未開拓ダンジョンと約束の味

第6話 冒険者の街



 ――冒険者都市、クラヴァ=ナクス。

 街の中にいくつものダンジョンがあるこの街は、国中で最も冒険者が多い場所と呼ばれている。


「おぉー! カルヴァン村と違っていっぱい人がいますね!」

「冒険者が多いということは、彼らをターゲットにしている商売人も多く集まる。その結果、これだけの人がこの街に在住しているんだ。話によると、人口密度で言えば王都よりも上らしい」

「へぇー! よくわからないです!」


 そっか。よくわからないか。しょうがないな。

 目をキラキラさせて辺りを見回していたリアナが不意にこちらを見上げる。


「そういえば、レンさんはどうしてローブを着けてるのですか?」

「ああ、これ」


 黒いローブを身にまとう僕をリアナは不思議そうな目で見ている。確かに、彼女にこの姿を見せたことは無かったか。


「昔から人が多い場所ではこれを着ているんだ。ほら、目立たないだろ?」

「真っ黒なローブは普通に目立つと思いますけど」

「ははは……これは色々優秀なものだから目立たないんだよ」


 このローブには認識阻害の魔法がかけられている。僕を僕だと認識している相手には効果はないが、そうでなければ僕を見つけるのは困難だ。例え視線を向けたとしても、興味のない他人を見るかのように流される。

 欠点としてはいないことにはならないので、目以外で識別する相手とは相性が悪いことぐらいか。


「それじゃあ、これから宿に向かってからギルドに行くか」

「そのままダンジョンに行かないのですか?」

「あー……ここのダンジョンはちょっと特殊でな。発行証がないとダンジョンに入れないんだよ」


 初心者冒険者の無謀な挑戦を止めるため、ここのギルドが発行する証明書がないとそのダンジョンに入ることは出来ない。

 条件は色々あるが最も多いのは冒険者の等級による制限。それと発行料。後半はギルドの金稼ぎな気はするが。


「では、宿に行ってからギルドに向かいましょう!」


 るんるんと先導するリアナについて行く。

 この街での目的は主に二つ。一つは、ダンジョンでリアナに実戦経験、冒険の経験を積ませること。そして二つ目。


 それは――リアナの仲間を見つけること。



 ☆ ☆ ☆



 ギルドの中は喧騒に包まれていた。

 昼食を食べる者、依頼を探す者、何やら喧嘩している者までいる。数年ぶりの光景だが、こういうものは年を経ても大して変わらないらしい。


「それにしても遅いですねー。リアナ、待ちくたびれました!」


 注文したジュースをちびちびと飲みながら、リアナは足をパタパタとパタつかせる。

 今回僕らが発行を頼んだのは、この街で最も難易度の低いダンジョン。そのため、実りも少なく初心者の冒険者ぐらいしか挑まないようなダンジョンのはずなのだが、僕たちは順番待ちを長いことさせられていた。


「別のダンジョンへの希望が殺到して、全体的に人員が不足してるのかな」

「そんなことあるんですか?」

「新しいダンジョンを見つけた時とか、既存のダンジョンで新発見された時とかなんかはこんなことがある」

「おぉ! なら、リアナたちもそっちに行きましょう! 新発見は一攫千金のチャンスです!」

「その分、リスクも通常よりも高いけどな」


 話をして時間を潰すのでもいいが、今後のことを考えたらこの待ち時間も有効に活用するべきか。


「仲間を集めよう」


 僕がそう切り出すと、リアナは目を丸くした。


「え……もしかして、リアナに愛想を尽かしたんですか……?」

「違う違う。それは一生ないから安心して。そうではなくて、リアナの仲間を探そうって話」


 誤解を即座に解くと、リアナはほっと安堵したかのように吐息を零す。


「リアナ、別にレンさんだけで十分ですよ」

「そういうわけにもいかないだろ。仲間と協力することで僕やリアナとは異なる戦闘スタイルや考え方を学べる」


 僕は彼女の師になれるが、揃い並び立つ好敵手にはなり得ない。切磋琢磨する仲間の存在は、彼女が更に強くなるためには必須だ。


「でも、仲間を増やすのは難しいんじゃないですか。その分、リアナたちの秘密がバレる危険があるわけですから」

「そうだな。……そこが問題なんだよな」


 フレイリスを仲間に引き入れなかったのはもちろん本人の成長に僕が邪魔になるというのはあるけれど、その危険性を見逃せなかったという点もある。


「理想としては、ちっちゃくて可愛くて、向上心があって、僕らの秘密がバレても問題がない人がいいんだがな」

「最初の必要ですか?」

「むしろ再重要だろ」


 バレて巻き込んでも問題のない強さ、あるいは巻き込んでも心が痛まない人物。そんな都合のいい人物、そうそういるわけ――。


「――はあ? なにジロジロ見てやがんですか! 見せもんじゃねーですよ!」


 聞こえてくるのは高い声。僕は獣人族と違って耳が特別いいというわけではないけれど、一度聞いたことのあるちっちゃくて可愛い子の声ならすぐ分かる。


「……いた」

「……レンさん。本気ですか?」


 複雑そうな顔をするリアナ。だが、仲間に引き入れる、否、巻き添えにするという条件であれば彼女以外の適任はいないと判断したのだろう。引き止めはしなかった。


「久しぶりだな、ボルガス」

「あんた、誰でやがりますか。オレ様はボルガスじゃ――ひっ!?」


 僕を認識すると彼女は頬を引き攣らせる。僕は即座に逃げようとするボルガス、否、竜人の少女の肩を掴んで、リアナが座っている席を指さした。


「少し時間、いいか?」


 僕の問いかけに少女はプルプルと震えながら力なく頷くのだった。


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