シオンに訳してもらっていた。すると、フアナさんは少しつたない日本語で私たちに話し掛けてきた。
「木崎サン、英語むずかしいデスカ?」
私たちは、異国の地で日本語を耳にしたことで驚いて返答できずにいると、フアナさんはさらに日本語で続けた。
「私、少しなら日本語できるデス。日本語で話すますか?」
日本国外に来てまで日本語でお願いします、とはなかなか言い出せず、再度シオンと顔を見合わせたまま目で会話をしていた。それを目にしたフアナさんは何を思ったのか、更なる提案をしてきた。
「私に日本語を教えてクダサイ。そのかわり、スペイン語、英語、教える、します」
シオンと顔を見合わせたまま、フアナさんの言葉に耳を傾けつつ私たちが出した結論は、私はフアナさんとの会話を日本語、教わるのは英語、シオンは会話を英語、教わるのはスペイン語とそれぞれ別の言葉を教えてもらうことにした。この説明だけだと、なんでシオンは英語での会話なのって思うでしょうが、私のためにそうしてくれた。私に英語が少しでも身につくように配慮してくれたのだった。
フアナさんとの交流も図れたところで、今日は解散となり、明日の朝から提案してくれたクスコへ行くことになった。
シオンと宿泊部屋へ戻り、コンビニで買った菓子パンを晩御飯の代わりに食べて初日は終わった。
翌朝、ペルー二日目はフアナさんの案内でクスコに行く。シオンがクスコまで来たなら、マチュピチュまで行けないか、フアナさんに相談した。しかし、スケジュールの都合上、時間が足りないとのことで断念したが、次にペルーを訪れた時はマチュピチュを案内してくれると言ってくれたため、シオンと今度は観光メインでペルーに来ようと約束し、一日楽しんだ。
ペルー滞在三日目にワークショップへ参加し、予定通り四日目から調査に加わった。調査場所での私たちの役割は、遺跡周りの発掘調査だった。土の下に何が埋まっているかわからないため、すべて手作業で行う。
初めのうちは、シオンと話しながらスタッフに掘り出したものを見てもらったりしながら楽しく作業に取り組んでいたけれど、普段は中腰の状態で長時間作業を行わない私たちには過酷な作業だった。
調査に加わって二、三日目は腰が痛いだの膝が痛いだの、とにかくどこかしらの関節が痛かった。スタッフや現地の考古学博士たちから、こまめに休憩していいよと言われていたが、それでは何をしに来たのかわからないと思い、痛いのを我慢しながら作業を続けた。
ここで無理をしなければ、間を開けることなく調査に参加できていただろう。調査に加わってから一週間と少し、日本とは気候が違う中で無理をしていたからだろう。私は体調を崩し、宿泊施設での休息を言い渡された。
私が調査に復帰できたのは帰国する四日前、ペルー滞在期間四週間のうち十日間も調査に参加できなかった。シオンは体調を崩すことなく、二十四日間の調査すべて参加していたが、私は半分ほど出られなかった。ペルーまで連れて来てくれた谷城教授や角崎さん、現地スタッフや現地の考古学博士らへたくさん迷惑をかけてしまうものとなった。
調査参加最終日、作業終わりに私たち調査へ参加した学生は、スタッフや現地の考古学博士らに一人ひとりお礼を言う場を設けられたため、私はお礼というより大半が参加できなかった謝罪に終わった。
ペルーを出国するときも、ペルーに到着した時と同様にスタッフの見送りがあり、スタッフと最後のお別れの時間、フアナさんに呼ばれた私とシオン。何を言われるのか、頭上にハテナを浮かべながらという表現が当てはまる表情でフアナさんのもとへ。
「アキさん、シオンさん、またペルーに来てください。私でよければ案内します」
英語でフアナさんは言った。シオンに訳してもらう必要がないほど、はっきりと聞き取れたことに感激し、英語を教えてくれたことも含めて、お礼を伝えた。
「ありがとうございます。絶対、また来ます」
私はフアナさんに教わった英語、シオンはスペイン語でフアナさんに感謝を伝え、私たちは搭乗口へ向かった。
フアナさんとの別れの挨拶を済ませ、見送られながらペルーを後にした。
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