第14話:嵐の海戦(2)

艦外に鈍い爆発音が響き、船体が大きく揺さぶられる。転覆するほどではないが、至近に着弾したようだ。

「急ぎ第一艦橋メインブリッジに戻ろう、ここでは艦長とうまく連携が取れん。」キャメルの提案にアヤメも同意し二人そろって環境へと駆け出して行った。


幸いなことに艦体に直接着弾してはいないが、周囲の海中に着弾した砲弾が炸裂しており、時折大きな揺れが襲ってきている。

揺れに足を取られかけながらも漸くメインブリッジに到着した二人が敬礼と共にニル中佐に申告する。

「申告します!キャメル・メビウス陸軍少佐、到着致しました!」

「申告します!アヤメ・ランバージャック海兵隊少佐、到着致しました!」

指揮卓前に仁王立ちしていたニルが振り返り、答礼を施す。

「せっかく二人に来てもらったが、現在のところ本艦は急速後退しスピークス少佐の指揮する部隊後方に向かって転進している。間もなく敵の艦砲射撃の射程外に出る予定だ。その後は少佐の後方200メートル付近まで下がり、待機する。何か質問は?メビウス少佐」

「現在の損害は?」

「人的被害も物的被害もない。ランバージャック少佐は何かあるかね?」

「本艦は攻撃には転じないのですか?」

「今は無理だ。敵の方が数が多い上に、少佐の部隊が対処している。今攻撃に参加するよりも後方から必要があれば魚雷による攻撃を行う方が味方が混乱せずに済むだろう。」

「承知しました、ただ彼我の戦力差は相当大きいものと存じます。敵方には戦艦や巡洋艦もいるとの事。スピークス少佐が防ぎきる、もしくは撃退するのは不可能と存じますが・・・」


アヤメの疑問にニルは尤もだという顔でうなずきながら武骨な手で左ほおの傷跡を撫でる。

「無論だ、スピークス少佐とも打ち合わせている、彼も無理とはわかっているので既に艦隊司令部と連絡を取っていたようだ。貴官らも知っての通り、今回の訓練は管轄海域全域の視察も兼ねているため複数の海域に第五艦隊を分散させて実施してしまっている。故に各地に分散した艦隊がここに集結するまでにかなり時間はかかるが急ぎここに集結するそうだ。最短は隣のロンヒル海域で艦隊運用訓練を行っていたマーベリック少将閣下の分艦隊が1時間で到着する。最低限そこまで凌げば、現在把握している敵戦力と拮抗できる。その後は随時集結していけば問題なく撃退できるだろう。この一時間が山場だ。難しいかもしれんが元々の目的が訓練で出動している以上死者を出さないように努めたい・・・貴官らの協力を頼む」


アヤメに代わりキャメルが質問を重ねる。

「承知いたしました、それで敵戦力の詳細な規模は?」

「うむ・・・こちらを見てほしい、おい!」

「はっ!」

副官が返事と共にコンソールパネルを操作し、艦橋上部の巨大なメインディスプレイに分析された敵艦情報が映し出される。


「見ての通りだ、恐らくは総旗艦としての戦艦1隻、高速戦艦2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦4隻、補給艦4隻の合計15隻、補給艦はほぼ非武装で戦力としては除くとしても11隻、我々の倍だ。わが軍にとって幸運なのは、潜水艦と揚陸艦の部隊は擁していないという事だ。これは周辺の海域調査を行って潜伏している艦がいない事も確認してある。まだ海上戦力のみと言うのが救いだ。戦艦の艦形分析も行ったが、上陸用舟艇を格納できる設備はなさそうだ。」

「確かに、もしこれで敵艦に乗り込める揚陸部隊や潜水艦がいれば一時間はもちませんな。味方が来る前に全員海の藻屑ですな。」


「縁起でもないこと言うものではないメビウス少佐。だがその通りだ、我々は防衛に専念せねばならないとはいえ反撃の余地はある。そこでだ、これも既に司令部の許可と少佐の同意は取り付けているが・・・」

「陸軍と」「海兵隊で」『敵艦隊に殴り込みしてこいと?』

アヤメとキャメルが嬉しそうに上司の発言を奪い取った。

「先ほど私は『死者を出したくない』と言ったが覚えているのかね・・・?片道切符にしかならんかもしれんのだぞ?」

「わかっていますよ、それにただ突撃してこいなんて言わないでしょう?」

キャメルが苦笑しながらニルに確認すると、ニルも苦笑しながら返した。

「流石に無謀な突撃を喜んでするほど戦闘狂バーサーカーではないか。無論だ、二人ともこちらを見てくれ。」

タッチパネルモニターが搭載された巨大な戦術指揮用テーブルに両軍の配置図が映し出される。

「スピークス少佐。聞こえるか?テーブルを共有している。MTGを始めるぞ。」

ニルの問いかけに、「了解」とラークが音声のみで反応し、MTGに参加していること示すグリーンのステータスランプが灯いた。

「メビウス少佐、ランバージャック少佐、これはスピークス少佐がこの短時間で組み上げた作戦の行動図だ。この通りに上手く行くとは限らんが、これで味方の増援迄粘ろうと思う。」

「わかりました。ではシミュレーションをスタートしてください。」「うむ。」

キャメルが促し、ニルがコンソールパネルを操作し作戦の概要が説明された。


約5分後


「やれるだけやってみるか、アヤメ」

「しゃーなし。多分このままだともたない可能性が高い。行くしかないよ。」

『すまん、二人とも』

ラークから形だけ申し訳なさそうな声が届く。

「気にしてないだろうけど気にすんな、やらなきゃやられるんだし。」

「そうそう、キャメルの言う通り。あんたはしっかり自分の役目を果たせばいいのよ」


そんな三人の様子を見てニルが口を開いた。

「アヤメ・ランバージャック少佐。この作戦概要通りに動いてくれ。海兵隊の指揮に関しては全面的に貴官に権限を委譲する目をつぶってやるから好きに暴れてこい。メビウス少佐、貴官に関しては元々私には直接の指揮命令権限はないが、私の事は気にせず動いてくれ。ただ、お願いになるが一人も死なずに戻ってほしいとだけ祈る。もし本艦の行動が貴官らの行動に支障となる様なら遠慮なく指示してほしい。」

『はっ!承知いたしました!』

昂る闘争心を抑えながらの敬礼。

「それでは小官らはこれで、先ほどの作戦データは小官とランバージャック少佐の艦に送って下さいませ。」

「MTGも私とキャメル二人とも常に通信回路オープンしておいて下さい。小官達はこれで。」

踵を返し艦橋を出る二人。


突入戦の始まりである

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