崖っぷち小学校!〜異世界でハンター生活頑張ります〜

潤谷ノイズ

1章

第1話 異世界転移した小学生

「ぁぎっ?!」



 自分でも驚くくらい、間抜けな声が出たと思う。

 顔がめっちゃ引き攣ってる感じするし、何より冷や汗がダラダラだ。



 悪夢を見た。それも、だいぶ精神にクるタイプの。


 内容はよく覚えてないけど、言葉じゃ言い表せないくらいの、薄暗さというか、心がギュッと絞られるような、そんな感じの。



 暫く浮遊してる様な感覚に陥り、ボーッと天を仰いでいた。


 目を覚まして最初に目に入ってきたのは、白いカーボン材で出来た天井の板。

 丸い小さい穴がポツポツあって、なんか蜂の巣みたいな不気味さを感じるアレだ。



 電気は…ついてない。

 窓も…カーテンが閉まっている。



 ん?待てよ?

 この天井は俺の家のものではない。

 それどころか、ベッドで寝ている筈なら感じるであろう、背中の柔らかさがない。心做しか、冷たさが伝わってくる。


 取り敢えず、起き上がってみる。


 案の定というかなんというか、俺が寝ていたのは教室の床。

 そう、床。

 だからか、めちゃくちゃ背中痛い。

 まあそれは置いといて。



 何で俺、教室で寝てたの?


 そう、問題はそこだ。

 教室に誰も居ないのも、何故かカーテンが閉まっているのも問題だけど、一番気になる。


 兎に角、俺の中の記憶を辿ってみる。

 俺が寝る前・・・そうだ、確か代表委員の集まりで、この教室に居たんだった。

 で、この教室は多分6年3組。俺が所属しているクラスだ。

 代表委員の集まりは、大抵この教室でやっている。

 理由は簡単、3組の担任が代表委員の担当の先生だからだ。

 自分が受け持っているクラスの教室でやった方が、色々と都合が良いんだと。


 まあそれは置いといて。

 立ち上がって、教室全体を見渡してみる。

 うん、今まで見てきた教室との違いはない。

 クラスの皆の掲示物が貼られた緑張りの壁、大きな最新型の電子黒板に、教卓の前に並べられた机。

 特に変わった所とかもないし、ここは6年3組で間違いない。


 薄暗くてよく見えないので、カーテンを開ける事にした。

 やっぱり外光を取り込んだ方が、人間の体は起きるもんなのだ。


 俺はカーテンを勢いよく開けた。



「・・・」



 そして閉めた。



 正直、目の前の光景がにわかには信じがたいものだったから。

 頭の整理が追い付かない。


 恐る恐る、もう一回開けてみる。


 そこには、子供が元気よく遊ぶ校庭──ではなく、一面の森林が広がっていた。

 南国にありそうな木から、神社の御神木として祀れそうなくらいの太さの大木まで、色んな種類の木がある。

 飛び交う鳥はカラフルで、鬱蒼とした森の中ではひどく目立っている。鳴き声も大分騒々しい。

 およそ日本にある森とは思えない、ジャングルだった。



 あれ、俺って確か日本に居たよなー?

 いつからこんな東南アジアっぽい場所に移住したんだろうな。

 なんて現実逃避は置いといて、フルで回しても理解が追い付かない思考を、一旦纏める事にした。

 流石に情報量が多過ぎる。


 迷う事なく俺の席に座る。こうするだけでも、何だか安心感が得られた。

 よく分からない状況に置かれると、人間ってかえって冷静になるもんなんだな。

 納得納得。


 おもむろに机の中を漁る。

 何時もグッチャグチャな俺の机だが、勝手知ったる自分の荷物なので、管理は徹底している。今までプリント一つ失くした事などない。

 自由帳と筆箱を引っ張り出し、机の上に広げる。

 流石俺、6本の鉛筆全てがピンピンに削られている。

 俺の鉛筆削りが毎日火を吹いている甲斐あるってもんだな。



 真っ白な自由帳を開いて、現時点で分かっている事を書き出してみる。


 先ず、自分の情報から。

 俺の名前は篠田シノダ胡実ウミ

 12歳の小学6年生。

 所属は6年3組で、代表委員を務めている。

 特徴と言えば、先生を唸らせる程度のイタズラと、そんな先生を言いくるめるコミュニケーション能力くらいか。

 そんな感じの、至って普通な小学生。

 まあ、よく分からない場所に居る時点で普通ではないか。



 次に、今までの事。

 俺は6年生の代表委員として、代表委員の集まりに参加。

 そこには各学年何人かずつの代表委員が、男女関係なく集まっていた。

 今回の議題は『昼休みの時間を長くするか否か』。

 昼休みの時間はのんびり過ごしたい人が多い事で会議は難航、最終下校間近になるまで話し合っていた。

 それで、俺が発言しようとして・・・。


 ダメだ、そこで記憶が途切れてる。

 何か切っ掛けみたいなものはあると思うけど、それ以上記憶を遡ろうとすると頭痛がしてくる。

 思い出すな、って事か?

 まあいい、それについてはまた今度探るとして。



 最後は、この場所について。

 まずまず、ここは日本ではなさそうだ。


 市立崖賀崎小学校しりつがけがさきしょうがっこう──名前が長いので“崖小”と呼ぶ事にする──は、少なくともこんな森の中にはないからだ。


 崖小は平地に建てられている。

 校庭は広いし、すぐ横に川と電車が走っている。この時点で電車の音が聞こえないので、ここは違う場所だろう。



 情報を纏めてみる。

 分かっている事としては、


 ・代表委員の集まりで、記憶が途切れている事

 ・ここは6年3組の教室である事

 ・ここは日本ではない事


 の3つくらいだ。

 もっと他の情報を集めるにしても、俺一人じゃ難しい。

 まず、ここが何処なのか分からない時点で詰んでいる。



 俺は盛大にため息を吐いた。

 一気にやる気を失くして、教室の床に寝転がる。

 クラスの皆が居ないからか、凄く寂しい。


 え?何なの?神様は俺になんか恨みでもあんの?

 でなきゃこんな詰みゲー与えられないでしょ。

 終わったー、これからどうしよ。


 ダメだ、もうこれ以上考えたくないや。



──────



 ん?ちょっと待て。

 代表委員の途中で俺が倒れたとしたら、他の代表委員が俺を助けたとしてもおかしくない。

 そもそも俺以外の代表委員が教室に居ない時点で不自然だ。


 もしかして。


「俺以外にも、この場所に誰かが居るかもしれないな」


 そうなのなら、善は急げというやつだ。

 俺は自由帳のページを千切り、畳んでポケットに仕舞うと、教室を飛び出した。

 教室を出た先には、普通の廊下。

 板張りで、真ん中に白線が引かれている。

 右側通行を守りつつ、俺以外の人間を探す。


 でもなー、この校舎4階建てだし、部屋の数多いし。

 一人で探すのは中々骨が折れた。



 漸く人を見付けたのは、捜索範囲の1階を探し終える頃。

 6年1組の教室に、2人程倒れているのを見付けた。

 俺は急いで駆け寄り、うつ伏せに寝転がっている2人を揺さぶって、どうにか起こした。


「ぅ、うーん・・・」


「起きろ、起きろ“リク”、“ソラ”!」



 とにかく揺さぶり続けたからか、迷惑そうに眉根を寄せて起き上がる2人。

 盛大なあくびをしながら、寝惚けた顔で俺に向き直った。



「あれ、ウミだあ。ソラも、何で僕らここで寝てたんだろう」


「リク、寝惚けてる場合じゃないんだよ・・・!」


「どうしたのウミ、なんか切羽詰まったような顔してるけど」



 俺よりも一回りくらい小柄な少年、リクこと海老原エビハラ璃空リクが、目を擦りながら呟いた。

 リクは俺の幼馴染で、サラサラのショートカットに丸縁の眼鏡が特徴の、6年1組の代表委員だ。

 俺よりも頭が良いもんだから、代表委員の集まりではいつも意見を纏めてもらっている。



「あれ、何でオレは1組に居るんだ? ウミ、何か知ってるか?」



 頭を掻きながら俺に聞いてくるこいつは松坂マツザカ奏浦ソラ

 とぼけた顔してるが、一応6年2組の代表委員だ。

 悪いやつじゃないんだけど、言動がいちいち面白いもんだから、ついついからかっちゃうんだよな。



 俺は二人を落ち着かせて、現時点で分かっている事を伝えた。二人は迷わず窓に駆け寄り、その光景に絶句する。


「えっ、本当にここ、何処なの?」


「それが分かったら苦労してない。情報集めようにも、一人じゃそれまでが限界だったから、そこまで分からないんだよ」


 リクが俺に聞いてくるけど、俺だって分からないんだ。


 結局何の情報も得られず、俺たちの間に沈黙が流れた。

 正直、気まずすぎる。


 そりゃそうだよな、いきなりよく分からない所で寝てて、3人だけ。

 心細いのもそうだけど、やっぱり不安なんだよな。

 俺だって怖いもん。



「…なあ2人とも、オレこの状況が何なのか分かったかも」



 暫くどうしようか心の中で考えていると、ソラが話し掛けた。

 リクは勢いよく振り返って、ソラの言葉の続きに耳を傾ける。

 一縷の望みに賭けたいんだろう。


 ソラは一言、神妙な面持ちで言った。



「これ、多分異世界転移ってやつだ」



「…マジ?」




 ──拝啓お父さん、お母さん。



 俺は今、異世界に来ちゃったらしいです。





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初執筆初連載です。

高評価よろしくお願いします。

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