スピーカーと攻防し、チルい曲を流す夜

二八 鯉市(にはち りいち)

スピーカーと攻防し、チルい曲を流す夜

 愛用している無線スピーカーがある。

 基本的に推しの配信はじっくりヘッドフォンで聞くが、夕食を食べている間に何気なく流す動画などは、音を絞った無線スピーカーで十分である。


 だが、この無線スピーカーなのだが。

 音を出さずに一定時間放置すると、自動的に電源が切れるのである。


 それはまぁそういう仕様なのだろう。もしも、ずっとずっと電源がついていたりなどしたら、充電があっという間に減るのだから。そこは分かる。


 問題は、

・作業用のBGMをいったん止めて考え事をしている時に限って切れる。

・冷凍食品をホカホカにしてテーブルに置いた瞬間に切れる。

・『ご飯を食べる時に見る動画』を探している最中に切れる。

 などである。

 こやつ、なんか知らんけど『今切れなくてよくない!?』というタイミングで切れるのだ。


 考え事の最中に「電源切れます」などと言われた時には「いやだから今ちょっと考えてたんだって!」とこちらがキレたりなどする。お集まりの皆さん、これがテクノロジーの極み、機械が人間と共にある暮らし、すなわちSF世界の姿である。


 だが、我々人類はこういう機械のなんか独特の仕様に、「ウチらが慣れる事」で対応してきた。

 文章を打っている最中、「私がよく使う渡辺は渡邊なんだよ。毎日変換してるんだから覚えな。ほら、わたなべ。よし今日は一発変換出来たな偉いぞ」と分からせることや、洗面所の水がお湯になるまでの「あ、もうお湯なったかな? いやまだ水か……もうお湯? いやこれはお湯なりかけ? いやまだ水か……」の間に手早く着替えを済ませることなどである。


 つまり、「ちょっと離席するけど電源はつけっぱでお願いね」という時、離席中も雰囲気のいい音楽を流し続けることで、

「さーて食べよ」

「電源切れます」

「今から食べるんやろがい!」

を防ぐことができたのである。

 余談だが「え、それ別にこれから見る動画流せばよくない?」という意見に対しては、「だって動画の先の展開ネタバレ見てからシークバー戻すの嫌なのさ」と返したい。


 さて、このような人類と機械の攻防の果て。


 温めた冷凍チャーハンを運んできた私の部屋には、小粋なチルい曲が流れている。


 未来都市。人間と機械が攻防の果てに共存した世界に流れているのは、チルい曲、ないしはリラックスジャズなのであった。


<終>

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