第20話 ◇復讐なんてしない



 義父親三浦の顔を見たら、復讐しようとしていた醜い

気持ちがいっぺんになくなった。


 自分がこれまで三浦のお陰で幸せだったことに

今さらながら気がついたから。



 幸せな人間は復讐なんて考えないものなのだということにも

気付かされた真樹夫だった。


 いつの間にか気がつけば、心の中で父さん……父さん……と、

三浦を慕っていた。



 俺の父さんは義父親三浦だけだ。



 時々こっちの様子見で俺と視線があうと、義父親はにこにこ光線を放ってくる。


 なんか泣けてくんなぁ~。

 しかし、彩乃はなんなんだよ。


 冷たいだ。

 こっちに一度も寄ってこない。


 彩乃と俺はいつも義父親三浦を取り合いするくらい義父さん

Loveだからな、今日は独り占めできてルンルンなんだろう。



 義父さん、もしも俺と彩乃のふたりが海で溺れていたら

小さくてそして何より実子の彩乃を先に助けるって分かってる。



 もし俺と母さんが危険な目に遭ったら、惚れてるか弱い

母さんを先に助けるっていうのも分かってる。



 だけど俺がひとり池に落ちたのを見たら絶対身の危険を顧みず

俺を助けるために迷わず池に飛込んでくれるって信じてる……

信じることができるよ俺。


 頼りにしてるんだ義父さん。


……



「当時から(真樹夫が病院内の託児所にいた頃)彼は君のことを

我が子のように可愛がっていたと聞いているが、今も家族同士の

交流があるんだね。

 彼は娘さんができた今でも君のことも気にかけてくれてるなんて、

1度機会があったらお礼言わないといけないね」



 何も知らない目の前の人はそんなふうに言った。


 何て言えばいいのか、こんな時。



 確かに実の父親すらしてくれなかった、あんなことやこんなこと

してもらったことはたくさんあるから礼は言ってもらって

大いに結構だが。


 真実を知ったあとでもちゃんと言ってくださいよっ……と。


           ********




「ねねっ、父さん」


 言いたくてむずむずしていた彩乃が言葉を発した。



「ん? 」


「マッキーさぁ、何してんの?

 あの一緒にいるおじさん誰? 」



「マッキーのもうひとりのお父さんだ」



「ふへぇ~、にいにいは父さんがふたりいンの? ねねっ」



「ン? 」



「じゃあさっ、私のもうひとりの父さんはどこにいんの? 」



「Hahaはぁ。

 残念だねぇ~綾乃の父さんは俺だけだ。

 ひとりだけしかいないんだな、これが」



「え~、ずるいじゃんね、マッキー。

 これじゃあお年玉くれる人がマッキーにだけ増えるじゃん」


 と、まだ9才になったばかりの彩乃が抗議した。



「おまぃ……お前……いい子だねぇ~。

 父さんはそういう発想のできる子が大好きだよっ」




 「そっ、そうなの?」


 ここで父親に好きだと言われ照れる彩乃。



 ふたつの席でそれぞれに会話が進んでいるなか……

ついについに……じゃじゃじゃぁ~ん!!



その女性ひとが現れたのだった。




「冬馬くん、どうしたの?

 至急来たれしって、電報みたいなメール。

 走ってきたんだけど何があったの? 」



 三浦は視線で亜矢子に事態を知らせた。



 実は今日この場所で真樹夫が元夫の英と会うことを亜矢子も

知らなかったのである。


 英からコンタクトがあって近々会うことになりそうだ

という話は真樹夫から聞いてはいたが。



「みっ、三浦くん……ちょっと心の準備が出来てないから

 私はこのまま帰るね。

 じゃぁ……」


 亜矢子は急いで踵を返した。



「えっ? へっ? ちょっ、待……って。

 亜矢子さん

 あなた、ここにいる登場人物を皆んな振り捨てて行くんですか?

 行くんですかぃ? 」

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