第2話 アイテムNo.008

 マンドレイクの攻略法を掴んだ俺たちは、次々と現れる魔物を倒しながら階層を下っていた。


 階層が下がるにつれて、マンドレイクの数は増えていく。


 最初は慎重に対応していたが、戦闘の度にいちいち【部分鑑定】を発動するのに俺は手間を感じていた。


「……毎回鑑定するの、正直めんどくさいな」


「しょうがないじゃないですか。それがないと魔物がいつ叫ぶかわからないんですから……。見ただけで魔力の流れが分かればいいんですけどねぇ」


 マリルが冗談めかして言う。


「見ただけでか……」


 何気なく目に魔力を集中させてみると——


「……ん? あれ?」


 視界にマリルの情報が浮かぶ。


「マリル! 目に魔力を集中させたら、見ただけで分かるようになったぞ!」


「えっ!? 本当にできちゃったんですか!」


「なんとなくやってみたらできた。コレでいちいちスキルを発動しなくてもいいし楽になったよ。ありがとなマリル!」


「いえ、私は冗談で言っただけなのに……まさか本当にできるなんて……カテンさん、すごいです!」


「別にスキルを常に発動しているってだけだぞ? そんなにすごくないだろ」


「……もういいです! カテンさんに説明しても無駄なので……でもコレで急に敵が出ても対応できるってことですね!」


 俺はあまり納得がいかず首を傾げていると——


「ところで、カテンさん、何を見て確認したんです? ……まさか……私のことを見たんですか!?」


 マリルが頬を染め、不安そうに俺を見つめる。


「いや、体重とかは見えてないぞ! 見えたのは筋肉の付き方とか魔力の流れだけだ」


「そ、そうですか……よかった……」


 マリルは胸を撫で下ろしていた。



 その後、【常時鑑定】ができるようになった俺は快適に探索を進めていた。


 そして——


 気づけば十五階層へ続く階段の前まで到達していた。


「ここまで、結構進みましたね」


「ああ。そろそろ新しい魔物も出てくるかもしれないな」


 俺たちは気を引き締めて十五階層へ降りた。


 景色はほとんど変わらない、しかし木の数が多い気がした。


「……なんか、木が増えてません?」


「やっぱりそうか、俺もそう思ってたんだ。視界が悪くなったし魔物に気をつけて進もう」


 そう言った矢先、【常時鑑定】をしていた俺の視界が魔力を捉えた。


「マリル、ちょっと待て!」


 だが、目の前には何もない。これまで通り生い茂る自然があるだけだった。


「ん……?」


 しかし、魔力はすぐ先にある木の辺りからはっきりと感じる。


「どうしました?」


「いや、あそこの木の辺りに魔力を感じるんだが……もしかして何か隠れてるかもしれない」


「えっ! 本当ですか、でも何もいないですけど……」


 しかし俺はそのまま魔石の属性割合も試みる。


《魔石》

風属性: 52%

氷属性: 24%

闇属性: 14%

雷属性: 10%


「やっぱり、何かいる! 風属性が多い……雷が弱点か」


「マリル! わからないが、とりあえず雷魔法で……って雷魔法はまだ——」


 マリルはまだ雷魔法が使えなかったことを思い出し、言葉を濁したその時——


「フッフッフ……カテンさん、安心してください! 実は私、【サンダー】を覚えたんですよ!」


「本当か!? それなら頼む!」


 マリルは構え、詠唱する。


「【サンダー】!」


 雷撃が走り、目の前の木に直撃。


「グォオオオオッ!」


 すると、魔物の悲鳴が上がる。


「……え? 本当に何かいた!?」


 マリルが驚く。


 次の瞬間、鈍い軋む音をさせながら木が動き始めた。


「木が動いた!?」


 慌てて【全体鑑定】を発動。


《トレント》

レベル:4

重 さ:500kg

魔 力 : 25/25


「こいつ……木に擬態した魔物だ!」


 俺は剣を構え、魔物を見据えた。


「木が……魔物だったんですか!?」


 マリルが驚き、思わず後ずさる。


「魔法が効いて弱ってる! とにかく、今のうちに仕留めるぞ!」


「わ、わかりました!」


 トレントは雷を浴びてすでに瀕死の状態になっていた。


 俺は一気に駆け寄り、魔物の中心を狙って剣を突き立てた。


「グォォォォ……」


 トレントは光の粒となって消えた。


「これ、カテンさんが【常時鑑定】を使えなかったら、不意打ちされてましたよ! 本当にすごいです!」


 マリルは安堵した表情で続ける。


「カテンさんがいなかったら、危なかったですね……」


 俺は褒められすぎて少し困惑する。


 見えたから対応しただけなのに、そんなに大げさに言うことか?


 それに……熟練の冒険者になれば気配で察知できたりするだろ?


 なんとなく腑に落ちないまま、剣を収めた。


「……それにしても、一日で結構進めたんじゃないか?」


「そうですね……今日はマンドレイクの倒し方もわかりましたし、木に擬態する魔物がいるってこともわかりました。成果としては十分ですね!」


「ああ、今日はこのぐらいにして帰るか」


 俺たちはダンジョンの出口へ向かう。


 その途中、ふと地面の一部が赤茶色の砂のようになっているのに気づいた。


「……ん? これは?」


 【鑑定】を発動。


[アカスナ]

水を加えて丸めたものに魔力を込めると『泥人形』を生み出せる。

《泥人形》

単純な命令を理解し、実行することができる。


「はっ!?」


「どうしたんですか?」


「……なぁ、マリル、アカスナって研磨剤とか砥石代わりとして使うもんじゃなかったか?」


「そうですよ。もしかしてコレにも何か特殊な使い方があったんですか?」


 俺はマリルに鑑定で見た情報を伝えた。


「えっ!? 泥人形! なんですかそれ!!」


 マリルが驚愕する。


「……コレは試してみないとわからないな……でも確実に使えそうな予感はする!」


「帰って、試してみましょう!」


 俺たちはアカスナを袋に詰めて、満足感を胸に、ダンジョンの外へ向かった——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る