第5話 革命の食材

「さて、こんなところで今日は終わりだ。」

ジルコムは足元を見ながら呟いた。


木々の間を抜け、少し開けた場所に出たところで、軽く腰を伸ばした。

彼の背中には疲れを感じさせない余裕が漂っている。

すでに次の狩りや仕事について考えているようだ。


「じゃあ、俺は帰って休むか。」

ジルコムはそのまま歩き始めたが、ふと振り返り、ハルトに向かって言った。

「お前、住むところないなら、しばらく俺んちに住め。」


ハルトは一瞬驚いたが、すぐにその言葉の温かさを感じ取ることができた。

ジルコムにしては珍しく、少し気を使っているような気配があった。


「本当にいいんですか?」ハルトは少し戸惑いながら尋ねた。

「気にすんな。しばらくここにいるだろ?一人だと寂しいだろうし、無理して自分で部屋探すよりは楽だ。」ジルコムは軽く肩をすくめて答えた。


その表情にはまるで「どうってことない」という風に見えたが、ハルトにとっては非常にありがたい申し出だった。


ハルトはしばらく黙って考えた後、真剣に言った。

「じゃあ、せっかくなのでお礼に料理を作らせてください。これからは色んな食材を試したいと思っていたので、ジルコムさんに食べてもらいたいんです。」

ジルコムはその言葉に軽く笑った。

「料理か。お前、そういうことをしてみたかったのか?」


「前の世界では一応料理人でしたので。」ハルトは少し顔を赤くしながら答えた。

「自分で調理したものを誰かに食べてもらうのが好きなんです。」


「それなら、期待できそうだ。だが、食材がなければ始まらないだろう。」

ジルコムはにやりと笑いながら言った。


「お前、ここでは料理に使える食材を探して歩くんだろ?俺が教えてやる。」


二人はしばらく歩きながら、ジルコムがこの世界の食材や調理法について話し始めた。

「まず、ここにある植物はほとんど食べられるものだが、注意しないと毒のあるものもある。食材を探すのは見た目だけじゃなく、しっかりと知識がいるんだ。」

「なるほど…。」

ハルトはジルコムの話に耳を傾けながら、これからの料理にどう活かすかを考えていた。


「それと、動物の肉だが、普通の肉だけでなく、魔物の肉も意外と美味いことがある。シビガエルみたいなやっかいな魔物は食えないがな。モフエルは、野菜と一緒に煮込むと、ちょうどいいだろうな。」

ジルコムの話はどんどんと具体的になり、ハルトは興奮しながら頷いた。


やがて、二人はジルコムの家に到着した。

ジルコムが手に持った鍵を差し込み、扉を開けた。


「さ、入れ。」ジルコムが先に中に入ると、ハルトも続いて家に入った。室内は木の温もりが感じられ、心地よい空間だった。


「食材は教えるから、あとは任せる。」


ジルコムが食材の保管場所を指差すと、ハルトはそれに従ってキッチンの中を見渡した。棚には色とりどりの食材が並んでおり、どれもハルトには見慣れないものばかりだ。ジルコムは、ちょっとした自信を持って説明を始めた。


「まずは、これがモフエルの肉だ。市場で加工してもらったが、調理法によっては意外と美味いからな。」ジルコムは一塊の肉を取り出し、それをまな板の上に置いた。

「モフエルはウサギに似ているけど、食材としてはちょっと癖があるんだ。ソテーや煮込みがオススメだな。」ジルコムは少し考えながら言った。


「なるほど、ソテーですね。」ハルトはメモを取りながら、モフエルの肉を薄く切り分け始めた。ジルコムはその様子を見守りながら、次に別の食材を指差した。


「次はこれだ、光るキノコ。名前はルミナだ。」ジルコムが指し示したのは、青白く輝くキノコだった。

「ルミナですか…。」ハルトはその奇妙な光を見つめながら言った。「どうやって使うんですか?」

「いい出汁が出る。スープに入れると、香りが引き立つんだ。肉料理の付け合わせにも合う。」ジルコムはうなずきながら、ルミナを手に取り、その表面を軽く触った。「注意しろ、乾燥させるとまずくなる、新鮮なうちに使うんだ。」


ハルトは慎重にルミナを扱いながら、「なるほど。スープにぴったりですね。」と答えた。


次にジルコムが取り出したのは、黄色いチーズの塊だ。「これは溶岩チーズ。火山の近くで採れる特殊なチーズだ。これを溶かして使うと、料理に深みが出る。」

「火山の近くで取れるんですね…。自生してるチーズがあるのか」ハルトはそのチーズを手に取り、少し不安そうに見た。「でも、溶けるんですね?」

「大丈夫だ。しっかり加熱すれば、クリーミーで美味しくなる。オムレツに入れると最高だ。」ジルコムはにやりと笑いながら言った。「お前、オムレツはいけるだろ?」

「はい、得意です。」ハルトは少し照れくさそうに答えた。「じゃあ、溶岩チーズを使ったオムレツを作ってみます。」


ジルコムは次に棚から卵を取り出した。「これがコカトリスの卵。お前、見たことないだろ?」

「コカトリス…?鳥の卵じゃないんですね。」ハルトは少し戸惑いながら見た。卵の殻はかなり硬いが、その色は銀色に輝いている。

「普通の鳥の卵と違って、硬い殻だ。だが、この卵も料理には最適だ。フワフワに焼けるし、味も濃い。」

「なるほど…。」ハルトはその卵を慎重に割り、ボウルに割り入れた。


ジルコムが続けて言った。「じゃあ、オムレツ、モフエルのソテー、そしてスープを作るんだな。任せたぞ。」

「はい、頑張ります!」ハルトは調理を始めると、まずはオムレツから作ることにした。溶岩チーズを細かく切り、コカトリスの卵を泡立てて、フライパンに溶かしながら焼いていく。チーズが溶け、ふわふわのオムレツが形を成すと、ハルトは満足げにそれをプレートに移した。


次に、モフエルの肉をソテーし、ルミナのキノコを加えたスープを作り始めた。モフエルの肉がジューシーに焼けると、香りが立ち、ハルトは嬉しそうにそれを皿に盛り付けた。「完成です!」と満面の笑みで言った。


ジルコムはテーブルに着き、ハルトが作った料理を見て、しばらく黙っていた。料理の香りが漂い、ジルコムはじっとそれを楽しんでいる様子だった。

「いい匂いだ。」ジルコムは言った。「食べるのが楽しみだな。」

「ありがとうございます。」ハルトは少し緊張しながら答えた。ジルコムはゆっくりとフォークを手に取り、オムレツを一口食べた。


その表情が一瞬硬くなったかと思うと、すぐに柔らかく微笑んだ。「美味いな。さすがだ。」

ハルトはホッとした表情を浮かべ、「よかったです。」と答えた。


次にモフエルのソテーを食べたジルコムは、ゆっくりとその味を確かめるように噛んでいた。しばらくして、「これも悪くないな。」と頷いた。「お前、なかなかやるじゃないか。」


「ありがとうございます!」ハルトは満面の笑みで答えた。その後、二人でスープも楽しみながら、しばらく食事を共にした。


食事を終えた後、ハルトはふと思い立った。ジルコムが料理を終えた後の静かなキッチンで、次の課題に向けて考えを巡らせていた。


「ジルコムさん、このキッチン、もう少し借りていいですか?」ハルトは少し躊躇いながら言った。

ジルコムはその言葉に驚くことなく、「何をするんだ?」と、軽く眉を上げて聞いた。

「実は、シビガエルを調理してみたいんです。」ハルトの言葉に、ジルコムは思わず笑いそうになったが、それをぐっと堪えて言った。

「おいおい、やめとけって、毒だぞ。」

「でも…」ハルトは言葉を続けた。

「毒を取り除いた調理法ができれば、この厄介な生物も、この世界のためになるんじゃないかと思うんです。」


ジルコムはしばらく黙って考え込んだ後、ゆっくりと答えた。「そうか。じゃあ、好きにしてみろ。」

「ありがとうございます!」ハルトは決意を込めて言った。


ハルトは慎重にシビガエルの体を観察しながら、まず毒の場所を特定しようとした。体表に目立った傷や、異常な点は見当たらないが、ジルコムが言うように、毒がどこかに隠れているはずだ。


「やっぱり、口内か…?」ハルトは一つの可能性に気づき、シビガエルの口を開けて確認した。すると、口の中には暗い色をした液体が滲み出ているのを見つけた。これが毒だ。ハルトはそれを慎重に取り除く方法を考え始めた。


「やっぱり、口の中の毒が問題か…。」ハルトは小さなナイフを使って、慎重に口内をきれいにしていった。ジルコムが言っていた通り、シビガエルの毒はこの部位に集中しているらしい。それを取り除くことで、食べられる状態に近づけることができる。


続いて、体内にも毒が回っている可能性がある。ハルトはシビガエルを切り分けながら、内臓部分を調べた。その中で、特に腸の近くに強い臭気を放つ部分があった。どうやらここにも毒成分が含まれているようだ。


「この部分を取り除けば、だいぶ良くなるはず。」ハルトはその部分を慎重に取り除いた後、臭いが少しでも和らぐように注意深く調理を続けた。


ジルコムがそれを見守りながら、「毒の場所をうまく特定したな。だが、臭みが残るだろうな。」とつぶやいた。

「はい、でも何とかするつもりです。」ハルトは覚悟を決めて言った。


次に、ハルトはシビガエルの肉をフライパンで焼き始めた。その際、臭みが強く感じられる部分に香辛料を加えていく。まずは辛味の効いたハーブや、風味を加えるスパイスを使って、臭いを和らげる方法を考えた。さらに、火を強くして焼くことで、表面の臭みを完全に取り除こうと試みた。


「これで少しは改善されるはず…」ハルトは焼ける音を聞きながら、慎重にその香りを確認していた。香辛料がきつく香り立つとともに、だんだんとシビガエルの肉が焦げ、臭みが消えてきた。


その後、ハルトはルミナのキノコを使ったスープを作り、シビガエルを合わせて煮込むことにした。キノコが持つ良い出汁が、シビガエルの味を引き立ててくれるはずだ。


「さあ、これで完成だ。」ハルトは料理を一口食べてみた。最初は少し緊張していたが、すぐにその味に安堵した。確かに、まだ少しの臭みは残っているものの、十分食べられる味に仕上がっている。


ジルコムがそれを見て、ゆっくりと一口食べる。「…お前、本当にすごいな。あのシビガエルを食べられるようにするなんて。」

ハルトはその言葉に少し照れながら、「まだまだ試すべき食材がたくさんありますから。」と答えた。


ジルコムは少し考え込み、そして目を輝かせながら言った。「これはもしかすると新たな発見かもしれんな。」

ハルトはその言葉に驚き、顔を上げた。

「毒のあるものを、この世界ではすべて廃棄してきた。今まで捨てていたものを食べる方法を見つけたら、これは革命かもしれんぞ。」ジルコムは興奮気味に続けた。

「お前、食材の可能性を開いたってわけだ。お前の方法が広まれば、この世界の食文化が大きく変わるかもしれん。」

ハルトはその言葉に心が躍った。「本当ですか?そんなことができるんでしょうか?」

「できる。可能性は無限だ。少なくともお前の作ったシビガエルを食べた俺が証拠だ。」ジルコムはにやりと笑いながら、ハルトを見た。


ハルトは少し考えた後、力強く頷いた。「じゃあ、明日市場に持っていきましょう。試してみます!」

「そうだな!その意気だ。」ジルコムは肩を叩きながら答えた。「明日、持って行ってみろ。きっとみんな驚くだろうな。」


ハルトはその言葉に胸を高鳴らせながら、「わかりました。」と笑顔で答えた。

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異世界で厄介グルメを美味しく頂く! るえりあ @sakuchan97

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