第五話 勉強 と 準備

 大学生活初めての夏季休暇まで、あと三週間。私は、学期末テストに向けての勉強と並行し、シオンに英会話もといその基盤となる英単語を教わっていた。苦手科目がありながらも学期末テストのほうは、それほど気負わずともスムーズにできていた。


 その一方で、約2か月ほど講義の空き時間やバイトまでの空き時間、シオンに手伝ってもらって英会話の習得を頑張っていた。しかし、シオンとの英語での会話が成り立ったことはなく、常に怒られる始末。今日も、テスト勉強の合間にシオンと英語での会話を始めたのはいいが、英会話始めた時からずっと同じようなことを言われ続けてる自覚はある。


「アキ、この2か月の間、何やってたの? 単語すら覚えられてないのなんで? 私、言ったよね? 文法なんてどうでもいいから、できる限りたくさんの単語を覚えてって。なのに、会話に出てくる単語が2か月前と何にも変わってないの気づいてる?」


 同じことを言われつづけてる自覚はあるけれど、会話になると覚えたはずの単語が出てこない。なぜなのか、シオンに聞いてみた。


「会話になると出てこない時点で、覚えてないってことだよ!」


 だそうだ。これ、本格的にダメな気がする。私、英語向いてないじゃ……。


「じゃあ、どうすれば覚えられるの? シオンが作ってくれた単語集使って、発音してるけど、それじゃダメってこと?」


「アキさ、発音するときは私が作ったやつ見ながらだよね?」


「そうだけど……」


「だったら、その単語を今までの感覚で覚えたって感じたら、その単語が使われそうな場面、状況を想像して、その字状態のまま発音練習してみて。成果でなくてもいいから今日から一週間は実践してみて」


「わかった」


 新たな勉強方法を提案してもらって、その日から言われた通り、講義やテスト勉強、バイトの合間に実践した。



 シオンとの勉強会から一週間がたった今日。シオンと会話をしてみると、その勉強法は私に合っていたらしく、文法は勉強してないからめちゃくちゃなのは当たり前なのだが、思ったよりもスラスラと新たに覚えた単語が出てくるようになっていた。


「アキ、やるじゃん。出てきた単語の数は少なかったけど、前回よりは多くの単語出てきてたし、この調子で頑張ろう」


 たぶん、英会話の勉強を始めてから初めてシオンに褒められた気がする。それにより気分が乗った私は、英単語だけでなくテスト勉強にも身が入ったことで、期末テストも順調に終えることができた。



 期末テストが終わり、約2か月ある夏季休暇に入る。


「シオン、出国まで四日しかないけど、準備終わった?」


「終わってるけど。まさか、終わって……いや、手を付けてないって言うんじゃないでしょうね?」


「いや、準備しなきゃとは思ってた。思ってたんだけど、英会話の勉強とか、バイトとかあって買い物に行く暇なくて」


「ちょっと待て。アキの場合、暇がないんじゃないよ。何かを言い訳にして先延ばしにしてるだけ。バイトはしょうがないとしても、勉強の合間に行けばよかっただけでしょ」


 そう、シオンの言う通りだからぐうの音も出ないのだけど。


 私がぐだぐだ思いふけっていると、シオンが言った。


「アキ、今から買い物行くよ」


「へ?」


「一週間なんてあっという間に過ぎるんだから、今日明日中に準備やりきる」


 シオンは言い出してしまったら聞かないからなぁ、といっても私はそんなシオンに助けられてばかりなのだけれど。シオンに引っ張られる感覚で、というか実際に腕を引っ張られながら電車で一駅行った先のショッピングモールに来ている。買い出しの一番の目当ては現地での服と装備品だ。


「アキ、向こうでの服装が長袖のつなぎ服なんだけど持ってる?」


「つなぎ服なんて持ってないよ、着る時ないし」


「それなら、ここで選ぼ。色とかデザイン多いし」


 つなぎ服を選び始めてから、五分も経っていないはずなのに、シオンは決まったようだ。


「アキ、私これ買ってくるけど、ゆっくり選んでていいよ」


 シオンは、何かにつけて選ぶのが早いと思う。出会ってから半年も経たないが、悩んでいる姿を見たことない気がする。私も、早いとこつなぎ服決めないとだ。まだまだ買わなければいけないものはたくさんある。


 シオンに連れられるがままショッピングモールに来たのは朝の九時だったはずだ。現地での服装をはじめ、お風呂セット、洗濯洗剤等を買い終わるころには十二時を過ぎていて、モール内の時計は十三時を示そうとしていた。


「シオン、いったん休憩しよう」


「うわ、もう十三時! どおりでお腹が空くはずだよ」


 買い物を中断し、フードコートで遅めの昼食と休憩を取った。その間に残りの必要品をスマホのメモ帳にわかりやすく書き留める。残りの買い物を済ませ、両手いっぱいの荷物を持ち、最寄りの駅に着くころには十六時頃になっていた。


「今日は買い出しだけで終わり。明日、今日買ってきたものをスーツケースに詰めるから洗濯するものは終わらせて、他のものは出しといて」


「わかった。じゃあ、また」


 駅でシオンと別れ、指に食い込み痛みを発生させる荷物を持ちながら家に帰りついた。気づくと玄関でそのまま寝ていたようで、少し痛む身体で中へ移動し時計を見ると夜中二時。買い出しから帰ってきたまま、寝落ちたらしいが、そんなに疲れた感じがしなかったから不思議でならなかった。


 続きで寝られそうにもなく起きていようか迷ったが、記憶が正しければ、早朝といえるかわからないけれど八時にはシオンが押しかけてくるようなことを言っていた。それから察するに、このまま起きていた場合、シオンの到着を待って寝落ちる結果怒られる可能性というか実際にあったことがあるから、私からすると回避するべき事項になる。


 よって、今からの選択肢はひとつしかない。眠れなくても寝る。この一択を選んだにも関わらず、シオンが来るまで起きられず、結局怒られ、そのまま詰め込み作業に移り何とか終わらすことができた。

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