第19話 ◇恨みまぁ~す?




  母さんが言った。


「真樹夫の実のお父さんのこと恨んでる? 」



「う~ん、どうだろう。

 恨んで……ない、たぶん。

 だって俺にはいつもにぃにぃ(三浦)がいたからなぁ~。

 流石に父親だとは思ってなかったけど幼心にも大人の男の人

だったから頼りにしてたんだろうね。


 ほんとの父親になってくれた時はすんごくうれしかったの

覚えてるよ。

 ずっとにぃにぃみたいな父親が欲しいと思ってたから。


 にぃにぃが俺の側にいてくれるようになってからずっと

神様にお願いしてたもんね。

 僕ににぃにぃを下さいって。

 他所の子のモンにはならないでって」



 母さんに今まで話してなかった今の父親に対する気持ちを

俺はこの時、初めて話した。


 「三浦くんは昔も今も私たちの癒しだね」

って母さんが言った。



 「ン……ぅん」


           ◇ ◇ ◇ ◇



 帰国してまずしたことは、真樹夫に会うことだった。


 ずっと夢見てきた息子に、俺の息子に会えるのだと

思うと俺の心は歓喜で打ち震えた。



 真樹夫がファミレスがいいと言うのでカジュアルに

ファミレスで会うことになった。



 しかし、迂闊だった。

 俺は真樹夫の今の姿を知らないじゃないか。


 それ相応の年頃の少年を探せば分かるかと自分を安心させたものの、

その日その時に限ったことなのかいつもそんなふうなのか、そこには大勢の

男女の若者が座っていた。



 そだ……落ち着けぇ~、ひとりで座っている若者なんてそうそういまい。


 店内を改めて見回した。


 遠めにひとりガタイの良いなかなかの容姿端麗な少年が

視界に入り込んできた。



 とりあえず、間違いがあってはいけない。

 確認だけはしないと……。


 俺は歩を進めた。

 俺が席に近付くとその彼は俺の方に顔を向けてきた。


 「失礼だけれど君が真樹夫くん?」



 「……。はい、真樹夫です」



           ********



 目の前の息子は3才の頃の面影はなかった。


……というより、俺自身が3才の頃の息子の顔を全く思い出せないことに

愕然となった。



「ぃやぁ、大きくなってりっぱになったね。

  驚いたよ」Haha、乾いた笑いが出てしまった。


 「ところで母さんは元気にしてるかい? 」



「あぁ、はい。頑張って患者さんたちを診てますよ」



「そっか……」



 18年振りに会った親子の会話がそうそう続くわけもなく……

会話が途切れた頃、返事をくれなかったハガキのことを

持ち出して少し苛めてやろうかと真樹夫が思った矢先……。



 ひゃぁ~彩乃が連れてけって言ったんだろうな、容易に推測

できる展開で義父親三浦が彩乃といっしょに店内に入って

くるのが見えた。


 妹の彩乃はここのお子様ランチが大好きで

よく義父さんにリスエストするんだよなぁ~。 



 2人のことが気になって真樹夫は目の前の人の話を

し半分にしか聞けなくなっていた。


 なんか、俺の耳に通り過ぎていった虚しい言葉の数々は

『また一緒に暮らせたら……』とか、そんな言葉の羅列のよう

だった。



「はぁ、ひぃ、ふぅ~、へぇ~ほぉ」と俺は心ここに

あらずで相槌を打っていたようないなかったような。


 そんないい加減な相槌でも目の前の男はうれしいようで

ずっと話し続けた。



 義父親三浦が俺に気付いて近付いてくる。




「よっ、マッキー……今夜は俺の手料理だからな。

あんま、食べ過ぎんなよ。外食は太るしな」



 俺が義父親三浦を見ると同時に目の前の実父も義父親の

方を見た。


 互いに面識があったのだから、すぐに相手のことに気付いて

大人の挨拶を交わした。



           ********




「あっ、これはお話中失礼しました」そう言い残して

義父親三浦は彩乃の座っている席へと戻って行った。



 義父親には実父に会うことを話してなかったので

真樹夫はかなり焦った。



 一方三浦のほうは予め亜矢子からちゃんと話を聞かされて

いたので真樹夫と向かいの人物を見て大体のことは想像が

ついた。



 この店に来たのはたまたまだったのだが、真樹夫が

男性と向かい会ってるのを見てピンときてしまった。

ピンと……きちゃったのだ。


 様子見だけしていればよかったものを何故か真樹夫に

突然声かけしたくなってしまった。


 なんでだぁ~?

 はて……。


 真樹夫の実父親に対する対抗心なのか?

 それともたんなる興味だったのか?

 独占欲だったのか?


 真樹夫に声をかけ、実の父親にも簡単にだが挨拶をした。


 考えていくうちに何となくおぼろげに自分の心の

内が見えてきたような気がしてきた。


 俺は何も知らないアイツに、真樹夫の実の父親に

真樹夫の父親は俺なんだって無意識に言いたかったのかも

しれないなぁ。


 お前より強く真樹夫を愛しているんだよぉ。

 絶対そこは負けんっ……って。


 そんな気持ちがどこかにあって、あんな言動に

はしってしまったのかもなぁ。



 まぁそんなやこんないろいろ考えを巡らせてみたものの

人間ってヤツは時々自分でもあとからいくら考えても

理由を説明できない言動をとることが一生のうちに

一度や二度あるんじゃないかなぁ。


 そんなふうにも思えてだんだんグダグダになっていきそうになり、

俺は自分に言った。


 もう忘れろ、彩乃の相手に集中しろ、と。

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