かくも叶わぬ恋でした
ゆずリンゴ
第1話
俺、
高校1年生ともなれば多くの人と出会って、知っていくのだからその中から1人くらい自分の好みの相手がいてもおかしくはないだろう。
俺の場合はそう―――ひとつ上の先輩がその相手だった。
◇
「―――あぁ神様。なぜ私をこんな身分に産んでしまったの?平民であったなら何を気にするでもなく彼と話して、手を繋いで、唇を重ねることもできただろうに」
暗くなった体育館、ステージ上で物憂げな顔を浮かべながらドレスを着た1人の少女が城の中に囚われる姫を演じる。
今日は文化祭で、今は演劇部による発表が行われていた。
話の内容は貴族のお姫様と平民の男の子が主役のラブロマンス。しかし身分の格差に阻まれる2人。
「この扉を開けて下さい!どうか彼女と一言だけでも交わさせてもらいたい!」
「たかが、平民。それも街に出た姫を
「……っ。ならばせめて噂について聞かせて欲しい!隣国の王と婚約するという話……」
「あぁその話は
もちろん嘘だ。姫は青年を愛していることを父に伝え、結果、婚約のその日まで幽閉それた。
「信じてた……迎えに来てくれるって」
「ごめん……でも僕は君の気持ちを改めて知るまで無茶することも出来なかった」
「いいの。だってこうして今、貴方がいるのだから」
諦めきれない姫が願いを書いた紙を飛ばし、それをキッカケに迎えに行き―――最後に2人は駆け落ちすると幸せなキスをして終わり迎えた。
◆
「みなさん公演お疲れ様でした」
「「「お疲れ様でした」」」
舞台の幕が下がり、裏に下がると声が響き過ぎない程度の声で青年役こと部長の一声を始めに労いの言葉が口にされた。
「ところで最後のシーン……あれ、口付けてたか!?」
「は……は!?し……してないけど!?」
「えー?本当かなぁ?」
そうして裏方役の3年男子が副部長で姫役の
(見間違いであってくれ)
声に出すことは無いが、胸の内でこぼす。
俺はまだ1年生ながら脇役とは言えど役者として出ていた。そして出番を終えた後の舞台裏でも唇が重なっているようにそのシーンが見えた。
悪い冗談であって欲しかった。そうでなくともせめて、何かのアクシデントであってほしい。
そうでなければ可能性が潰えてしまうから。
「そ、それよりもさ!最後の舞台成功して良かったよね」
「あぁ、本当に。俺ら3年にとって最後だったからな」
舞城先輩と部長が話題を切り替えるように言う。
最後……最後か。 3年はこれを機に部活を引退してしまうから、一緒に発声練習を共にすることも、演技について意見してもらうことも……話しかけられるキッカケも無くなる。
「どうした七瀬、顔が暗いぞ?やっぱり先輩が居なくなるのは寂しいか?」
気分を落としてしていたからか、部長が声をかけてきた。
「……はい。寂しいです」
「お、素直だな」
「短い間でも、3年生の皆さんにはお世話になったので。もっと一緒に練習したかったです」
「おぉぉ……七瀬そんなに俺らの事を!」
実際、どの人にも凄くお世話になった。どの人も素人の自分に優しく教えてくれて……舞城先輩を好きになるキッカケも、その一環だった。あんまり自分の声に自信を持てないでいた時に声を「カッコイイ声なんだからもっと自信を持たないともったいないよ」なんてお世辞でも、胸が動かされる。
もしかすると、自分が単純なだけなのかもしれないけど。
「七瀬君、本当に成長したよね。きっと来年は良い先輩になれるよ」
「そんな、俺なんてまだまだで……」
そうだ、俺は結局自信を持てずに1番伝えたい言葉を言うことが出来なかった。
「こら、自分を下げない!七瀬君なら大丈夫だから自信もって」
それなのに事を普通に言ってくるのだから本当に……
落ち込むことすらも出来ない。なんだか恥ずかしいくらいだ。
「それじゃあ、余韻に浸ったことだし後片付けに移るか!」
そうして部長の一声で始まり本当に、舞台が終わるように元の姿に戻っていくのだった。
◇
―――後日
あの舞台が終わり、2年生が中心となった部活を過ごすようになったこの頃。俺は自室の机の中にキチンとしまわれた1枚の手紙を取り出した。
「は……『好きです、付き合って下さい』なんてさ短い手紙も渡せないでこんな所に丁寧に入れっぱか」
心底、ヘタレな自分にため息がでる。
もう今更渡そうにも、手遅れのようなものだが……本当にどうしたものかと思う反面、まだ諦められない。そうだ、自信を持とう。
さて、どうやってこの気持ちを伝えるか。
えぇと……そうだな。どうせ書かれているのは短いセリフなのだし……
1つ、決心を決めるとその手紙は破り捨て、この先伝えるであろうセリフを予行練習するのだ。
「貴方が好きです」
かくも叶わぬ恋でした ゆずリンゴ @katuhimemisawa
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