君は幸せでしたか？

僕の愛する君へ

ゆるやかに揺れるカーテン

穏やかな日差しの中に

君がいつも飾る季節の花の中に

感じる春の訪れ

僕がいなくなるとき

本当は心から「ありがとう」と、君に伝えたいんだ

でもそれは、かなわないかもしれない

もしかしたら、君は間に合わないかもしれない

それでもかまわないからね

そのときのため、今のうちに君に手紙を書いておきます

◇ ◇ ◇

中庭にある大きな桜の樹

病院案内の表紙を飾る満開の桜は、きっとこの樹だよね

春になったら、ここでお花見できるねと君は言ったね

ごめん

その約束は守れそうもない

僕は子供の頃からずっと運がなくて、

じゃんけん、おみくじ、あみだくじ、商店街の福引き、宝くじ……何ひとつ良い結果になった試しがない

君とのデートも雨ばかり

一度だけ一緒に行った競馬場では、

あいかわらず僕は負けてばかりで、最後に君が大当たりしたよね

「簡単でしょ。あなたが賭けないところを狙えばいいの」

君は笑ってそう言って、乾杯したっけ

君とめぐりあえたこと

僕の全ての幸運は、そのためだけにあったのかもしれない

僕の前ではいつも笑顔でいる君

奇跡は起こらないから

僕がいなくなったあとには、もう我慢しなくていいよ

今までの分もいっぱいいっぱい泣いて

そして、また前を向いて歩き出せる日が来るまで

無理せずにゆっくりと、ね

ありがとう

君と一緒に過ごせた時間は、とても幸せでした

僕のただひとつの気がかりは

君は幸せでしたか？

この手紙を君が読むとき、僕はもういないけれど

君のこれからの長い人生を

明るい光が照らしてくれますように

小さな幸せが次々とやってきますように

僕が君のこれからの物語の足かせとなりませんように

君の笑顔が大好きです

……アイシテル