正義の味方と悪魔の使者

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正義の味方と悪魔の使者

ある普通の会社員が休日に近所のバッティングセンターに一人で遊んでいると、

110Kmのボールがバットをかすり、運悪く顔面に当たってしまった。

痛いなと思いつつ、プレイを続行すると、いきなり球が止まって見えるようになり

簡単にバカスカとホームランを打てるようになった。

急に力が付いたわけでもないのに、何所をどう打てばホームランが打てるか手に取るように分かった


おかしいな、と思いつつその日はそのまま家に帰ったが

そこから男は思い描いた動きが寸分たがわず出来るようになった。

紙と鉛筆があれば、その場の風景を写真のように書くことができるし

さいころを降って毎回同じ目を出すことも出来るようになった。


脳が今までとは比にならないくらいの伝達能力で、眼や脳からの情報を寸分たがわず体に伝えることができるようになったのだ。

虫歯や腰痛、近眼など、体の弱った部位に対して”自分は健康である”というウソの情報を流し続ければ

一週間くらいですべてよくなったし、YOUTUBEとかでRIZINの試合とか見て格闘技をやっている自分を思い描けば、良い感じで筋肉がついた。

もしやと思ってスーパーマンをプライムビデオで見まくったら1月くらいで眼から光線を出せるし、空も飛べるようになった。

(頭の方はいくら”頭のいい自分”を思い描いても、計算や想像力は発達しなかったので2週間くらいであきらめた。)


超人的な能力を手に入れた男は今度はこれを何に使おうかと考えた。

最初はプロ野球選手とかを考えたけど、あまり目立ちすぎてもあれだしどうしようと思った。

考えた結果、この力を正しいことのために使おうと考えた。


男は今までだって、24時間テレビや街中の募金、ビックイシュー、検血も行ったことがある。“俺はこう見えてドナーカードは全部丸をつけてるんだぜ。“が彼の決まり文句だった。

別に何か特別な宗教を信じているわけではないが、自分が負担にならない程度で進んで善行を行うことは彼にとっては普通のことだった。


早速彼は深夜の1時に自転車を漕ぎドン・キホーテへ向かい、マスクを買った。


覆面を被りその力を使って人助けをしようと考えた。

火事や地震、犯罪者の逮捕など、幅広い活躍をみせ、

市民から“正義の味方”だと大喝采を浴びた。


しかし、しばらくして若い会社員は不眠症になった。

眠れない夜が続き、イライラがピークに達したある夜、男は台所から包丁を一本引っつかみ、外に飛び出した。

そして、通りがかりの子連れの母親を包丁で突き刺す。

それから家に戻って、久しぶりにぐっすり眠れた。


その日から、その男は良い事をしたら、その分悪い事をしないと居ても立っても居られなくなる。

それなら良い事自体を止めればいいのだが、もうすでに中毒のようになっているので、これが辞めるに辞められない。

世間は最初、正義の味方と悪魔の使者が居て、いつか二人は会いまみえるはずだと、思っていた。 

しかし、いつまで経っても一緒に鉢合わせる事はない、地震や火事、津波などになったら、必ず人命救助にかけつける正義の味方が、なぜか悪魔の使者が悪さをしているときには姿をみせない。 

世間はその事に対して疑問を抱き、いつしか“もしかして、二人は同一人物なんじゃないか、、”と言われ始めた。

男は正義の使者になってる時も肩荷が狭くなる。世間からブーイングを受けるようになる。 ある火災現場で子供を助けたら、その子供に唾を吐きかけられた。

良く見るとその子は、最初に通り魔をした時に刺した女性の子供だったのだ。

 

それでも男は良い事も、悪い事も止められなかった。

ある日、男が普通に会社に勤めていると、警察に捕まってしまう。

会社の同僚が、男が正義の味方になったのをたまたま見かけて、警察に垂れ込みをしたのだ。

男は捕まり、檻の中にぶち込まれる。 仕方がないので、正義の味方であることは自白したが、自分が悪魔の使者である事は頑として認めなかった。

そんな事をしてもいずればれてしまうのは解っていたが、一応必死で否定した。

男は独房で生活をしながら、これで良かったのかもな、、こうならないと、自分で止める事は出来なかっただろう。と考えた。

しかし、ある日、警察庁の長官が血相を変えて男の目の前に現れ、土下座をしてきた。

「ごめんなさい!私達が全部間違ってました!」

なんと、あの後悪魔が出て来て町を破壊して回っているのです!

軍隊が束になっても敵わないので、何卒助けて下さい!

訳が分からなかった、悪魔は自分だったので本物が現れる訳がなかった。

だがせっかくの独房に出るチャンスをふいにするわけにはいかんので

彼らの言うことに適当に合わせて良く解らず独房を出て出撃した。

実際に悪魔に会ってみたらまさしくそこには自分自身がそこに居た。

「お、おまえは誰だ!?」

「俺はお前だ、お前は悪い心を持っていて。そんな自分が嫌で仕方なかっただろう、

だから心が分離して俺が生まれたんだ、さあ俺を倒して完全に俺を消してみろ」

男は訳が分からず、悪魔に迎え撃った。

いきなり攻撃してきたので、ちょっと焦ったけど冷静に対処した。

ちゃんとブロックしたつもりだったけど、いかんせん重すぎた。

ガードした左手はメキメキと音を立て、ゆっくりと音を立てて壊れていった、

そしてそのまま攻撃している拳は頭に向かっていき、またメキメキと音を立てて粉砕されてしまった。

粉々に砕け散った頭は四方八方に飛び散った。

悪魔はびっくりした。

まさか自分が勝つとは思ってなかったので、唖然としてしまった。

どうしよう、どうしようと思ってたら霧が晴れて公衆の面前に晒されてしまう。

悪魔はとっさに正義の味方のマスクを被り、自分の悪魔のマスクを死体に被せた。

そして、悪魔のマスクを被った正義の味方を持ち上げ

「正義は勝った!私が倒した!」

と高らかに叫んだ。

民衆はそれに呼応するようにけたたましい叫び声を上げた。

民衆の声に答えながら悪魔の使者は、これからどうしようと悩んでいた。

自分の中にあった正義の心は完全に消え失せ、悪いことをしたいという欲望だけが残ってしまった。

マスクの中は悪い心で満ち溢れ、猛っているのにもうそれを発散させる場所は何所にもなくなってしまったのだ。


男は絶望し、自分の残された長い人生に思いを馳せた。


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