第10話停滞

雫たちは駅で雅たち高校生組を見送り帰路についた。


「大丈夫でしたか?」

「うん、かなりやばかったけどなんとかなったよ」


朱乃は頭をかく。


「あれは使ったんですか?」

「…二回ほど」

「今回は私も後押ししてしまいましたが、使わなければいけないような状況は避けてください」

「ごめん…」


雫は怒りを抑えるように淡々と話す。それに対し、しゅんとして普段とは違い小さい声で答える。


「今どれくらい見えているんですか?…メガネも自分の視力に合っているものを使った方がいいですよ、片目でも合わなければ反対も引っ張られるとも言いますし」

「うん…」

「今日のMVPはあなたです。一番疲れているんですからゆっくり休んでください」


優しく声色を変えていたわりつつ朱乃と別れる。


「やっぱりバレてるよね」


朱乃はそう呟いて自宅へ向かった。



「で、どうすんだよこれから」


怪人Mは回転椅子に背もたれを抱える形で座っていた。

ゆっくりと回りながらノートパソコンのキーボードを片手で叩くビスマスに話しかける。


「まずは本部に報告をあげる。こっちはリーダー他大半がやられてるから人員の補充や他地区との合併まで視野に上が判断するだろう」

「敵の情報も要るか?」

「ああ、外のやつは俺は見ていないからお前に聞かなきゃならん。まず、外で待機していたのは何人だった?」

「3人、俺が以前会った黒い装甲持ちもいた。あとは黄色い弓使いと青い羽根付き」


パソコンのメモを開き聞いた端から書き留めていく。


「黒い装甲は前に本人がシャチつってたな、とにかく音で気持ち悪くさせてくる妨害役だ。戦闘技術は荒削りだがやたらと頭が回るのがめんどくせえ」


頭を掻いて嫌な顔をする。


「黄色いやつはなんか当たったところを壁や地面とヒモみたいなので引っ付けられる。当たればやばいし矢の軌道曲げてくる初見殺しだがわかってれば割と避けれる、実際人狼もバンバン避けてた」

「あいつが特殊なだけだと思うが」


ビスマスは一旦手を止めて苦虫を噛み潰したような顔をする。


「そうかもな、だが問題は羽根付きだ。あいつは特段変な能力持ちじゃねえ、ただ両手が羽になってるから飛べるだけ…だが動きが良すぎる。動体視力とかその辺りの問題かもしれんが初見の動きも見切って反撃してきやがるのは面倒どころじゃねえ」

「動物に変化するやつは動体視力がやばい。人狼も相当良かったはずだが…」


怪人Mは右手を振った。どうやら重要なのはそこではないようだ。


「それはあいつと同程度だが戦闘センス?がやべえ、一人で俺たち二人相手にしても膠着状態になるだけだろうな」

「そうか、それで全員か?」

「ああ」


ビスマスは再び視線を落とし入力を再開する。


「そっちのほうのやつはどんなだ?」

「赤いバッタみたいな動きするやつは以前おまえが遭遇したやつでまちがいねえか?」


今度は手を止めずに聞いた。


「ああ、まちがいねえ」

「そうか、よく逃げ切れたな」

「何があった?」


顔色を一切変えずに当時を思い出しながら話しはじめた。


「あいつはやばい、ただの脚力強化だと思っていたら三次元戦闘にも適応してくる」

「そんなのは分かってたことだろ?」

「ああ、それだけならまだ余裕で勝てる。背後からの攻撃も視界を封じた不意打ちも通用しねえ」

「ってことは初手あたりで広範囲攻撃ができる炎龍がやられて崩れたのか」

「ちがうんだ、やったよ…やったんだよ空中に放り出して!でもあいつは生きてやがった」


口調が一瞬強くなったがすぐに落ち着いたようだ。


「…鮫女の評価もあながち間違ってねえのか」

「こいつらの特徴をまとめて要注意人物として報告する。この対策は上に投げるしかない」


怪人Mは上を向いて椅子を再び回した。


「3歩進んで5・6歩下がった感じだな」



雫は自宅の床で横になって携帯を眺めていた。

イヤホンは片耳のみ付けている。


『〜解説…〜反応集…〜が〜で事故』


30秒のショート動画を半分ほど視聴してはスクロールを繰り返す。

部屋の置き時計は机の上にあり雫からは見えないため、携帯の端に視線をうつして時間を確認する。

22時53分と声に出さず読みしばらくこれからの行動をどうするか考える。

ゆっくりと起き上がり立て掛けてあるリュックサックからカップ麺を取り出してコンロの前に立つ。

カチッという音とともにガスに火がつき青白い炎がやかんの底を炙る。

携帯をいじりつつカップ麺の蓋を半分ほどはぎ、かやくの袋を取り出して中身を投入する。

冷蔵庫を開けるといくつかの卵やベーコン、チーズ等が見受けられるが、調味料が大半を占めていた。その中から卵を1つ取り、カップ麺の隣に置く。

換気扇を回すのを忘れていたことに気づきスイッチを入れると再び携帯に目を向ける。

沸騰する音を聞きガスを止め、カップ麺にお湯を注ぎ卵を落として蓋をする。


「いただきます」


視聴するのをショート動画からロングに切り替える。

3分を動画時間ではかり、蓋をあけて箸で卵の黄身を割って麺をくぐらせる。

動画をながめながらカップ麺を完食する。

汁を飲み干し容器をゴミ箱に放り込む。

箸を洗うと玄関の鍵が開く音がした。


「……」


入ってきた女性は無言で靴をぬぐ。


「おかあさん、おかえり」


彼女の母親は仕事の疲れか何も言わずそのまま歩き始めた。


「今度の人は?」

「うるさいわね」


第一声は不機嫌そうな返事だった。


「ご飯つくろうか?」

「外で食べたからいらないわ」


そう言って鞄を机の横に置き、プラスチック製の箪笥たんすからタオルを取り出して洗面所へ向かう。


「明日早いからもう寝るね」

「……」


返事は聞こえなかったが事前に引いてあった布団に入り眠りについた。

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