第13話:嵐の海戦(1)
邦歴2242年9月10日、珍しく嵐の日に同盟国海軍第五艦隊の訓練部隊は国境北側のイストラン海域に現れた武装集団との戦闘を開始した。
今回の艦隊任務は当該海域の哨戒と訓練の予定であった。ラーク・アヤメ・キャメルの三人は少佐であり、ラークは駆逐艦艦長として五隻の艦艇で編成された小部隊を率い、キャメルとアヤメは第五艦隊駐在陸軍及び海兵隊の合同訓練の形で強襲揚陸艦ミルソルデに搭乗し艦隊本体と別行動で海域名と同名の主島イストランに上陸、奪還の訓練の流れであった。
同盟国においては、島嶼国家の集合体という経緯もあり、当時の国名がそのまま海域名や島名として残されている。伝統的な住民たちへの配慮でもある。
修了後は島へお金を落としていくのも訓練の常であった。
イストランは普段は比較的穏やかな海域で、嵐もめったに起こる場所ではなく島の南側は天然の要害となっており、同盟国北側の防衛を担当する第五艦隊としては揚陸部隊が定期訓練を行う場所として比較的使いやすく使い慣れた場所でもあった。
部隊がイストリア島に近づいたころに突如嵐に見舞われ、悪天候ではあるが訓練にアクシデントはむしろ好都合とラークの指揮する駆逐艦がアヤメとキャメルの揚陸艦を護衛する形でイストラン島上陸ポイントに進軍していた。
「アヤメ・・・この揺れ何とかならんのか・・・」
キャメルが不機嫌そうに尋ねる。
「そう言うなよ!この嵐は想定外だ、見ろ!海兵隊には一人も具合の悪いものはいない、陸軍がたるんでるんじゃないのか?」
「何を言っている、陸軍にだって船酔いするような軟弱物はおらん。ただ不機嫌なだけだ・・・」
「しかたないよ、
「あぁ」
通信モニターでアヤメがラークに回路を開く。
「ラーク、そっちはどうだい?こちらは上陸準備ほぼ良し、あと五分もあれば全員出られるよ。」
「こちらは大丈夫だ、嵐が少々きついが問題ない。準備出来次第上陸開始、仮想目標に対し制圧訓練を行う。・・・にしてもキャメルの不機嫌そうな顔は何だ?」
「嵐がめんどい」
「指揮官が何を言っている・・・アヤメ、頼むぞ」
「了解」苦笑しながらアヤメがモニターの前で敬礼する。
「よし、ではタイミングを計って上陸訓練を敢行する。本艦が訓練用の空砲を発射したタイミングで二人は作戦開始してくれ。今から時刻整合(時計の時刻合わせ)をする。」
『了解』ハモった返事と同時に3人が腕時計の時刻整合を開始する
「現在09時19分《マルキューイチキュー》、
「時刻整合異常なし」「同じく」
キャメルとアヤメが報告するとラークが言葉をつづけた。
「作戦開始は
『了解』
二人の返事の後ディスプレイが黒い液晶画面に戻る。
訓練開始までは手持無沙汰になった二人である。
「さて、準備は終わってるし訓練開始までゴロゴロしとくかね」
「そだね、まだ30分ぐらいあるし。私も少しゴロゴロしとく。」
「ラークは何か艦長っぽかったよなー」
「うん、何か『ファイエル』とか言い出しそう」カラカラ笑いながらアヤメが茶化す。
「だな、それじゃ後でー、
「はーい」
二人が自室に引き取った約30分後、アヤメとキャメルがBRの前で鉢合わせ入室しようとしたその時、艦内に警報音が響いた。それと同時に、艦全体が大きく左右に揺れた。
「キャメル!」「あぁ、
揚陸艦の予備艦橋を兼ねるBRには既に上陸作戦の幹部連中が二人を待ち受けており、入室と同時に一斉に敬礼を行う。
答礼もそこそこに二人は艦橋との通信パネルを開いた。
「艦長!何がありましたか?!」
キャメルの問いに艦橋で上陸訓練の準備をしていた訓練隊長ジョン・ニル中佐が慌てた様子で二人の問いに応える。
筋骨隆々で30代半ばと若手ながら、白兵戦でついた顔の傷がトレードマークの豪快な風貌の軍人である。
「敵襲だ!嵐による視界不良のため所属は不明!艦形から分析中だが大きさから戦艦から巡洋艦が複数いると思われる。訓練部隊は準備中止、即時出撃準備!私は艦隊司令部に援軍を要請する!こちらの護衛部隊はスピークス少佐指揮の駆逐艦1隻と水雷艇2隻、潜水艦2隻の小部隊しかおらん。揚陸艦は最低限の武装しかしておらんから戦艦や巡洋艦のいるような部隊と交戦しても勝ち目はないし、少佐の邪魔にしかならん!我々は一旦下がる!」
ニル中佐は揚陸艦部隊の3個小隊を指揮する海兵隊の中級指揮官であり、ラークより階級は上だが、今回は訓練のオブザーバーで参加しており、海軍であるラークの指揮する小隊に直接指揮命令権を持たない。
自分が階級だけでラークの指揮に口を出せばこのような事態では全滅しかねないことを熟知しており、ニルは即断で後退の指示を出した。
キャメルもアヤメも否やは無く、その場に居合わせた部下達に格納されている上陸用舟艇に総員搭乗させ待機を命じた。
「メビウス少佐もランバージャック少佐も部下への命令助かる。それと、いくら武装が貧弱とは言え魚雷ぐらいは揚陸艦も装備している。後方に下がりつつも戦闘は行える体制はとるのでそのつもりでいるように」
『はっ!』通信が途切れ、部下の退室を見届けた二人はラークへの通信回路を開いた。形式的な敬礼も放棄してキャメルがラークに問いかける。
「おい、状況はどうなっている?」
「おう。今の所部隊に損害はない。が敵さんは分艦隊規模で来ている。このまま双方の距離が詰まれば一方的に殲滅されるな・・・。今の所大丈夫だとは思うが長くはもたん。司令部に速報は入れている。それまで耐えねーとな。」
「こちらの揚陸艦は後方に下がりつつ準備は整えている。いつでも出られるぞ。」
「助かる。いつでも出られる準備はしておいてくれ。」
「おけ、私もいるからね!」
アヤメも映像に割り込む。
「頼りにさせてもらうよ、ではな。後ほど」
そう言うとラークとの通信が途切れた。
その瞬間、さらに大きな揺れが二人を襲った。
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