【二章】鑑定士VS裏の支配者〜攻略情報を巡る攻防〜(ここから読んでもOK)

第1話 叫魔草

 仕事を辞めて冒険者になってから、もうすぐ一か月が経つ。


 最初は、鑑定士だった俺が冒険者としてやっていけるのか、不安だった。


 そんな中、危険を避けて一階の雑魚を狩っているとレベルが上がった。


 すると【鑑定】で素材アイテムの不思議な力が見えるようになった。


 その力を駆使することで、非戦闘系スキルの俺でもなんとか魔物と戦えるようになった。


 俺はこれからも低階層で安全に細々とやっていこうと思っている。


 しかし、ギルドで働いていた頃に比べると、まだ収入は少なく安定もしない。


 俺の認識では、ダンジョンの最下層は百階のはず。ならば、もう少し進んでも大丈夫だろう。


 つい先日、新しく仲間になった魔術師のマリルと共に、十階層のボス・ケルベロスを撃破した。


 そう、この先でも稼げる権利を獲得したのだ。


 そして今——俺は再び十階のボス部屋へと足を踏み入れていた。


「また出てきたりしないよな?」


 俺は辺りを見回し、呟く。


 ギルド長曰く、ボスは一度倒すとフロア内の魔力が十分溜まるまで復活しないらしい。


「流石にまだ復活してないですね……このまま十一階層まで行きますか?」


 マリルも周囲を確認する。


「俺たちはまだまだ稼ぎが少ない。危険のない範囲で、潜れるところまで潜らないと」


「そうですね! 今日も頑張りましょう!」


 そう言って俺とマリルは下へ続く階段を降りていった。



 十一階層。


 足を踏み入れた瞬間、そこはこれまでとは全く異なる景色だった。


「……森?」


 今までの石造りの通路とは異なり、ここはまるで樹海のような場所だった。


「環境がガラッと変わりましたね……」


 マリルが慎重に辺りを見回す。


「魔物も、今までとは違うはずだ。慎重に進もう」


 周りを警戒しながら進んでいく。


 するとその時——


 突然、土の中から何かが飛び出してきた。


「きゃあっ!!」


 マリルは驚いた勢いで倒れ込む!


「大丈夫か!」


 俺は倒れるマリルの前に出る。


 そして、すかさず魔物に向かって【鑑定】を発動した。


《マンドレイク》

レベル:3

重 さ:9kg

魔力量:350/350


「こいつがマンドレイク!……っん!?」


 俺は今の結果に見慣れない情報が入っていることに気づく。  


 これまで名前、レベル、重さだけがわかっていた。


 しかし今、魔力量がわかった。


 もしかしてこの前のレベルアップで調べられるようになったのか?


 まぁ、いい、そんなことは後で考えよう。


 今は目の前の魔物を倒すことを優先しなければ。



 俺はマンドレイクの心臓部分にある魔石に【部分鑑定】を発動した。


《魔石》

氷属性:46%

風属性:40%

光属性:7%

闇属性:5%

炎属性:2%


「マリル! こいつの弱点属性は炎だ! 炎魔法で攻撃してくれ!」


 マリルが頷き、詠唱に入ろうとした、その瞬間——


「ギャアアアアアアア!!!」


 マンドレイクが突如として叫びだした。


「っ……!?」


 俺は咄嗟に耳を塞いだ。


 耳を塞いでいても、頭の奥に響くような不快な振動が広がる。


 しばらくするとマンドレイクは叫ぶのをやめた。


 すかさず俺が攻撃に移ろうとしたその瞬間——


「いやぁぁぁ!」


 マリルが何かに怯えたように叫んだ。


「マリル、どうした!? しっかりしろ!」


 俺が声をかけるも、彼女は震えながらその場に縮こまってしまった。


 何が起こったのか理解が追いつかない。それでも俺は考えた。


 ——マリルは魔法を発動しようとして、耳を塞がなかった。


 そのせいで、叫びをまともに受けてしまった。


 やつの叫び声には、錯乱状態を引き起こす効果があるのかもしれない。


「くそっ……!」


 俺は剣を構え、マリルを守るように攻撃を捌く。


 マンドレイクはここぞとばかりに猛攻を仕掛ける。


 威力もスピードもそこまで大したものではない、だが、このままではジリ貧だ。


 突破口はないか……?


 マンドレイクの攻撃をいなしながら、俺はふと思った。


「……技を使う時、魔力がそこに集まるよな」


 試しに【部分鑑定】を発動——


 すると、マンドレイクの口元に魔力が集まるのが見えた。


「やっぱりな」


 マンドレイクが猛攻を止め、口を大きく開く。


 今だ!


 俺は魔物の猛攻が止んだ一瞬の隙に魔石を狙って剣を突き立てた。


「キェェェェェ!!!」


 マンドレイクはチリとなり、魔石が地面に転がる。


「……よし」


「……この程度ならこの階層も大したことないな……」


 俺は息を整えながら、魔力視認の新たな活用法を確信していると——


「カテンさん……すごいです……!」


 マリルが驚いた表情で俺を見ていた。


「え? いや、魔力が集中してきたから、もうすぐ攻撃が止まると思って、そのタイミングで斬っただけだぞ」


「……それがすごいんですよ!」


 マリルが思わず語気を強める。


「普通、魔力の流れなんて見えないんです! それが見えるだけでも異常なのに、攻撃のタイミングまで読めるなんて……とんでもないことですよ!」


「そう、なのか……?」


 俺としては、見えたから攻撃しただけなんだが……


 ただ、それができるようになったのは【鑑定】が成長したおかげだろう。


 俺は次なる戦いに向けて準備を整えた——。

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