第40話 介入

 「……うん」


 私は少しだけ躊躇しながらも、詩織の誘いを断ることなく頷いた。

 詩織は穏やかな微笑みを浮かべたまま、私の手首を軽く引く。


 「人気のない場所で話そう」


 その言葉に、私は何かを感じながらも、逆らう理由を見つけられなかった。

 

 そうして私たちは二人廊下を並んで歩く。

 そして廊下を歩いていると、ふと背後に視線を感じた。


 なんとなく嫌な予感がして振り返る——その瞬間。


 「……結菜……っ!!」


 鋭い声とともに、私の腕が強く引かれた。


 「——えっ?」


 何が起きたのか理解する間もなく、穂香が私を乱暴に引き寄せる。


 「ちょっ——」


 抵抗する間もなく、穂香は私の手を強く握りしめ、詩織から引き離した。


 「……っ!」


 穂香の目は、怒りと不安、そして焦燥で揺れていた。


 詩織を一瞥すらせず、まるで彼女など存在しないかのように扱いながら、穂香は私の腕を引いたまま、ぐいぐいと歩き出す。


 「穂香……?」

 「……黙ってついてきて」


 いつも穏やかで優しい声とは違う、低く、感情の押し殺された声だった。


 私は反論する間もなく、再び歩かされる。

 背後で、詩織が何か言った気がしたけれど、それは私の耳には届かなかった。


 ———そして、たどり着いたのは、校舎裏の誰もいない場所だった。


 「……穂香、どうし——」

 「なんで?」


 遮るように、穂香が低く呟く。


 「……え?」

 「なんで、そんなことするの……?」


 私の腕を掴む穂香の手が、震えている。


 「私、言ったよね……? 結菜は私のものだって……。言ったよね?」


 穂香の瞳は、揺れながらも、強い執着の色を帯びていた。


 「私だけを見てくれるって……言ったのに……」

 「……穂香、それは——」

 「どうしてすぐに破っちゃうの……?」


 掴まれた腕に、ぎゅっと力がこもる。


 「なんで私のこと、そんな簡単に裏切れるの……?」

 「裏切るなんて、そんな——」

 「……違うなら、なんで他の人と話すの?」


 穂香の手が、制服の袖をぎゅっと握ったまま、ゆっくりと動く。


 「ねぇ、結菜……」


 その言葉とともに、制服の襟元にそっと手がかかる。


 「ちょ、穂香……ここ、校舎裏だから……っ」


 私は慌てて穂香の手を押さえようとした。

 けれど——。


 「関係ないよ。結菜が私のものだって、ちゃんとわかればいい……」


 穂香の顔が近づく。


 ——誰かに見られたらまずい。


 焦る私とは対照的に、穂香の瞳は熱を帯びて、執着に染まっている。


 私がどうしようと焦っていたその時──


 「……結菜ちゃん」


 ——静かに、けれど確かに響く声が、空気を切り裂いた。


 瞬間、穂香の動きがぴたりと止まる。

 ゆっくりと振り向くと、そこには詩織が立っていた。

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