第7話 再開
「正気じゃねーですね。あんたら」
僕たちの向かいの席に座った竜人の少女は嫌そうな顔をしながらそう言った。
「一度殺されかけてる相手と組もうなんて、バカじゃねーですか」
「ま、僕は怪我とか負わされてないからな。リアナは……どうだ?」
「リアナはこの人のことをまだ許せないです」
リアナがそう断言するならば無理強いすることは出来ない。僕としてはちっちゃくて可愛い子が増えることは嬉しいが、彼女の意志を無視して決めてしまうべきではないだろう。
「クソガキは利口のよーですね」
「でも、組んであげます」
「は?」
リアナの言葉に怪訝そうな顔をする竜人の少女。これには僕も同じ顔をしていたに違いない。意図を読み切れず、僕たちは彼女の次の言葉を待つ。
「リアナは強くなる必要があります。ただ、今のリアナはまだまだ未熟です。それを補うために貴方が最適なのです」
「意味わかんねーことを言ってんじゃねぇですよ。ほかの連中でいいじゃねーですか」
「ほかの人ではダメです。『龍の心臓』を求めていた貴方だからこそ、リアナは必要だと考えたのですから」
僕らには秘密がある。決してほかの人にバレてはならない秘密が。これがあったからこそ、『龍の心臓』を狙った彼女を仲間にしようと考えたのだ。万が一バレたとしてもどうにか出来る人物だから。
「それに、お前にも利点はある。お前、まだ『龍の心臓』を狙ってんだろ?」
「『龍の心臓』の存在を知るのに何年もかかったんです。なのに、たった一度化け物に邪魔されたぐらいで心折れるわけねぇですよ。あんたにまた邪魔されようと、オレ様は諦めねぇです」
「なら、なんで目を合わせてくれないんだ?」
「……化け物とは極力関わりたくないって思うのが普通じゃねーんですか」
「誰が化け物だ。失礼な。僕は至って普通のちっちゃくて可愛いものが好きなだけの人間だ」
「何処も普通じゃねーんですよ、それ」
どうやら僕は普通では無いらしい。その事にショックを感じつつも、僕はコホンと咳払いをして話を戻す。
「とにかく、『龍の心臓』を狙うなら僕らと一緒に行動することが一番の近道だぜ」
「は? 何を根拠に言ってんですか」
「根拠は僕らからは提示できない。だが、お前は知っているだろ?」
受けた傷はそう簡単に癒せるものでは無い。今も鮮明に覚えているはずだ。あの時の僕の攻撃を。すべてを塵にするほどの理不尽を。
「仮にそうだとして、あんたら本当にいーんですか? 寝首を掻かれるかもしれねぇですよ?」
「寝てる程度で殺されないから心配するな」
「……そこのクソガキは?」
「リアナ、寝る時はレンさんに守ってもらってるので大丈夫です!」
「子供の寝る時間は大切だからな。邪魔するやつは容赦しないようにしてる。もちろん、お前も守るぜ」
安心させるように笑いかけると、何故か竜人の少女の頬は引き攣らせていた。
「無理強いはしないが、考えてみてくれ。多分だが、今、あんたは何もあてのない状態なんじゃないのか?」
「そーですけど」
「それなら新しい情報が手に入るまで、僕らと『龍の心臓』の関係を探ってみたらどうだ」
「…………わかりました。あんたらに利用価値があるうちは、協力してやりますよ」
熟考していた彼女だったがついにこくりと頷いた。これで話はひと段落、そう思っていた時、リアナが待ったをかけた。
「リアナ、仲間になるにあたって一つだけ譲れないことがあります」
「今更じゃねぇですか。変なこと要求するなら、さっきの話は全部なしになるだけですよ?」
「フレイお姉ちゃん――貴方が傷付けたもう一人に会ったらちゃんと謝ってください。リアナはそれで、貴方を許します」
少女は即答はせず、少し考え込む。今は頭の中で利益とプライドを推し量っているのだろう。だが、そこまで時間はかからなかったようですぐに顔を上げた。
「いーですよ。許されろってんじゃねぇなら」
「それでいいです。では、よろしくお願いします……えっと」
「アルシナ。オレ様はアルシナです。あんたらに利用価値があるうちは付き合ってやりますよ」
こうして僕たちは少し歪なパーティーを結成した。
「あ、リアナの方がパーティー歴は長いので、お姉さんと呼んでいいですよ!」
「はあ?」
☆ ☆ ☆
モスフォレストの洞窟。初心者向けとして有名なそのダンジョンの周りはいつになく活気づいていた。
「なんだこれは」
素材買取屋をはじめ、医療品の出店に道具屋、魔道具店の出店までやっている。
「レンさんレンさん! あれ! 串カツ食べたいです!」
「買ってきていいぞ」
「わぁい! 二人の分も買ってきますね!」
リアナにお小遣いを渡すと軽快にスキップをしながら屋台に向かっていった。相変わらず可愛い子だ。ちっちゃくて可愛い。
「最近、このダンジョンが下に続いていることが発見されたみてぇですよ」
僕たちよりも少し早くにこの街に来ていたアルシナは、首を傾げる僕にそう教えてくれた。
「大発見じゃないか。それはここまで活気づくのも納得だな」
発行証を受け取った僕たちはこれからこのダンジョンに挑む。下に降りなければ初心者向けなのは変わらないので、あまり気を張る必要はないのだがここまで活気づいていると少しばかり気後れする。
「所詮は初心者向けのダンジョンなんで、大してお宝はないでしょーがね」
「冒険者っていうものは一攫千金の機会があったら飛びつかずにはいられないからな」
ダンジョンで発見したものは原則として発見者のものとなる。そのため冒険者で一攫千金といえばダンジョンなのだが、既に発見されたダンジョンの宝の大半は根こそぎ取られているというのが現実ではあるが。
そのせいか、大したダンジョンでなくても未開拓であればこのようなお祭り騒ぎになるのも珍しくない。
「どーせそろそろ攻略されるんで、オレ様たちには何も関係ねぇですけど」
「え? そうなのか?」
「らしーですよ。なんでも――」
アルシナの声を遮るように、元気な声が割って入ってきた。
「お待たせしました! 串カツ二本です!」
リアナは満面の笑みで串カツを差し出してきた。口元にソースを沢山つけて。
「ああ、ありがとう」
「オレ様はいらねー」
「じゃあリアナが食べますね!」
「躊躇いねぇな……」
アルシナの返事を聞くと、リアナは満面に喜色を浮かべて串カツを一口で飲み込んだ。喉に詰まらせないか心配したものの、本人がケロリとしているので杞憂で終わる。
「おお、美味いな。これ」
タレがしっかりと染み込んでおり、タレの甘みと肉の旨みが絶妙に絡み合っている。これならいくらでもいけそうだ。
そんなことを考えながら食べていると、ふと視線を感じ取る。目を正面に向けてみると、ヨダレを垂らしながらジーッとこちらを見てきているリアナの姿があった。
「……リアナ、僕あまりお腹空いてなかったの思い出したんだけど、よかったら食べてくれないか?」
「しょーがないですね! リアナが食べてあげます!」
目にも止まらない速さで串カツを奪い取ると、リアナは早速とばかりにそれを頬張る。
「うぅーん! おいしーです!」
頬を押えながら感想を言うリアナを見ていると、僕も串カツを最後まで食べたかのような錯覚に陥る。
可愛さで腹がいっぱいになった僕は、そういえばと途中で終わってしまった会話を思い出す。
「そういえばアルシナ、さっき何を言いかけてたんだ?」
「さっきって……ああ、あの話ですか」
そう言って彼女は「大した話でもねぇんですが」と前置きをおいて話し出す。
「なんでも、最近有名なパーティーが攻略に入ったらしーって話を聞いたんですよ」
「有名なパーティー……?」
村に閉じこもっていたせいか、最近の有名人というのを把握出来ていない。僕が知らない二年間でどれだけ多くの人が有名になり、あるいは移り変ったのだろうか?
僕はそんなことを呑気に考えていた。だが、その考えは次の言葉ですぐに霧散する。
「確か、あの流星の迷宮を踏破したって言いやがるパーティーに所属していた一人を軸にしたパーティーなんだとか」
「……その一人って、誰のことだ?」
聞いたことのある名前を聞いて思わず固まってしまう。だが、彼女は反射的に問い返してしまったことを律儀に答えてくれた。
「確か名前は……『銀閃』のルーシェルだったですかね」
それはかつての仲間の名前で。
それを聞いた僕はそっとフードを深く被り直すのだった。
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