第2話 児童を探そう
「………」
ソラの言葉を聞いて、一瞬頭がショートしかける。
え?異世界転移?
俺も最近読んでた小説にそういう題材あったけど、現実に起こるなんて夢にも思わないんだが?
リクも同じようで、思考が追い付いてない雰囲気してる。
どうしよう、めっちゃ気まずい。
オロオロしていると、不意にリクが顔を上げた。
沈黙していたが、ボソリと呟く。
「…僕ら、これからどうすればいいんだろう?」
飲み込みはっええなおい。
でも、それでも、だ。
いくら最上級生と言ったって、俺らはまだ12歳。
導いてくれる大人か、フォローしてくれる仲間が居なきゃ、ただの非力な子供だし。
リクの呟きに答えられずにいると、俺に代わってソラが言う。
「とにかく、今は情報を集めるしかないな。オレたち以外にも、生徒が居るかもしれないし、それなら早急に見つけなくちゃならないしな」
お、ソラの割にマトモな事言ってる。
確かに、俺も目覚めて間もないし、2人を見付けて話し合いするまでに、まだ1時間も経っていない。
ここで早く行動を起こさないと、現実に帰ろうにも帰れないし、何より3人だけじゃ心細い。
一層早く動かなきゃならないからな。
「…そうだね。とにかく、他に崖小の生徒が居るか確認しよう。僕は2階、3年生の教室や職員室を探すよ」
ソラの言葉を渋々といった様子で飲み込んで、リクがそう提案してきた。
自分はすぐ上の階を探すらしい。
まずは中堅学年の3年生や大人を見付けるためだろうな。
ソラもそれに賛同して、リクの案に乗っかった。
「じゃあオレは3階を探すよ。1年生と2年生の下級生が集まっているから、保護しやすい」
それっぽい理由を付けて、なっ、とソラがニコニコと俺に笑い掛けた。
その笑顔は絶対めんどくさい事から逃げる時の顔だな。悪いヤツめ。
捜索範囲の話し合いで、残った階と言えば最上階の4階。
つまり、一番疲れる役を、俺に上手く押し付けられたのだ。
俺は仕方なしに、4階──5年生と4年生の居る階──を探す事になった。
******
「はあ、よりによって4階かあ。ま、リクにやらせる訳にはいかないし、ソラも俺と違って体力ないし。しょうがないかぁ」
階段を上りながら、俺は独りごちる。
崖小は階段が一番キツイ。段数は多いし、傾きは急だし。
でも、俺以外の2人に上らせる訳にはいかない理由がある。
リクは、俗に言う病弱体質だ。
人よりも風邪を引きやすいし、その風邪を拗らせてちょっとした喘息にもなっている。
体育の授業ではいつも見学をしていて、なるべく激しい運動は避けていた。
持久走の時はみんな羨ましがっていたけど、リクの人柄からか、絆されて文句を言うやつは誰一人として居なかった。
それどころか、リクを過保護気味に守っていたし。
ソラはリクより体は全然丈夫だけど、如何せん体力がない。
幼い頃から家事をこなしていたソラは、俗に言うインテリ男子ってやつだな。
そんなこんなで、この3人の中で一番体力があるのが、俺って訳。
「(おっと、そろそろ着きそうだな。さ、5年生と4年生は全員居るのかなー?)」
階段を上り切り、廊下に出る。
めっちゃ静かだな。
これ5年生どころか4年生すら居なさそうだ。
一先ず5年生の教室を探してみる。
案の定というか、4クラス全員の代表委員が眠っていた。
1人ずつ叩き起こす。
「お前ら起きろー、とにかく起きろー」
「ん…」
「ぇ…ウミ先輩ぃ?」
「……」
「???」
「はへえ」
起こされた時の反応が、三者三様ならぬ五者五様。
起きる時の様子がそれぞれ違って面白いわ、これ。
って、こんな事してる場合じゃなくて。
まだ寝惚けている5人が完全に起きるまで待つと、リクたちと同じように外の景色を見せた。
案の定、固まった。
「ウミ先輩、これどういう事ですか?!」
強気に詰め寄ってくるのは
5年2組の代表委員で、いつもは副委員長を務めている。
生真面目な性格からか、堅苦しいのが苦手な5年生には、大体嫌われているらしいけど。
揶揄うの面白いから、俺は嫌いじゃないんだけどな。
「まあまあ、落ち着きなよコトミ。寧ろ、こういう時こそ楽しむべきだと思うなー」
そう言ってコトミを宥めるのは
5年1組の代表委員で、コトミの幼馴染だ。
のんびりした口調と性格が特徴的で、物事を楽観的に捉えるのが得意なやつだ。
今も、状況を理解した上で楽しむ気でいる。
肝据わり過ぎだって。
「私は、先輩の指示に従いますよ。よく分からない状況で無闇に動く方が危ないですから」
素直に飲み込んでくれるのは
柔軟な思考とコミュニケーション能力の持ち主で、様々な意見を取り入れた案を提案してくれる。
SNSを使いこなしてて、情報発信サイトでの投稿は度々ニュースでも取り上げられるらしく、巷では有名だ。
「俺も、モモの意見に賛成。まだ下級生も見付かってない状況だし、無闇に動くのは危険だ」
「…うん」
モモの言葉に乗っかって来たのは
軟派そうなチャラチャラした雰囲気だ。
委員会の時は一転して真面目に会議に参加している。
小学生にしてはイケメンだけど、俺は認めないからな。
ハルヒから遅れて頷くのは
ホノと似たような、おっとりとした雰囲気だけど、その頭の回転の速さで上級生を言い負かす強者だ。
ハルヒとは違って硬派な印象で女子に弱く、特定の女子とならある程度は距離感を置けば話せるらしい。
なんか5年生だけで集まって話し合い始めたんですけど。俺置いてけぼりなんですけど。
全くもう、委員会の時もそうだけど、5年生って俺の話だけ聞かないんだよな。
コトミ曰く、「先輩は胡散臭いんですよ」だって!
「あのー、5人ともー」
「何です?」
ちょっと雲行きが怪しくなってきた所で声を掛ければ、コトミに鬱陶しそうな視線を送られた。
地味に傷付く。
「や、その、俺4年生も探さないとだし。話し合いはあとでにしてほしいっていうか…」
そう、俺はここで足止めされる訳にはいかない。
5年生をさっさと説得して、一つ空き教室を挟んだ4年生の教室に向かわなきゃならないのだ。
4年生も、俺たち6年生やコイツら5年生のように教室内で眠っている可能性が高い。
でも、好奇心旺盛なアイツらの事だ、気を早くしすぎて外に出てしまっているかもしれない。
一人でも欠かしてしまえば、リクに怒られるのは目に見えている。
だから、なるべく早く4年生の捜索に向かいたかった。
「え、私たち以外にも、崖小の児童が居るんですか?」
「うん。俺ら6年生が一番に目を覚まして、そんで皆も居るかもしれないって事で探してる途中なんだよ」
言ってなかったっけ、と頭を掻きながら言えば、5年生はまた頭を突き合せて話し始めた。
軽く一言二言交わすと、息を合わせるかのように俺の方に向き直った。
「…分かりました。今はウミ先輩の言う事を信じます」
今の今まで散々否定していたコトミがやっと俺の主張を認めて、不満そうな顔をしつつもそう言う。
俺はそれに内心ほっとした。
だって、俺が考えうる最大の障壁と言えば、コトミだけだったから。
委員会でも、毎度毎度俺の意見に噛み付いてくる、よく分からない後輩。コトミに対しての認識はそのくらいだったし。
どうにか5年生を回収でき、俺は4年生の教室に向かう。
「なあモモ、ここって何の世界だろうな。俺、最近読んでる小説で、こんな感じの題材あったんだよね」
「そうねー、たぶんゲームの世界じゃない? そこまで詳しくはないけど、景色的な作り込みがゲームのような感じがする」
何かあったらまずいので周囲を警戒しつつ、ゆっくり歩く中、ハルヒとモモの話し声が聞こえた。
今そんな事考えている場合じゃないけど、確かにハルヒの言う通りだな。
ここは何処で、何の世界なのか。
その情報を集める為に崖小の児童を集めてる訳なんだけど。
呑気に話を続けている5年生を、ちらりと横目で確認する。
やっぱりここが何処か分からない以上、皆が一目で分かるようになっていなければなるまい。
コトミは肩までの長さに切り揃えられたセミロングに、絶対に動かないという意志を感じる、オールバックにしてピンで留めた前髪が特徴的だ。これならすぐ分かるか。
ホノは腰辺りまで黒髪を伸ばし、一房だけ三つ編みにして垂らしている。これも分かりやすい。
モモは耳に掛かるくらいのショートカット。桃のヘアピンを着けている。
ハルヒはちょっとカールしたツーブロック。センター分けの毛先も跳ねている。
ケンは四角い縁の眼鏡を掛けている。リクとはまた違った眼鏡だから、少し見れば分かるだろう。
「(案外やってけそうだな。勝手な行動さえしなけりゃ、この校舎でバラバラになる事もないだろうし)」
和やかな雰囲気の5年生に、トゲトゲした気持ちを削がれてしまった。
少しだけ警戒を緩めて、4年1組の引き戸に手を掛ける。
「そんじゃあ、4年生は居るかなー…」
そう茶化しながら、教室の中に躊躇う事なく踏み入った。
『グァゥルルルゥ…』
「…え?」
そこには、今にも人を襲いそうな化け物──
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