第18話 ◇身勝手な望み



 不妊を隠されていたことで、俺たち夫婦の間に小さな溝ができた。

 その溝が埋まることはなかった。


  

 俺が子供に拘らなければできなかったモノなのかもしれない。


 しかし、目覚めてしまった感情はどうすることもできなかった。


 子供、子供……俺は自分でも分からないんだな、これが。


 亜矢子と離婚する時だって息子のことなど微塵も責任や

感傷なんてものに心動かされることはなかった。



 それが子供が欲しい、育てて慈しみたい、そんな感情が

芽生えてしまった俺には不妊を黙って結婚した再婚相手を

許すことができなかった。



 過去は……自ら捨て去ってしまった過去は戻ってこない。

 そんなことは百も承知。



 子供以外のことでは仲良く楽しく暮らしていたのに再婚

相手の景子をどうしても許せない自分。



 渡米先でそんなごちゃまぜの訳分からん状態のカオスの

中にいた俺は、離婚後亜矢子に会うのが怖くて日本に

帰国できず、10年余りをここ米国で過ごしてきた。


 再婚相手の景子とも別れてしまった。


 こちらでもう一度結婚相手を……と思わなくもなかった

けれど如何せんここは異国で、おいそれと同国のお相手が

見付かるはずもなく今だシングルだ。



 亜矢子と真樹夫はどうしているだろうか。

 ふたりの生活をずっと続けているのだろうか。


 帰国を前に矢も盾もたまらず真樹夫に連絡を

してしまった。


 真樹夫とは親子なのだからいつでも会いに来て、と言って

くれていた亜矢子は一度も会いに行かなかった俺なのに

真樹夫にスマホを持たせた時から俺がいつでも連絡取れる

ようにと真樹夫のアドレスを送ってくれていた。



 

 一度も会いに行かず、一度もメールすらしたことのなかった自分。


 果たして連絡が、返事が……息子から来るのだろうか。



 メールを送ったものの、連絡の来ない数日間、胸をドキドキ

させながらあるかないかの返信を待っていた。

 


           ********




  キターっ!!


  真樹夫から返事が届いた。


 どうやら会ってもらえそうだ。

 拒否られることを考えるとメールを出すことはかなりプレッシャーが

あった。


 だが、こうなってみると本当に出して良かったぁ~と

しみじみ思った。

 

 俺が離婚を突きつけ亜矢子の元から去ったのは確か

真樹夫が3才の時だったと思うので、実に18年振りの

再会になる。



 人事のようだが18年、そんなに月日は過ぎていたのか、と

思った。なんか夢を見ていたような気までしてきた。


 そんな夢見ごこちの俺は、心のどこかで亜矢子たちとの

暮らしを考えていた。



 真樹夫との再会した時の様子次第で、亜矢子にも連絡を取り

復縁を申し出てみるつもりだった。



 13年も過ぎているのだから、当時の俺の身勝手を許して水に

流してくれるんじゃないだろうかそんなふうに思っていた。



 俺は亜矢子を嫌いになって別れたわけではなかったのだし。


 景子の派手なひと目をひく美貌と勝気な性格と野心、そんな

ものに心を奪われてしまっただけのこと。


 ただの気の迷い、少しの浮気ごころからのものだった。


本当に愛しくて大事な相手は亜矢子だったと、景子と別れた時に

再認識していたけれど、亜矢子を裏切った罪悪感から今まで復縁を

言い出せずにいたが、今回の帰国を機に自分の本心を君に話したくなった。


そんなふうに亜矢子に自分の心からの気持ちを聞いてもらおうと考えていた。

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